番外 薄幸の少年リード(第一部)
貧乏な少年リードは、ずっと自分が哀れな不運児だと感じていた。
彼の父はかつて職人だった。祖父から受け継いだ革靴の工房を持ち、家族を支えていた。だが、リードの祖父が亡くなると、父は自らを放縱し始めた。工房を弟子や雇い人に任せ、外で遊び、ついには賭博に手を染めた。
賭博にハマった父は、たちまち工房を失った。リードがまだ七歳にも満たぬ頃、内城の小さくも清潔で快適な家から、中街近くの雑踏と汚濁に満ちたボロ屋へ引っ越した。そこは、賭場により近かった。
リードの母は、鞍や馬具を商う教養ある商家の出身だった。祖父が健在だった頃、両親が決めた縁談で父と結ばれた。リードは幼い頃、母が厳格ながらも辛抱強く自分を育て、礼儀を教え、汚い言葉を禁じ、人に優しく接するよう諭したことを覚えている。あの頃、リードはまだ小さかったが、その教えは深く心に刻まれた。
だが、父が完全に堕落した後、母は父と口論し、激しく殴られた。リードは幼く、母をどう慰めればいいかわからず、ただ母を抱きしめて一緒に泣いた。
すると、父はリードが泣くのを見て、母の腕から彼を引きずり出し、床に叩きつけた。
これがリードが初めて受けた暴力だった。以後、彼が受ける暴力はますます増えた。
父は様々な口実で母の実家から金を借りていたため、母がリードを連れて実家へ戻ろうとした時、実家は門を閉ざし、母子を追い返した。
彼ら母子は重荷と見なされた。
その日、リードは母がひどく傷心して泣くのを覚えている。そしてその後、母は病に倒れた。
リードが九歳になり、多少のことができるようになった時、父は彼に盗みを強要した。従わなければ、リードを殴るだけでなく、寝たきりの母も殴ると脅した。
リードに選択肢はなかった。
母は病床についてから、ほとんどリードと話さなくなった。ただ疲れた目で窓の外、汚れた紫都の街路をじっと見つめるだけだった。
それでもリードは知っていた。母は、この世で唯一自分を愛してくれる人だと。かつてはそうだったとしても。
だから彼は、屑な父の言う通りに、地元のギャングに加わり、盗みを働いた。
だが、彼の手は不器用で、よく見つかり、ボコボコにされた。それでも、相手は彼が小さく汚いからと、手を汚すのを嫌い、すぐにやめることが多かった。だから、稼ぎの主は、裕福な通りで膝をついて物乞いすることだった。哀れな姿は、しばしば多くの金を引き寄せた。
それがリードの「強み」だった。
そうして何年も過ぎ、母の病は重くなる一方だった。頻繁に咳き込み、父は毎日姿を消し、金が必要な時だけ、酔い潰れてふらふらと帰ってきた。
リードは計算した。毎月ポニー親分に上納する金と、父に脅し取られる金を差し引くと、母の薬を買う金は足りなかった。彼は薬屋の前で跪き、安くしてと懇願するしかなかった。
ある雨の日、物乞いしながら、リードは突然思った。
『母さんが死ねばいい。そうすれば、父なんかどうでもよくなって、紫都を逃げ出して、どこかで暮らせる。』
だが、自分が何を考えたかに気づいた瞬間、彼は耐えがたい苦痛に襲われた。
彼は泣いた。母が死ぬことを思っただけで泣いた。
母を連れて逃げられないこと、父を倒せないこと、薬代を払えないこと、すべてに泣いた。
自分の無能さに泣いた。
だが、その日、リードはいつもより多くの金を乞い集めた。人々は、雨に濡れて嗚咽する彼を、金毛の子犬のようで哀れだと感じたからだ。
リードには憧れの存在がいた。一歳年上のサム(Sam、リードが男装のルクスを知る名)だった。
彼はサムを羨んだ。この若者は自分より背が高く(紫都では一メートル六十でも高くはないが、一メートル五十のリードよりは高い)、ハンサムで、しかも強い。サムが妹ミティをからかうチンピラ二人の腕を折った話を聞き、リードは心底憧れた。そんな強さがあれば、屑な父を家から叩き出し、二度と戸口に近づけさせないのに。
それに、サムは金も稼げた。ミティを頻繁にケーキ屋へ連れて行き、毎年新しい服を買えた。
地元の小頭目がサムを誘い、用心棒や保護費、借金取り立ての仕事に就かせようとした時、サムは断った。それがリードのサムへの尊敬をさらに深めた。
リードは本気で、サムのような、責任を負える人間になりたかった。
ある日、サムがうっかり落とした藍銀貨を拾って返したことから、彼らは友達になった。
サムはリードが腹を空かせた時、パンを差し出し、他のチンピラに囲まれて苛められた時、助けに入ってくれた。
リードにはそれまで友達がいなかった。中街のチンピラたちは、汚い言葉を言わず、乞食や泥棒に落ちても礼儀を気にする貧乏なリードを軽蔑した。
サムは彼の初めての友達だった。だからリードはそれを大切にし、どんなに困ってもサムに金を借りる勇気はなかった。
その後、リードは光明教の恵浴師に出会い、その家で神術を見せられ、希望を感じて入信した。そしてサムと再会し、サムからいくらかの金を貰った。
リードはサムの為に祈った。サムが自分のような不運に陥らず、幸せに暮らせますようにと。
その時、リードは今日が人生で最も幸運な日だと感じた。もしかしたら、母の病も癒えるかもしれない。そうすれば、母を連れて光明教の国へ行ける。恵浴師になれなくても、革靴職人になれるかもしれない。リードは祖父の記憶すらないが、祖父のような熟練の革靴職人にずっと憧れていた。
そう考えながら、彼は一回分の薬にも足りない薬を買い、家へ帰った。
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