第17話 悪獣と恵浴師
ケインの巨爪が再び膨張し、爪の背に野獣の牙のように鋭く尖った逆棘が一列に生えた。
彼はルクスに向かって巨爪を素早く振り回し、ルクスは影魔法を駆使し、黒い盾を凝結させてケインの攻撃を防いだ。
「バン!バン!バン!」と、森の中で衝突音が絶え間なく響いた。
「もう打ち疲れたか?」
ルクスは両手を前に押し出し、黒い波濤をケインに叩きつけた。
この一撃に対し、ケインは即座に両爪を交差させて身前に構えた。
「ドゴォ――!」黒い巨浪が巨爪に激突し、ケインの巨体を数十メートル後退させた。
彼の巨大な後足は地面に二本の深い溝を刻み、爪の表面は凹凸だらけになった。
だが、わずか数秒で、その損傷は回復した。
「お前の魔法……魔力はなかなか豊富だな。」
ケインは評価するように言った。「ただ……魔力の運用技術が粗すぎる。無駄が多すぎるんだ。」
「じゃあ……これならどうだ?」
次の瞬間、漆黒の影が鮫のように四方八方からケインに猛然と襲いかかった。
これらの「黒影の鮫」はケインに接近すると、一部が炸裂し、黒い尖刺となって彼を突き刺し、残りはケインの周囲を迂回し、攻撃の隙を探した。瞬く間に、ケインを包囲した。
ルクスはゆっくりと掌を開き、五指を広げ、突然強く握り潰した。
「締めろ!」
刹那、すべての旋回し、泳ぐ黒い「鮫」が一斉にケインに飛びかかった。
そして炸裂し、細かな黒刺となり、暗影で織りなす殺意の網を形成した。
「【骨棘の鎧】!」この一撃に対し、ケインはもはや手加減しなかった。
森然たる白光を放つ骨棘が彼の腕、両脚、胴体から生え出した。
これらの骨棘は急速に広がり、彼の全身を隙なく覆い、両目だけを残す白い骨甲を形成した。
鋼鉄をも貫く黒刺が骨甲に衝突し、「チンチンカンカン」と鋭い音を立て、骨甲はすべての黒刺を弾き返した。
「ついでに教えてやるよ。」
ケインの声が骨甲の中から響き、どこか得意げな笑みを帯びていた。
「この【骨棘の鎧】は、俺があのリオって野郎に対抗するために苦心して編み出した技だ。残念ながら……猟魔人学院を卒業してからようやく熟練したんだ。今日、まずはお前の身体でその威力を試させてもらうぜ。」
ケインの背中が突然二つの裂け目を引き裂き、血肉に覆われ、先端に鋭い骨刃を備えた二本の長鞭が飛び出した。
鞭の骨刃はなおも蠢き、狂躁と危険な気配を放っていた。
そして、彼は骨甲に覆われた巨爪で、ルクスに向かって奇妙だがどこか騎士風の礼を施した。
「さて、この……魔法の使い方がまだ『新米』のお嬢さん、俺が本物の……魔法戦闘ってやつを、たっぷり見せてやるよ。」
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ケインはルクスに突進し、両の巨爪を握り合わせ、骨槌のようにルクスの足元の地面を叩いた。ルクスは身体を横に転がした。
だが、彼女の足元の地面が炸裂し、鋭い骨刺が土を突き破り、彼女の足裏を貫いた。
続いて、ケインの背中の二本の血肉長鞭が振り出され、鞭の先端の骨刃が鋭い音を立てて空を切った。
ルクスは影の壁で一本の長鞭の抽打を防いだが、もう一本の長鞭は地面に潜り、ルクスの足元から飛び出し、彼女の顔を直刺した。
影の円盾が不意打ちの骨刃長鞭を防いだ。
その長鞭の骨刃は、防がれた瞬間に毒蠍の尾鉤のように反転し、跳ね上がった。
逆鉤はルクスの肩に食い込んだ。鋭い鉤が骨に深く刺さったが、ルクスは躊躇せず、影魔法で影刃を凝結し、長鞭の鞭身を斬ろうとした。
だが、影刃は半分切り込んだところで進まなくなった。
長鞭の核心は、堅牢無比な白い骨骼が密に連なって形成されていた。
同時に、長鞭から強烈な引き寄せ力が伝わり、彼女をケインの元へ引きずろうとした。
危機的状況下、ルクスは影刃を駆使し、自分の肩を切り、骨の一部と共に大きな肉塊を切り落とした。
その血肉を長鞭に巻き戻させた。
「ほぉ……勇敢な小娘だな。」
ケインはルクスの自傷行為を見て、一瞬驚き、わずかに息を荒げた。
先の一連の攻撃は、ケインにとってもかなりの消耗だった。
ルクスは素早く後退し、距離を取った。
彼女の心が動くと、胸元に【癒花】が現れた。
布花は柔らかな光を放ち、魔力が駆動した。
骨刺に貫かれた足裏、逆鉤に引き裂かれた肩――血を流していた傷口は急速に癒合し、すぐに傷跡すら見えなくなった。
だが、ルクスの顔は蒼白で、大きく喘いでいた。
全身の傷の回復と、先の黒影披風の使用は、彼女の魔力をあまりにも大きく消耗していた。
激しい戦闘と失血は、彼女をすでに疲弊させていた。
「何?! 治癒魔法?! どうしてお前が二種類の異なる属性の魔法を同時に使えるんだ?!」
ケインはこの光景を見て、顔に驚愕と困惑を浮かべた。
やがて、彼の視線はルクスの胸元の布製の小花に落ちた。
「魔法道具?! お前、いつそんなものを……」
「知りたい? 有料相談だよ。一問一閃金幣。あるいは、今俺を逃がしてくれれば、月額無料の相談サービスをくれてやるぜ。」
「そうか? なら、いいや。その質問……俺にはそんなに重要じゃねえみたいだ。」
ルクスは目の前の局面を分析した。『こいつ……全身があの妙な骨甲で隙なく守られてる。しかも、影魔法にはめっちゃ詳しいみたいで、対策まで研究してる可能性すらある……正面から殴り合ったら、絶対勝てねえ。だが、こんな変形形態を維持する魔力の消耗はでかいはずだ。絶対に長持ちしねえ。もし……なんとか時間を引き延ばして、力尽きるまで持ちこたえられれば、勝機が……でも、俺とこいつの一騎打ちならまだしも、今一番心配なのは……』
遠くの夜空から、貪欲と苛立ちを帯びた声が響き、ルクスの不吉な予感を裏付けた。「おい! ケイン! どうなってんだ?! こんなに時間かかって、まだこの1690閃金幣の女を片付けられねえのか?!」
二つの浮遊する赤晶石を足元に踏む人影が、ゆっくりと空中から降りてきた――財福教派の恵浴師、ブラッドその人だった。
「ここまで急ぐのに、藍銀貨20枚分の魔力水晶を追加で使っちまったんだぞ!」
ルクスの心は一瞬にして奈落の底に沈んだ。
彼女が最も恐れていた事態が、ついに起こってしまった。
あの貪欲で強力な恵浴師ブラッドが、追いついてきたのだ。
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