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第16話 深林の奥と最悪の紳士

✦•······················•✦•······················•✦


ルクスは慎重に土の道の端に潜み、周囲の気配を窺った。安全を確認した後、彼女はその小道をたどり、さほど高くない丘へと素早く進んだ。


やがて、ルクスは丘の頂上に辿り着いた。


彼女は遠くを見やった。正面には、緑の海のように深淵な森が広がり、


背後には紫都しとの方向――そこでは炎の光が完全に消え、死寂の漆黒だけが残り、死の都と化していた。


右側には、幅広い川が流れ、その上には大きな橋が架かり、左側には依然として果てしない森が広がっていた……


「前方には誰もいないみたいだな……この道をもう少し進むか……それとも……森に潜り直して、あの橋の方向へ向かうか?」


ルクスは少し考え、結局、道に沿って森に入ることに決め、丘を下り、叢林に再び潜り込み、土の道の方向へ進もうとした……


その時、ルクスは突然、何か……非常に特異な「虫」が、彼女の周りを旋回しながら飛んでいるのに気づいた。


森の虫は元々多く、特に夜の帳が下りる時にはなおさらだ。


だが、この「虫」は、特別だった。


それは……翅が透明で、蜻蛉のような形の「虫」だった。


紅玉のように透き通った体を持ち、朦朧とした月光の下で、微かな蛍光さえ放っていた……


いや、これは虫ではない。これは……飛ぶ宝石だ。


ルクスが異常に気づいた瞬間、その「宝石虫」は眩い赤光を放ち、


そして――爆発した。


爆発の衝撃が丘の頂上全体を席巻した。


ルクスは爆発の刹那、【黒影披風こくえいひふ】で全身を包み込み、爆風に煽られて吹き飛び、隣の林に叩きつけられ、「ガシャッ」と碗の口ほどの細木を折った。


「チッ、火系の赤晶石を一粒使っちまった。藍銀貨らんぎんか十枚分くらいかな。」


どこか得意げで、かつ惜しむような声が、森の影から響いた。


「だが、俺の運はすこぶるいい――いや、俺たちの運がいいと言うべきか――彼女が本当に魔法を使った! これで、彼女があの忌まわしい反抗軍と一味だってことが確定した! こうなれば、この可愛い首の値は、一気に閃金幣せんきんへい200枚まで跳ね上がる! もし彼女があの「冒涜者の欠片」を持っていたら……さらに大儲けだ、閃金幣1000枚だ! ハハハハ!」


狂気じみた笑い声と共に、金糸で縁取られた華麗な白袍をまとい、紅宝の頭冠をかぶった男が、森の影から姿を現した。


その装いから、彼が財福教派ざいふくきょうは恵浴師けいよくしであることは明らかだった。


その傍らには、黒袍をまとい、片手に厚い包帯を巻いた男が従っていた――これは猟魔人りょうまにんだ。


「そうそう、お前もいたな、ケイン。」


恵浴師はようやく傍に手下がいることを思い出したようで、猟魔人ケインを一瞥し、まるで大きな決断を下したかのように歯を食いしばり、どこか「俺は本当に寛大だ」とでも言わんばかりの口調で言った。


「もしお前がこの女を生け捕りにできたら、俺は……八二で分けてやる! ……いや! 七三だ! これでいいだろ?!」


「ふむ……ブラッド様。」猟魔人ケインは礼儀正しい微笑みを浮かべ、淡々とした口調で答えた。


「標準の手順として、まず信号弾を放ち、近くの同僚に知らせるべきではないでしょうか?」


「何?!」ブラッドと名乗る恵浴師は即座に跳び上がり、甲高い声で叫んだ。


「人が増えれば増えるほど、俺が……いや! 俺たちが! 得られる分け前が減るってわかってんのか?! この女がこんな僻地の道を選んだのは、すでに俺たちの運が良かったんだ! 何かあったら俺が責任取る! だから、今は全部俺の命令に従え、わかったか?!」


「承知しました、ブラッド様。」


ケインは頷き、ブラッドの反応に驚く様子もなく、


この「ブラッド様が責任を取る」という約束は、彼がこの貪欲で愚かな男の手下となってわずか一年で慣れ親しんだ標準の手順だと知っていた――なぜなら、ブラッドがこの約束をしなければ、何かミスが起きた時、こいつは迷わずすべての責任を自分に押し付けるからだ。


「それと……ブラッド様。」


ケインは顔を上げ、微かな笑みを浮かべ、ルクスが消えた方向を指さした。


「あの女……俺たちが話してる隙に逃げちまったみたいです。そろそろ……追いかけますか?」


その口調は、まるで注意を促すようで、どこか……嘲るようでもあった。


「何?! 俺の1200閃金幣?! ……いや! 840閃金幣だ!!」


ブラッドはすでに、ルクスが「冒涜者の欠片」を持っていると勝手に確信していた。ケインの口調の嘲りに気づかず、即座に急かした。


「早く! 早く追いかけろ!」


「御意、ブラッド様。」猟魔人ケインは軽く一礼し、腕に巻かれた包帯を解いた。


包帯の下に現れたのは、まるで干尸のような漆黒の腕だった。


だが、包帯が完全に解かれるや否や、その枯れた腕は急激に膨張し、変形した。


皮膚が裂け、骨が爆ぜる音が響く。


瞬く間に、その腕は白い角質に覆われ、輝きを放つ巨大な爪と化した。


その鋭い爪は、長さ三、四メートルに達していた。


同時に、彼の両足も変形し、靴下を破り、巨大な蜥蜴のような鱗に覆われた巨足となった。


変形が完了した刹那、ケインは地面を蹴った。足元の土が亀裂を生む。


彼の全身は、ルクスの逃亡した方向へと高速で突進した。


✦•······················•✦•······················•✦


ルクスは地面から這い上がった瞬間、即座に逃走していた。


彼女は【野良猫の指輪のらねこのゆびわ】の力を駆使し、本物の野猫のように、夜の帳が下りる黒い森を駆け抜けた。


まるで闇の深海に潜り込み、深く、長く潜れば潜るほど安全だと感じるかのようだった。


ルクスは方向を絶えず変え、巨大な岩を見つけるまで走り続け、その裏に一時的に身を隠し、息を整え、体力を回復した。


『たぶん……追ってきたのは二人だけだ。だが、すぐに増援が来る可能性もある。今の急務は、彼らの捜索範囲から一刻も早く脱出することだ。まだすぐには追ってきてないみたい……』ルクスは考えた。彼女は体に付いた土や葉屑を払い、亡命の旅を続ける準備をした。


「ここに……いたんだな。」背後から声が響き、同時に悪風が襲った。


巨大な利爪が、ルクスが隠れていた岩に叩きつけられた。


「ドゴン!」と轟音が響き、半人前の高さの岩は、まるで重槌で砕かれた茹でジャガイモのように四散し、飛び散る破片と化した。


ルクスは即座に【黒影披風】で全身を包み、その巨爪の一撃を防いだ。


彼女は全力で打ち出された球のように吹き飛び、道中「ガシャガシャ」と三、四本の大小の木を折り、「ドン」と地面に叩きつけられた。


「おや? 影魔法か? こいつは……嫌な同僚を思い出させるな。」


猟魔人ケインが影から姿を現し、軽快で穏やかな口調で言った。


「俺の名はケイン、称号は『悪獣』だ。もちろん、この称号は俺自身、ちっとも気に入ってない。」


「さて、美しいお嬢さん、自己紹介してもらえるかな? 後ろのあの貪欲な奴が来たら、自己紹介の時間なんてなくなるぜ。俺たち猟魔人は、礼儀の授業を何日か受けたくらいにはマシだが、金で地位を買った神官どものように下品じゃない。」


ケインの巨爪と巨大な後足は、翼のない歪な悪龍のようだったが、胴体と頭は人間の形を保ち、その組み合わせは異様で恐ろしい。


「お前の同僚が嫌いってのは、めっちゃ同意だな。」ルクスは地面から這い上がり、口元の血を拭い、答えた。


「自己紹介は……まあ、いいや。まだ称号を決めてねえんだ。次に会う時、教えてやるよ。」


そう言うと、彼女はケインに手を振ってみせた。


「お? リオの奴を知ってるのか? そりゃ面白いな。」ケインはルクスの答えに興味を示した。


「だが……次に会うって提案は、ちょっとまずいな。」彼は巨爪と後足を伸ばし、殺気を帯びて言った。


「だって……俺とお前には、次なんてないんだよ、お嬢さん。」


言葉を終えると、ケインは両足で地面を蹴り、足元に深い土の穴を穿った。


彼の巨体は瞬時にルクスの前に現れ、


冷たく光る巨爪がルクスの頭蓋を狙って振り下ろされた。


「そりゃ……残念だな。」その一撃に対し、ルクスは影魔法で瞬時に黒い壁を凝結させ、防いだ。


彼女は余裕すら見せて、こう挑発した。


「俺、まだ……たっぷりケーキを食うつもりだったんだ。まだお前に捕まる気はねえよ。」


「お? そうか?」ケインは笑い、攻勢を一瞬緩めた。


「なら、今降参したらどうだ? その後、たっぷりケーキを持ってきてやるぜ。」彼は一拍おいて、付け加えた。


「もちろん、お前が処刑される前にな。」


「ダメだ。」ルクスは答えた。「お前、こんな怖い顔してんだから、趣味も大概だろ。お前が持ってくるケーキ、たぶん……不味いよな。」


「そうか……」ケインはルクスの言葉を聞き、顔の笑みが消え、しばらく沈黙した後、歯を食いしばり、一語一語噛み締めるように言った。


「なら……死ね!」


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