第13話 紫の夢と晩餐
ルクスは平坦な草地に立つ大木のそばまで歩いた。
空は透き通った純粋な青で、まるで巨大な氷山に青い絵の具が染み込んだかのように、天穹に高く浮かんでいた。
遠くの森は眠れる巨人のようで、風に揺れる葉の微かな音だけが、巨人の寝息のように響いた。
小屋のそばを流れる小川は底まで透き通り、陽光に照らされた水面はきらめく星河のようだった。
ルクスは静かに景色を眺め、だが、心のどこかで違和感を覚えた。
森で三ヶ月迷い、風景に慣れたはずなのに、こんな純粋な安寧は初めてだった。
彼女は呼吸を緩め、身体をほぐした。
ルクスはゆっくり歩いた。
ここには活発な生き物が絶えない。蝶が花の間を軽やかに舞い、足先で一つの花を触れると、次の花へ飛んだ。
時折、兎や大きな尾のリスが草叢や木の洞から顔を出し、黒い瞳で辺りを見回した。
この可愛い生き物たちを見て、ルクスは初めて「食べられるか」と思わず、珍しくその愛らしさを愛でた。
だが、静寂に浸るルクスの心を、突然、重い疲憊が無形の手のように掴んだ。
その疲憊はあまりにも急で、猛烈だった。
ルクスはざらついた樹幹に背を預けて座り、静かな美しい風景を眺め続けた。
「いいな……」
「もし……私とミティが……こんな場所で暮らせてたら、どんなに良かったか……」
「ミティ……」
その名前が脳裏に浮かんだ瞬間、
周囲の穏やかな空気が、粘つく息苦しさへと変わった。
目の前のすべて――生き物、鮮やかな緑、青、藍――が一瞬にして地底から滲む紫に覆われた。
怪しい紫が燃え、
紫の烈焰の中、歪んだ人影が次々と現れ、
その人影たちは……笑っていた。
ルクスが背筋を凍らせ、立ち上がって戦うか逃げるかを考える刹那――
「お兄ちゃん……」
「ミティ?!」ルクスは勢いよく振り返った。
少し離れた場所に、鮮紅の長裙を着た少女が立っていた――ミティだった。
ミティはルクスを見て、微笑んだ。
だが、その笑顔は言葉にできない絶望に満ちていた。
「お兄ちゃん……私、美味しかった?」
言葉が落ちた瞬間、ミティは紫の烈焰に包まれ、燃え、歪み、やがて灰と化した……
その言葉を聞いたルクスは、魂が引き抜かれ、底なしの深淵に落ちる気がした。
闇の中を落ち続け、内心の恐怖が鋭い光となり、彼女の目を突き刺した。
「うっ!」
ルクスは飛び起き、全身が冷汗で濡れ、大きく喘いだ。
「ルクス?大丈夫?」
耳元で清らかな女声が響き、気遣いが込められていた。
「悪夢……だったの?」
「シルヴィ……私……大丈夫。」
ルクスは額の汗を拭い、目を開け、周囲を見た。
空は完全に暗くなり、漆黒ではなく、純粋な幽藍に染まり、砕けた藍宝が夜幕に散らばったようだった。
高空の月は神秘を保ち、清冷な光を放った。
さっきの恐怖の悪夢と現実の対比に、ルクスは一瞬ぼうっとした。
あの夢は……警告のようだった。
死ねない、と。紫の煉獄で生きろ、と……
ルクスの頭が痛み始めた。
「ルクス?」
シルヴィが地面に座るルクスをそっと引き起こした。
「あなたの服、縫い終わったよ。さっきぐっすり寝てたから、起こすの忍びなくて、晩餐の準備してた。そろそろ起こそうかなって思ってたところ……行こう、一緒にご飯食べよう。」
「……ありがとう、シルヴィ。」ルクスは頷き、脳内の映像を振り払った。
この精霊少女を心配させたくない。
それに、こんなに暗いってことは、シルヴィはルクスが寝てる間、ずっと待っててくれたんだ。
ルクスはシルヴィに従い、ガイアの小屋に戻った。
屋内は薄暗いが、真っ暗ではなかった。
蛍光を放つ奇妙な白い球形の花が、精巧な花灯に仕立てられ、部屋の中央に吊るされていた。
驚くべきは、花灯の「動力」が透明な水晶から供給されていたことだ。
小屋に戻ると、ルクスはまずシルヴィが縫った新衣を試着した。
柔らかな植物繊維の布でできた、簡素で実用的なズボンと上着だった。
飾りはないが、ぴったりで、とても快適だった。
ルクスは心から称賛した。
「裁縫の達人シルヴィ!」
「もう、冷めちゃうよ。」
シルヴィは照れ笑いし、台所から土鍋を運び出した。中にはキノコと野菜の濃厚なスープが煮込まれていた。
テーブルには花弁を混ぜた焼餅が皿に盛られ、そばには野生の果物を入れた小さな果籃があった。
「ごめんね、肉料理はあんまり得意じゃなくて。この野菜とキノコでいい?ルクスみたいな人間は肉を食べなきゃダメって聞いたけど?」
「別に絶対じゃないよ、これで十分!めっちゃ美味しそう!」
ルクスは慌てて言った。
正直、この森で調味料なしの干からびた焼き肉ばかり食べて、もううんざりだった。
今、油っこい肉料理を出されても、胃が受け付けないだろう。
晩餐は温かく友好的な雰囲気で過ぎた。
キノコ野菜スープは塩と香辛料が効き、風味豊かだった。
花弁入りの焼餅は独特の清香を放ち、ルクスの口に花の香りが広がった。
ルクスにとって、こんな満足な食事は久しぶりだった。
『こんな風にゆっくり食事するの、ずいぶん久しぶりだな……まるで……』
ルクスは不適切な記憶と悲しみを振り払った。
シルヴィの前で、悲しそうな表情を見せたくなかった。
夕食後、シルヴィはルクスを引っ張り、蛍光の花灯を持って小屋の入口の階段に座り、雑談を始めた。
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