第13話 紅の布花と紫の滅亡
ルクスは此刻、街路を狂ったように疾走していた。
彼女はもはや、聖光教の恵浴師が彼女を呪われ者と見なし、殺すかもしれないことなど気にも留めなかった。
彼女の頭にはただ一つの念头しかなかった――妹が死にかけている。ミティを救えるのは、あの者たちだけだ。
「どけ!」ルクスは道行く人々に叫んだ。
彼女は怀に抱いたミティを固く締めつけ、
まるで唯一の宝を守る野良犬のように、決して手放そうとしなかった。
「お兄……ちゃん……もう何も見えないよ……」
ミティの元々か細い声が、此刻、わずかに力強さを帯びた。
だがそれは、ルクスの心を一層掻き乱した。彼女は知っていた。
人が死に瀕すると、時折、突然力が戻る瞬間があることを。
「大丈夫だ、ミティ、僕がいるよ」ルクスは歯を食いしばった。影遣い(かげつかい)リオから得た雑多な魔力が、彼女の体内でなおも暴れ狂い、
魔力に慣れていない彼女は、この膨大な魔力を消化できず、多くはただ流れ去るように放出されるだけだった。
彼女は意識が朦朧とし始め、頭が炸裂するような激痛に襲われた!
「お兄……ちゃん……顔を……触っても……いい……?」
「触っていいよ、ミティ、触って!」
ルクスはさらに一つの街角を駆け抜けた。
道端の露天商や通行人は、彼女の血まみれの姿を見て、恐怖に駆られて道を譲り、彼女の背後に驚きと疑いの視線を投げかけた後、それぞれの忙しさに戻っていった。
ミティは冷たい小さな手を上げ、ルクスの頬をそっと撫でた。
それは冷たく、愛らしい手だった。
かつてはあんなにも器用で、美しい服を縫い、美味な料理を作った手。
「お兄……ちゃん……本当に綺麗だね……」ミティの顔に穏やかな微笑みが浮かんだ。
「こんなに……綺麗なのに……私のために『お兄ちゃん』になって……私のこの……お荷物のせいで……」
「違う! ミティ! 君は僕にとって……僕にとって一番大切なんだ……」ルクスは声を詰まらせ、ミティを一瞥する余裕もなく、ただ目的地が目前にあることだけを感じていた。
あと数つの街路を抜ければ、すぐだ、すぐそこだ。
「お兄ちゃん……これから……私の分まで……たくさんたくさんケーキを食べてね……それと、ずっとミティを愛してて……」
‘着いた!’ ルクスは心中で叫んだ。
「バン!」ルクスは頭で大門を叩きつけた。
そして、門の内側に向かって叫んだ。「お願い、助けて! 頼む!」
ここは聖光教が紫都に設けた臨時の教会で、信徒を増やす目的で、いく人かの恵浴師が駐在していた。
この時、ルクスが必死に抑え込んでいた、嵐のような頭痛がついに爆発し、彼女の脳全体を席巻した。
「神聖な場において、喧騒は許されぬ!」門の内側から厳粛で荘重な声が響いた。
すぐに、門が完全に開き、金色の星辰の仮面をかぶり、純白の牧師長袍をまとった恵浴師がルクスの前に現れた。仮面の星辰模様は柔らかな光を放っていた。
「お願いします! どうか妹を助けてください! 私の全財産を差し出します! 閃金幣が十枚あります! 何でもします、どんな代価でも払います!」ルクスは懇願した。
恵浴師は「金」の話では仮面の表情を微塵も動かさなかったが、「どんな代価でも」とルクスが叫んだ時、わずかに頷いたようだった。そして、氷のように冷たい口調で言った。「静粛に。まず、そなたの妹の傷を見せなさい。」
「はい! はい! 私の妹……私の妹は……」ルクスは恵浴師が承諾したことに一抹の安堵を感じた。
彼女は頭を下げ、怀を見た。
だが、彼女の怀は……空っぽだった。
ただ、血痕にまみれた、破れた紫色の布裙の断片が数片、彼女の足元の地面に散らばっていた。
「ミティ……? ミティ……?!」まるで脳を完全に引き裂くような、冷たい激痛が突然襲ってきた。
彼女は……何が起こったのかわからない……また、ぼんやりと何かを悟ったような……信じられない……何が起こったのか信じたくなかった……
彼女はゆっくりと頭を下げ、胸元を見た――そこには、いつの間にか、布で丁寧に縫われた赤い小花が留められていた。花弁の縁は翠緑の糸で細やかに輪郭が描かれていた。
**【癒花:紅と緑が交差する布花。装着後、治癒魔法を使用できる。】**
「ア――!」ルクスは悲鳴を上げ、両手で頬を掻きむしった。
鋭い爪が深く肉に食い込み、殷紅の血が流れ出し、破れた血肉と皮膚の残渣が、震える爪の隙間を埋めた。
「何だ、これは? 狂人か?」恵浴師は冷たく一言評し、すぐに「バン」と教会の門を閉め、その絶望の嘶きを外に遮断した。
「ここから離れなさい。」
ルクスは頭を抱え、地面に膝をつき、額を冷たく硬い街路の石畳に何度も、何度も激しく打ちつけた。血がすぐに額から流れ出し、地面の塵と混ざり合った。
やがて、彼女は動かなくなった。ただ茫然とそこに跪き、
散らばる衣の断片を見つめ、胸元の鮮やかな布花を再び見下ろした。
「私が……妹を喰った……」
ルクスは呟いた。
「ミティ……ごめん……ごめん……」涙が、先ほどの血のように、彼女の眼窩から流れ落ちた。
おそらく、彼女はどこかで、妹の残したこれらの衣を丁寧に埋葬すべきだった。
おそらく、彼女は今すぐ逃げるべきだった。この無尽の痛苦と絶望を与えた都市から逃げ出すべきだった。
だが、ルクスは今、何もしていなかった。
彼女はただそこに跪き、長い長い時を過ごし、やがて震える手で、ミティのものだった血に染まった紫の衣の断片を、一つ一つ拾い上げ、固く怀に抱きしめた。
そして、彼女は立ち上がり、城門の方向へと、目的もなく、ただ一歩一歩歩み始めた……
時間はまるで意味を失い、麻痺と絶望の中で流れ去った。
黄昏が訪れた時、城内の普通の市民たちは、夕食の準備をしたり、店を片付け、閉店しようとしていた。
そんな穏やかな暮らしを営んでいた。
突然、都市の中心、最も繁華な内城区の方向から、激烈な爆発音が響いた。
その爆発は、まるで絵布を切り裂く刃のように、この平穏をズタズタに引き裂いた。
市民たちは好奇心に駆られ、窓を開け、あるいは街路に飛び出し、爆発音のした方向を眺めた。
だが、ルクスは振り返らなかった。彼女は麻痺したように歩き続けた。
そして……彼女は気づいた。怀に抱いたミティの、血に染まった紫の裙の断片が、突然……燃え始めたのだ!
いや、裙だけではない。すべての紫色のものが燃えていた!
都市の建築を構成する紫の煉瓦、紫の塗料で塗られた木材、通行人が身にまとう紫の衣、すべてが、この瞬間、猛烈に燃え上がった。
「いや! やめて!」ルクスは手で怀の衣の炎を消そうとしたが、その炎は彼女がどんなに努力しても、掌が焼けただれても消えず、
逆にますます激しく燃え盛った。
不吉な紫の気配を帯びた恐ろしい炎は、まるで地獄の業火のように、都市のすべての紫色の物体の中から猛烈に噴き出し、高温の熱波が容赦なく都市全体を席巻し、空気は灼熱に歪んだ。
凄絶な慟哭、絶望の救いを求める声、徒労の逃走の音……それらが都市の隅々に響き渡った。
だが、逃げ場はなかった。
この紫の商業都市は、
此刻、完全に……業火に焼かれる人間の煉獄と化していた!
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