表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/43

第13話 紅の布花と紫の滅亡

ルクスは此刻、街路を狂ったように疾走していた。


彼女はもはや、聖光教せいこうきょう恵浴師けいよくしが彼女を呪われのろわれものと見なし、殺すかもしれないことなど気にも留めなかった。


彼女の頭にはただ一つの念头しかなかった――妹が死にかけている。ミティを救えるのは、あの者たちだけだ。


「どけ!」ルクスは道行く人々に叫んだ。


彼女は怀に抱いたミティを固く締めつけ、


まるで唯一の宝を守る野良犬のように、決して手放そうとしなかった。


「お兄……ちゃん……もう何も見えないよ……」


ミティの元々か細い声が、此刻、わずかに力強さを帯びた。


だがそれは、ルクスの心を一層掻き乱した。彼女は知っていた。


人が死に瀕すると、時折、突然力が戻る瞬間があることを。


「大丈夫だ、ミティ、僕がいるよ」ルクスは歯を食いしばった。影遣い(かげつかい)リオから得た雑多な魔力が、彼女の体内でなおも暴れ狂い、


魔力に慣れていない彼女は、この膨大な魔力を消化できず、多くはただ流れ去るように放出されるだけだった。


彼女は意識が朦朧とし始め、頭が炸裂するような激痛に襲われた!


「お兄……ちゃん……顔を……触っても……いい……?」


「触っていいよ、ミティ、触って!」


ルクスはさらに一つの街角を駆け抜けた。


道端の露天商や通行人は、彼女の血まみれの姿を見て、恐怖に駆られて道を譲り、彼女の背後に驚きと疑いの視線を投げかけた後、それぞれの忙しさに戻っていった。


ミティは冷たい小さな手を上げ、ルクスの頬をそっと撫でた。


それは冷たく、愛らしい手だった。


かつてはあんなにも器用で、美しい服を縫い、美味な料理を作った手。


「お兄……ちゃん……本当に綺麗だね……」ミティの顔に穏やかな微笑みが浮かんだ。


「こんなに……綺麗なのに……私のために『お兄ちゃん』になって……私のこの……お荷物のせいで……」


「違う! ミティ! 君は僕にとって……僕にとって一番大切なんだ……」ルクスは声を詰まらせ、ミティを一瞥する余裕もなく、ただ目的地が目前にあることだけを感じていた。


あと数つの街路を抜ければ、すぐだ、すぐそこだ。


「お兄ちゃん……これから……私の分まで……たくさんたくさんケーキを食べてね……それと、ずっとミティを愛してて……」


‘着いた!’ ルクスは心中で叫んだ。


「バン!」ルクスは頭で大門を叩きつけた。


そして、門の内側に向かって叫んだ。「お願い、助けて! 頼む!」


ここは聖光教が紫都しとに設けた臨時の教会で、信徒を増やす目的で、いく人かの恵浴師が駐在していた。


この時、ルクスが必死に抑え込んでいた、嵐のような頭痛がついに爆発し、彼女の脳全体を席巻した。


「神聖な場において、喧騒は許されぬ!」門の内側から厳粛で荘重な声が響いた。


すぐに、門が完全に開き、金色の星辰の仮面をかぶり、純白の牧師長袍をまとった恵浴師がルクスの前に現れた。仮面の星辰模様は柔らかな光を放っていた。


「お願いします! どうか妹を助けてください! 私の全財産を差し出します! 閃金幣せんきんへいが十枚あります! 何でもします、どんな代価でも払います!」ルクスは懇願した。


恵浴師は「金」の話では仮面の表情を微塵も動かさなかったが、「どんな代価でも」とルクスが叫んだ時、わずかに頷いたようだった。そして、氷のように冷たい口調で言った。「静粛に。まず、そなたの妹の傷を見せなさい。」


「はい! はい! 私の妹……私の妹は……」ルクスは恵浴師が承諾したことに一抹の安堵を感じた。


彼女は頭を下げ、怀を見た。


だが、彼女の怀は……空っぽだった。


ただ、血痕にまみれた、破れた紫色の布裙の断片が数片、彼女の足元の地面に散らばっていた。


「ミティ……? ミティ……?!」まるで脳を完全に引き裂くような、冷たい激痛が突然襲ってきた。


彼女は……何が起こったのかわからない……また、ぼんやりと何かを悟ったような……信じられない……何が起こったのか信じたくなかった……


彼女はゆっくりと頭を下げ、胸元を見た――そこには、いつの間にか、布で丁寧に縫われた赤い小花が留められていた。花弁の縁は翠緑の糸で細やかに輪郭が描かれていた。


**【癒花ゆか:紅と緑が交差する布花。装着後、治癒魔法を使用できる。】**


「ア――!」ルクスは悲鳴を上げ、両手で頬を掻きむしった。


鋭い爪が深く肉に食い込み、殷紅の血が流れ出し、破れた血肉と皮膚の残渣が、震える爪の隙間を埋めた。


「何だ、これは? 狂人か?」恵浴師は冷たく一言評し、すぐに「バン」と教会の門を閉め、その絶望の嘶きを外に遮断した。


「ここから離れなさい。」


ルクスは頭を抱え、地面に膝をつき、額を冷たく硬い街路の石畳に何度も、何度も激しく打ちつけた。血がすぐに額から流れ出し、地面の塵と混ざり合った。


やがて、彼女は動かなくなった。ただ茫然とそこに跪き、


散らばる衣の断片を見つめ、胸元の鮮やかな布花を再び見下ろした。


「私が……妹を喰った……」


ルクスは呟いた。


「ミティ……ごめん……ごめん……」涙が、先ほどの血のように、彼女の眼窩から流れ落ちた。


おそらく、彼女はどこかで、妹の残したこれらの衣を丁寧に埋葬すべきだった。


おそらく、彼女は今すぐ逃げるべきだった。この無尽の痛苦と絶望を与えた都市から逃げ出すべきだった。


だが、ルクスは今、何もしていなかった。


彼女はただそこに跪き、長い長い時を過ごし、やがて震える手で、ミティのものだった血に染まった紫の衣の断片を、一つ一つ拾い上げ、固く怀に抱きしめた。


そして、彼女は立ち上がり、城門の方向へと、目的もなく、ただ一歩一歩歩み始めた……


時間はまるで意味を失い、麻痺と絶望の中で流れ去った。


黄昏が訪れた時、城内の普通の市民たちは、夕食の準備をしたり、店を片付け、閉店しようとしていた。


そんな穏やかな暮らしを営んでいた。


突然、都市の中心、最も繁華な内城区の方向から、激烈な爆発音が響いた。


その爆発は、まるで絵布を切り裂く刃のように、この平穏をズタズタに引き裂いた。


市民たちは好奇心に駆られ、窓を開け、あるいは街路に飛び出し、爆発音のした方向を眺めた。


だが、ルクスは振り返らなかった。彼女は麻痺したように歩き続けた。


そして……彼女は気づいた。怀に抱いたミティの、血に染まった紫の裙の断片が、突然……燃え始めたのだ!


いや、裙だけではない。すべての紫色のものが燃えていた!


都市の建築を構成する紫の煉瓦、紫の塗料で塗られた木材、通行人が身にまとう紫の衣、すべてが、この瞬間、猛烈に燃え上がった。


「いや! やめて!」ルクスは手で怀の衣の炎を消そうとしたが、その炎は彼女がどんなに努力しても、掌が焼けただれても消えず、


逆にますます激しく燃え盛った。


不吉な紫の気配を帯びた恐ろしい炎は、まるで地獄の業火のように、都市のすべての紫色の物体の中から猛烈に噴き出し、高温の熱波が容赦なく都市全体を席巻し、空気は灼熱に歪んだ。


凄絶な慟哭、絶望の救いを求める声、徒労の逃走の音……それらが都市の隅々に響き渡った。


だが、逃げ場はなかった。


この紫の商業都市は、


此刻、完全に……業火に焼かれる人間の煉獄と化していた!


✦•······················•✦•······················•✦

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ