第12話 呑噬(どんぜい)の呪い
呑噬。これはルクスが生まれながらに持つ能力であり、
呪いでもある。
彼女は死体や生肉を呑噬することで、それを特殊な能力を宿す魔法の装飾品へと変換できる。
同時に、この能力は彼女自身の傷を癒すことを可能にする。
呑噬する生物が強ければ強いほど、変換される装飾品の効果もまた強力になる。
だが、血肉の量が乏しければ、彼女は短時間のみ不完全な能力を得るにすぎない。
しかし、この能力には制約がある――彼女は生きている生命体を直接呑噬することはできない。
ただし……その生き物の身体から、血肉を自ら噛みちぎることができれば話は別だ!
此刻、ルクスは噛みつき、影遣い(かげつかい)リオの肩から肉塊を抉り取った。
ほぼ同時に、ルクスの大腿を貫いていた黒棘の傷口から、細かな血色の肉芽が湧き出し、癒合が始まった。
この癒合の過程は激痛を伴う。
傷口の血肉が蠢く痛みだけではない。彼女の、ほとんど魔力に触れたことのない身体が、
此刻、強引に魔力を注ぎ込まれているのだ。
「くそくらえ!!」影遣いリオは痛苦と憤怒の咆哮を上げた。
無数の鋭い黒棘が彼の背中から生え出し、たちまち黒い豪雨と化し、
ルクスの身体を貫き、引き裂き、破壊しようと襲いかかった。
その瞬間、ルクスの背後に突如として漆黒の披風が現れ、瞬時に二つに裂け、彼女の急所を守った。
だが、身体の他の部位は、この黒棘の嵐に容赦なく貫かれ、衣服は破れ、ルクスが女性である身体が露わになった。
「何?! てめえ……女だったのか?!」
ルクスは彼に思考や反応の時間を与えなかった。
彼女は此刻、完全に狂気に陥った野犬のようだった。両目は赤紅に染まり、
彼女の頭にはただ一つの念头――目の前の敵をズタズタに引き裂くこと――しかなかった。
彼女は飛びかかり、影魔法の披風が影遣いリオの魔法防御を直接突き破り、彼女は再びリオの身体に噛みついた。
彼の首筋、彼の肩は、いくつもの血の窪みを抉り取られた。
彼の血肉はルクスの口を満たし、そして呑噬された。
「くそくらえ! くそくらえ! くそくらえ!!」
影遣いリオは、この狂犬に完全に咬み狂わされそうだと感じていた。彼は必死に黒影を操り、ルクスの身体を引き裂こうとした。
だが、ルクスは影の披風による防御と、呑噬による回復力を頼りに、この狂乱の攻撃を耐え抜いた。
そして今、この少女、この忌まわしい狂犬は、骨にこびりつく蛆のように彼に絡みつき、血肉を噛みちぎり、彼がどんな反撃を繰り出そうとも、決して殺せなかった。
‘駄目だ……このままでは……駄目だ!’
再び数塊の皮肉を抉り取られた後、冷たい恐怖が影遣いリオの心臓を鷲づかみにした。それは死への畏怖だった。
彼は朦朧と、自分がこの怪物に少しずつ喰い尽くされる運命を見た。彼は恐れた。
「離れろ! くそくらえ!」彼は全力を振り絞って魔力を動かし、彼とルクスの間に黒い壁を立ち上げ、ルクスの追撃を阻み、そして彼は向き直り、逃亡の機会を窺った。
「アッ!」彼の両膝に突如として心臓を抉るような激痛が走った。二本の漆黒の影槍が、いつの間にか彼の両腿を貫いていた。
ルクス。彼女は黒い壁が立ち上がる刹那、左手を壁の外に伸ばしていた。
掌に影魔法を凝縮させ、腕が即座に立ち上がる黒壁に斬り落とされても、彼女の憎悪を凝縮した二本の影槍は成功裏に放たれ、影遣いの両腿を貫いた。
黒壁が消え、影遣いリオは恐怖に駆られて振り返った――
――ルクスは左手を失い、両腿も貫かれ、影の魔法が彼女の身体を支えていた。彼女の残破した身体と、血と汚れにまみれた乱れた髪は、まるで地獄の深淵から這い上がった悪鬼のようだった。
そしてこの悪鬼は、呑噬によって得た影の魔力で身体を支え、直接飛びかかってきた。
「怪物! 悪魔! 俺から離れろ! 離れろ!!」影遣いリオはヒステリックな叫び声を上げ、必死に残った黒影を操り、無数の細かな尖刺となってルクスに射かけた。
だが、ルクスはそれらの黒刺が身体に突き刺さるのを許し、直接影遣いリオの足首に噛みついた。
同時に、彼女の赤紅の両目は影遣いリオを睨みつけ、その中には彼を喰い尽くす狂気が渦巻いていた。
「怪物! 悪魔! 俺から離れろ! 離れろ!! いや――! 俺に近づくなあああ!」
影遣いリオは叫び声を上げた。
それは、一口一口喰い尽くされる恐怖だった。
彼の脳裏に、ふと過去が閃いた。娼婦の母に売られ、娼館で男娼となり、客の「清潔さ」のために去勢され、死に瀕した時に魔力が爆発し、謎のマントの者に連れ去られ魔法を学び、他の「同級生」に陵辱され、少女のような顔を自ら傷つけ、猟魔人となって母や仇を殺した過去……それらが冬の炉火のように彼の脳内で燃え上がり、躍動していた。
ルクスはひたすら噛みちぎり、ついに影遣いリオの气息が完全に途絶えた……
影遣いリオが死に絶えた瞬間、彼の残破した肉体は異様に溶け、蠢き、最終的にルクスの身体へと潜り込んだ。
激痛。さっきまでのすべての傷の痛みを重ねた以上の激痛が、瞬時にルクスの全身を席巻した。
彼女の、魔力の訓練を受けたことのない身体は、此刻、影遣いリオの雑多な魔力を強引に注ぎ込まれていた。
力が彼女の体内で制御不能に衝突した。
彼女の全身から赤い魔力が爆発し、目と髪は血のように鮮紅に染まり、切断された掌も再生した。
この痛苦の中で、黒い披風が彼女の背後に完全に形成され、専属の魔法装飾品となった。
【黒影披風:見た目はひどく残破した黒い披風。装備後、初級の影魔法操作能力を得る。】
「アアアアアアア!」ルクスは嘶き声を上げ、元々眉を覆う程度だった黒い短髪も、この痛苦の変貌の中で伸び、最終的に肩まで垂れ下がった。
「ミティ……ミティ……」激痛は彼女をほぼ完全に打ち砕きそうだったが、ひとつの執念が彼女を支えていた。
彼女は向き直り、壁際にうずくまる、息も絶え絶えな姿へと歩み寄った。
「お兄……ちゃん……」ミティの目はもはや開けられなかったが、ルクスが彼女の名を呼ぶ声を聞き、微かな声を絞り出した。
「ミティ、医者に連れて行く……いや、聖光教の恵浴師に連れて行くよ、大丈夫だ!」ルクスはミティを慰め、それは自分自身を慰めるようでもあった。
彼女は地面に落ちていた影遣いリオの黒袍を拾い、それを身にまとい、布を裂いて自分と妹を縛りつけ、ようやく回復した両手でミティを抱き上げ、記憶にある聖光教の方向へと走り出した。
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