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第9話 三月の迷路と喋る果実



静謐で幽深い森だった。


陽光が重なり合う、少女のスカートのように繁茂する枝葉を透かし、苔むした岩や土に斑な光点を投げかけ、この古の大地に生命の息吹を注いだ。空気さえ活気づき、鮮やかに感じられた。


全身雪白の兎が、灌木の陰から慎重に首を覗かせた。長耳の縁には、淡い幽藍の蛍光が縁取られていた。


兎は首を振って周囲を見回し、まるで朝の静寂を味わうかのようだった……


「シュッ!」軽い破空の音が響いた。


暗影が凝結した矢が、精確にこの奇妙な白兎の頭を貫いた。


「よし、今日の朝食は焼き兎肉、野果二つ添えだ。」声を発したのは、黒髪に紅瞳、清爽で中性的な少女だった。粗い草糸と獣皮で縫われた、奇抜な衣装を纏っている。


彼女こそルクスだった。


姿を現すと、身にまとった【黒影披風こくえいひふ】も消え去った。


ルクスは駆け寄り、微かに痙攣する兎を掴み、軽く量った。


「へえ、こいつ結構重いな、悪くねえ。」


この森で三ヶ月も迷い続けた者にとって、これは間違いなく上々の食事だった。


そう、ルクスは三ヶ月間、迷子だった。


あの紫都しとの廃墟で、謎の手の導きを受けた後、その手は二度と現れなかった。


以来、ルクスは三ヶ月の「野人」生活を送っていた。


この三ヶ月は、狩りと(方向音痴な)旅路だけで過ぎたわけではない。


実力を高めるため、ルクスは炎を操る雄獅の魔獣を狩り、呑噬し、新たな拳套――【炎獅の爪籠(えんしのつめかご】を得た。(この装飾品は、元の【黒熊の篭手くろくまのこて】に取って代わった)


この【炎獅の爪籠(えんしのつめかご】は獅子の爪を模し、指関節に五本の短刀刃が覆い、敵を撃つ際に炎を放つ。


もう一つの収穫は、巨型黒鷲の狩りだった。


ルクスは飛禽を呑噬し、この森を脱出できる翼を得ようとした。


そのため、一日を費やし、翼幅三メートルの黒鷲を狩り、呑噬した。


だが、結果は少し失望を誘った――得たのは【鷹脚套ようきゃくとう】だけだった。


――鷹の羽紋が交錯する脚套で、各脚に鷹眼の紋様が刻まれ、敏捷性を高め、短時間の爆発的突進速度を与えるが、飛行はできなかった。


今のルクスは、茫然とし、意気消沈していた。


彼女はこの森に、強大な魔法がかけられ、閉じ込められているのではないかと疑った。


何度も近くの最高峰に登り、地形を確認し、方角を定めて進んだのだ。


まさか……まさか自分がここまで方向音痴だなんてあり得ないよね?


あり得ない……よね……


彼女は少し気落ちした。


紫都を離れた時の、ミティを復活させる方法を即座に探す切迫した気持ちは、単調で退屈な狩りと迷路の日々に、徐々に摩耗していた。


彼女は、密林を奔走する生活に……少し慣れ始めていた。


「待て……」ルクスは足を止め、耳を傾けた。


何か音がする?


密林には、風の葉擦れ、虫や鳥の囀り、獣の唸りなど、音が絶えない。だが、この音は違う。まるで……人が話す声だ!


「まさか……人?!」ルクスの目に喜びの光が迸った。


三ヶ月、誰とも会っていなかった。


ルクスは興奮で、今すぐ駆け出し、声の主に熱烈な抱擁を贈りたい衝動に駆られた。


もちろん、相手が清潔で、彼女の汚れた「野人」姿を嫌わなければの話だが(この考え、ちょっとダブルスタンダードだな)。


喜びの後、ルクスは警戒した。


身を低くし、気配を収束させ、豹の如く音もなく、声の方向へゆっくり近づいた。


最初の数回の狩りで失敗し、数日腹を空かせた後、習得した潜行術だった。


直接突進で捕らえられるのは、鹿、熊、野猪のような巨獣だけ。小さく警戒心の強い獲物は、驚けば即座に穴に潜る。


ルクスは茂る草叢を抜け、太い樹幹で身を隠した。


耳は微かな音を捉え、目標の位置を定めた。


声がますます鮮明になった。確かに人が話している。しかも一人ではない。


彼らの言語は、神恩大陸の通用語のようだ。


ルクスは内心の興奮と高揚を抑え、草叢を掻き分け、声の源へ緩慢に進んだ。


目標に近づいている。人影が見えた。


彼らは何かを激しく議論しているようだ。


騒がしい声から、緊張、怒り、そして……名状しがたい興奮が感じ取れた。


だが、見えた瞬間、ルクスは呆然とした。この世界が完全に狂ったのか、それとも自分の知識が浅すぎるのか、疑い始めた。


なぜなら、彼女が見たのは……手足の生えたキノコと果物が話している一群だった!


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