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迫りくる時間、揺らぐ心

凛が光の渦に飲み込まれ、姿を消してから数日が経った。星見町の人々は、未だ、あの日の出来事を、信じられない思いで語り合っていた。潮騒病院では、凛の失踪を受け、健太が中心となって、彼女の行方を探していた。しかし、凛の姿はおろか、彼女が別の時間軸へと移動した痕跡すら、見つけることはできなかった。


「凛さん…一体、どこへ行ってしまったんだ…」


健太は、凛の病室で、彼女が描いた星空の絵を見つめながら、呟いた。凛が消えたあの日以来、彼は、毎晩のように、この絵を眺めていた。絵の中のアルビレオは、まるで、彼に何かを語りかけているように、優しく輝いていた。


その時、病室のドアがノックされ、翔太が入ってきた。


「健太先生…姉さんのこと、何か分かりましたか…?」


翔太は、やつれた表情で、健太に尋ねた。


「すまない、翔太君…。まだ、手がかりは掴めていない…」


健太は、力なく答えた。


「そんな…姉さんは、どこへ行ってしまったんだ…」


翔太は、悔しさと悲しさが入り混じった表情で、拳を握りしめた。


「…翔太君、君に、話しておかなければならないことがある」


健太は、決意を固めたように、翔太に言った。


「話…?」


「ああ。凛さんの病気、そして、悠斗君の過去について…」


健太は、これまで、翔太に隠してきた、全ての真実を語り始めた。凛の遺伝子異常、悠斗のタイムリープ実験、エリザベスの失踪、そして、アルビレオ計画…。彼は、自分が知る限りの情報を、包み隠さず、翔太に伝えた。


「そんな…じゃあ、姉さんの病気は、悠斗さんの…」


翔太は、健太の話に、衝撃を受けた。


「ああ。悠斗君の過去の研究が、凛さんの運命を、狂わせてしまった可能性は、否定できない…」


「でも、悠斗さんは、姉さんを救うために、アメリカに戻ったんですよね…?」


「ああ。彼は、凛さんを救うための、手がかりを見つけようと、必死に研究を続けている。そして、その手がかりは、時間軸を超えた治療法に、繋がっている可能性があるんだ」


「時間軸を超えた治療法…?」


「ああ。凛さんの遺伝子情報に混入した、別の時間軸の情報を、取り除くことができれば、彼女の病気は、治るかもしれない…」


「そんなことが、本当に、できるんですか…?」


「…正直に言って、分からない。しかし、可能性はゼロではない。そして、悠斗君は、その可能性に、全てを賭けているんだ」


健太は、遠くアメリカにいる悠斗に、想いを馳せた。


「悠斗さん…」


翔太は、悠斗に対する、複雑な感情を、抱いていた。姉の運命を狂わせた、張本人。しかし、同時に、姉を救うための、唯一の希望…。彼は、悠斗を信じるべきかどうか、葛藤していた。


その時、翔太のスマートフォンが鳴った。画面を見ると、美咲からだった。


「もしもし、美咲さん…?」


「翔太君、至急、天文台に来てほしいの。話しておきたいことがあるの…」


美咲は、電話口で、真剣な声で言った。


「話…?一体、何の話ですか…?」


「悠斗君のお父様、桜井陽一博士の研究についてよ。そして、凛さんの運命について…」


「…分かりました。すぐに行きます」


翔太は、電話を切り、健太に言った。


「健太先生、俺、天文台に行ってきます。美咲さんが、話があるって…」


「ああ、気をつけて行くんだぞ」


健太は、翔太の背中を、心配そうに見送った。


天文台に到着した翔太は、美咲に案内され、陽一の古い研究室へと向かった。そこには、陽一が遺した、膨大な研究資料や、実験器具が、所狭しと並べられていた。


「ここで、桜井博士は、時間に関する研究を、進めていたの…」


美咲は、埃を被った実験装置に、そっと触れながら言った。


「時間に関する研究…」


「ええ。そして、その研究は、悠斗君、そして、凛さんの運命と、深く繋がっている…」


美咲は、そう言うと、一冊の古い研究ノートを、翔太に手渡した。


「これは…?」


「桜井博士が、亡くなる直前まで、書き綴っていたノートよ。ここには、『アルビレオ計画』の全貌が、記されている…」


「アルビレオ計画…」


翔太は、ノートの表紙に書かれた、その言葉を、じっと見つめた。


「桜井博士は、悠斗君のタイムリープ実験の失敗で、別の時間軸に飛ばされた、エリザベスさんを、元の時間軸に、連れ戻そうとしていたの。そして、その過程で、時間軸の歪みが、凛さんの遺伝子情報に、影響を与えてしまった…」


「そんな…」


「でも、希望はあるわ。桜井博士は、時間軸の歪みを修正するための、理論を構築していた。そして、悠斗君は、今、その理論を、現実のものにしようと、アメリカで、研究を進めている…」


「悠斗さんが…」


「ええ。そして、私は、悠斗君が、必ず、凛さんを救ってくれると、信じているわ」


美咲は、力強く言った。


「…俺も、信じたいです。悠斗さんのこと、そして、姉さんの未来を…」


翔太は、美咲の言葉に、勇気づけられたように、頷いた。


その時、美咲は、研究ノートのある記述に、目を留めた。


「これは…『時間軸の歪みを修正するためには、対象者の強い意志と、時を超えた想いが、必要不可欠である』…?」


美咲は、その一文を、何度も読み返した。


「時を超えた想い…?」


翔太は、美咲の呟きに、首を傾げた。


「これは、どういう意味だろう…?」


「…分からないわ。でも、何らかの、重要な意味が、込められているような気がする…」


美咲は、直感的に、そう感じた。


「とにかく、今は、悠斗さんを信じるしかない。そして、俺たちにできることを、精一杯やろう」


翔太は、決意を込めて、言った。


「ええ、そうね。私たちも、希望を捨てずに、前を向いて進みましょう」


美咲は、翔太の言葉に、力強く頷いた。


その頃、アメリカでは、悠斗とアレックスが、時間軸の歪みを修正するための、装置の開発に、没頭していた。


「ユウト、この数値で、問題ないか?」


アレックスは、コンピューターの画面を指差しながら、悠斗に尋ねた。


「ああ、理論上は、問題ないはずだ。しかし、実際に、時間軸に干渉できるかどうかは、やってみなければ分からない…」


悠斗は、緊張した面持ちで、答えた。


「リスクは承知の上だ。しかし、やらなければ、凛さんを救うことはできない」


「ああ、分かっている。必ず、成功させよう」


悠斗とアレックスは、互いに、固く決意を確かめ合った。


そして、運命の時刻が、近づいていた。悠斗は、凛を救うための、最後の希望を胸に、時間軸の歪みへと、立ち向かおうとしていた。その先には、想像を絶する、試練が待ち受けているとも知らずに…。

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