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星屑の導き、揺れる想い

悠斗と凛が出会った翌日から、凛は時折、天文台を訪れるようになった。悠斗は、最初は戸惑いながらも、凛に星の話をするようになった。凛は、悠斗の語る宇宙の神秘に、目を輝かせながら聞き入った。


「星って、本当に不思議ですね。遠い昔の光が、今、私たちの目に届いているなんて…」


凛は、満天の星空を見上げながら、呟いた。


「ああ。光の速度は有限だ。今、私たちが見ている星の光は、何年、何十年、何百年、いや、何万年も前に放たれたものなんだ。つまり、私たちは、星の過去の姿を見ていることになる」


「過去…」


凛は、その言葉を、静かに噛み締めた。


「悠斗さんは、どうして、天文学者になったんですか?」


凛の問いに、悠斗は、一瞬、言葉を詰まらせた。しかし、彼は、ゆっくりと語り始めた。


「子供の頃、父に、この天文台に連れてきてもらったんだ。そこで見た星空が、本当に美しくて…宇宙の神秘に魅了されたんだ。それから、いつか、宇宙の謎を解き明かしたいと思うようになった」


「お父様も、天文学者だったんですね」


「ああ。父さんは、ここで、星の研究をしていたんだ」


悠斗は、遠い過去を懐かしむように、目を細めた。


「悠斗さんは、アメリカで研究をしていたんですよね?どうして、ここに戻ってきたんですか?」


凛の問いに、悠斗は、再び、言葉を詰まらせた。その質問には、答えたくなかった。しかし、凛の真っ直ぐな瞳を見ていると、嘘をつくことはできなかった。


「…研究で、大きな失敗をしたんだ。取り返しのつかない、過ちを…」


悠斗は、苦渋に満ちた表情で、呟いた。


「失敗…ですか?」


「ああ。…もう、この話はよそう。それより、今日は、土星を見てみるか?環がとても美しいんだ」


悠斗は、話を逸らすように、望遠鏡を土星に向けた。凛は、それ以上、何も聞かなかった。しかし、彼女は、悠斗の心の奥深くに、大きな傷があることを感じ取っていた。


数日後、凛は、自分の描いた星空の絵を、悠斗に見せた。それは、一面に広がる星空と、その中を流れる、一条の光が描かれた、幻想的な絵だった。


「これは…?」


悠斗は、その絵を見て、息を呑んだ。そこには、彼にしか見えないはずの、微かな光が描かれていたのだ。それは、悠斗が長年、観測を続けてきた、アルビレオの近くにある、特殊な光だった。


「この光…君にも、見えるのか?」


「はい。子供の頃、この町で見たんです。とても、不思議な光でした…」


凛は、そう答えながら、幼い頃の記憶を辿った。20年前のあの日、確かにこの天文台の近くで、不思議な光を見た。


悠斗は、凛の絵、そして彼女の言葉に、言いようのない衝撃を受けていた。なぜ、彼女にも、あの光が見えるのか?そして、20年前の出来事とは、一体何なのか?


その夜、悠斗は、アレックスに電話をかけた。


「アレックス、久しぶりだな…実は、相談したいことがあるんだ」


悠斗は、凛のこと、そして彼女が見たという光について、アレックスに話した。アレックスは、悠斗の話に、深い興味を示した。


「それは、興味深い話だね、ユウト。もしかしたら、君の過去の研究が、その謎を解く鍵になるかもしれない」


「過去の研究…?」


「ああ。時間場における生体反応、そして、タイムリープが遺伝子に与える影響についての、君の研究だよ」


アレックスの言葉に、悠斗は、はっとした。確かに、その研究は、エリザベスを失った事件以来、封印してきたものだった。しかし、もし、その研究が、凛の見た光、そして、彼女の病気と関係があるとしたら…?


「アレックス、詳しく話を聞かせてくれ」


悠斗は、受話器を握る手に、力を込めた。


一方、潮騒病院では、健太が、凛の病状について、東京の大学病院にいる心臓外科の権威、佐々木由美と電話で話していた。


「佐々木先生、凛さんの病状ですが、やはり、かなり厳しい状態です。遺伝子検査の結果、通常では考えられない、特殊な遺伝子異常が見つかりました」


「特殊な遺伝子異常…?具体的には?」


「それが、私も初めて見るケースでして…まるで、別の時間軸の情報が、混入しているかのような…」


健太の言葉に、佐々木は、鋭い反応を示した。


「別の時間軸の情報…?そんなことが、あり得るのですか?」


「私も、信じられません。しかし、検査結果は、そう示しているのです。何か、治療の手がかりになるような情報は、ないでしょうか?」


「…実は、興味深い研究をしている学者がいます。アメリカの、アレックス・グレイ教授です。彼は、時間物理学の世界的権威で、タイムリープについても研究しています。もしかしたら、彼なら、何か知っているかもしれません」


「アレックス・グレイ教授…ですか。早速、連絡を取ってみます」


健太は、佐々木に礼を言い、電話を切った。彼は、一刻も早く、凛を救うための手がかりを見つけたかった。


数日後、悠斗は、美咲から、父、陽一の遺品である古い研究ノートを手渡された。


「これは…?」


「お父様が、亡くなる直前まで、研究されていたノートのようです。時間に関する研究、そして…『アルビレオ計画』という記述があります」


美咲の言葉に、悠斗は、息を呑んだ。アルビレオ計画…それは、悠斗が、エリザベスを失った事件の後、父、陽一が引き継いだ研究だった。しかし、その内容は、悠斗にも知らされていなかった。


「父さんが、アルビレオ計画を…?」


悠斗は、震える手で、ノートを開いた。そこには、複雑な数式と、時間に関する考察、そして、20年前の実験記録が、詳細に記されていた。


「これは…20年前、この天文台で行われた実験記録…?」


悠斗は、その記録を読み進めるうちに、驚愕の事実に気づく。20年前、この天文台で、父、陽一は、ある実験を行っていた。それは、悠斗がアメリカで行ったタイムリープ実験と、驚くほど似た内容だったのだ。そして、その実験の日、凛は、あの不思議な光を目撃している…。


悠斗の中で、様々な謎が、一つに繋がり始めていた。凛の病気、彼女が見た光、父の研究、そして、エリザベスの失踪…。全ては、20年前のあの夜、この天文台で始まったのか…?


悠斗の胸中に、新たな決意が芽生えていた。凛を救いたい、そして、エリザベスとの過去に、もう一度向き合いたい。彼は、閉ざされた過去の扉を、再び開くことを決意した。その先に、どのような真実が待っているのか、彼はまだ、知る由もなかった。

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