時の交差点、もう一つの出会い
眩い光に包まれた凛の意識は、20年前の星見町へと、ゆっくりと遡っていった。時間の流れが、逆再生されるように、彼女の記憶の中を、駆け巡っていく。潮騒病院での日々、患者たちとの触れ合い、そして、悠斗との出会い…。
やがて、光が収束し、凛は、懐かしい星見町の風景の中に、立っていた。
「ここは…?」
凛は、辺りを見回しながら、呟いた。そこは、20年前、彼女が幼い頃に住んでいた、星見町の、見慣れた景色だった。
「…本当に、20年前に、戻ってきたの…?」
凛は、自分の頬を、そっとつねってみた。痛みを感じる。これは、夢ではない。現実なのだ。
「…どうして、私が、ここに…?」
凛は、混乱しながらも、記憶を辿った。悠斗の言葉、時間軸を超えた治療、そして、「アルビレオ計画」…。
「そうだ…私は、時間軸の歪みを、修正するために、ここに来たんだ…」
凛は、自分の使命を思い出し、決意を新たにした。
その時、凛は、遠くから、子供たちのはしゃぐ声が聞こえてくるのに気づいた。声のする方へ、歩いていくと、そこには、幼い頃の自分自身、そして、見知らぬ少年が、一緒に遊んでいる姿があった。
「…あれは、私…?」
凛は、幼い頃の自分自身の姿を見て、驚きを隠せなかった。そして、その隣にいる少年…。凛は、その少年の顔を見て、息を呑んだ。
「…悠斗さん…?」
そこにいたのは、若き日の悠斗だった。彼は、幼い凛と、楽しそうに、星空の話をしている。
「…本当に、悠斗さんだ…」
凛は、感動のあまり、涙が溢れそうになった。
「…でも、どうして、悠斗さんが、ここに…?」
凛は、疑問に思いながらも、二人の様子を、そっと見守ることにした。
「ねえ、悠斗君は、どうして、そんなに星が好きなの?」
幼い凛が、悠斗に尋ねた。
「星は、僕たちに、宇宙の秘密を教えてくれるんだ。遠い昔、何があったのか、そして、これから、何が起こるのか…」
悠斗は、星空を見上げながら、幼い凛に語った。
「宇宙の秘密…?」
「ああ。星は、僕たちの、過去と未来を繋ぐ、架け橋なんだ」
「過去と未来…?」
「ああ。いつか、僕も、お父さんみたいに、立派な天文学者になって、宇宙の謎を、全て解き明かすんだ」
悠斗は、夢を語るように、目を輝かせた。
「すごい…!私も、悠斗君と一緒に、星の研究したい!」
幼い凛は、悠斗の言葉に、目を輝かせた。
「ああ、一緒に研究しよう。そして、いつか、二人で、本当のアルビレオを見に行こう」
「アルビレオ…?」
「ああ。はくちょう座にある、二重星だよ。青と金色の、二つの星が、寄り添うように輝いているんだ」
「わあ、素敵…!私、アルビレオ、見てみたいな…」
「ああ、きっと、見せてあげる。約束するよ」
悠斗は、幼い凛と、星空の下で、約束を交わした。
凛は、二人の会話を聞きながら、胸が締め付けられる思いだった。幼い頃の自分と、若き日の悠斗…。二人は、確かに、この場所で、出会っていたのだ。そして、悠斗は、20年前の約束を、ずっと覚えていてくれた…。
「悠斗さん…」
凛は、涙を流しながら、悠斗の名前を呟いた。
その時、凛は、自分の体から、微かな光が放たれていることに気づいた。
「これは…?」
凛は、自分の手を見つめ、驚きの声を上げた。彼女の手のひらには、アルビレオの絵に描かれた、あの微かな光と同じものが、宿っていたのだ。
「…この光…時間軸の歪み…?」
凛は、直感的に、その光が、時間軸の歪みと、関係していることを、感じ取った。
「…そうだ…私は、この光を、消さなければならないんだ…」
凛は、自分の使命を思い出し、決意を新たにした。
その時、悠斗が、凛の方を、振り向いた。
「…誰か、いるのか…?」
悠斗は、凛の存在に気づき、不思議そうな表情で、尋ねた。
「…悠斗…さん…」
凛は、悠斗に、自分の姿が見えていることに、驚きを隠せなかった。
「…君は…?」
悠斗は、凛の顔を、じっと見つめた。
「…私…は…」
凛は、自分の正体を、どう説明すればいいのか、分からなかった。
「…どこかで、会ったことが、あるような気がする…」
悠斗は、凛の顔に、見覚えがあるような気がして、首を傾げた。
「…悠斗さん…私…」
凛は、悠斗に、真実を告げようとした。しかし、その時、突然、激しい頭痛に襲われた。
「…うっ…」
「大丈夫か…!?」
悠斗は、凛の異変に気づき、駆け寄ってきた。
「…頭が…痛い…」
凛は、頭を抱え、その場に、うずくまった。
「しっかりするんだ…!」
悠斗は、凛を、優しく抱きかかえた。
「…悠斗…さん…」
凛は、悠斗の腕の中で、意識が遠のいていくのを感じた。
「…凛…しっかりしろ…!凛…!」
悠斗は、必死に、凛に呼びかけた。しかし、凛は、そのまま、意識を失ってしまった…。
悠斗は、凛を抱きかかえ、急いで、天文台へと向かった。彼は、美咲に連絡を取り、凛の状態を説明した。
「美咲さん、大変だ…!凛さんが…」
「凛さんが、どうしたの…!?」
「20年前に、タイムリープしたんだ…。そして、そこで、意識を失ってしまった…」
「そんな…」
「とにかく、急いで、凛さんを、元の時間軸に戻さなければ…」
「…分かったわ。私も、すぐに、準備を始めるわ」
美咲は、悠斗の言葉に、事態の深刻さを理解した。
「頼んだぞ、美咲さん…」
「ええ、任せておいて…」
悠斗は、電話を切り、凛を、天文台のベッドに寝かせた。
「凛…しっかりしてくれ…」
悠斗は、凛の手を握りしめ、彼女の無事を祈った。
その時、悠斗は、凛の手のひらに、微かな光が宿っていることに気づいた。
「これは…時間軸の歪み…?」
悠斗は、その光を、じっと見つめた。
「…そうだ…凛さんは、時間軸の歪みを、修正するために、ここに来たんだ…」
悠斗は、凛の使命を思い出し、決意を新たにした。
「凛さん…君の想い、必ず、未来へと繋いでみせる…」
悠斗は、凛の手を、力強く握りしめた。
そして、彼は、凛を救うための、最後の戦いに、挑もうとしていた。時間軸を超えた、愛と希望の物語は、今、まさに、クライマックスを迎えようとしていた。