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時の迷宮、絡み合う運命

凛の意識を時間軸の狭間から救い出すため、悠斗は、父、陽一が遺した「アルビレオ計画」のデータと、アレックスから送られてきた資料を、必死に解析していた。時間軸を超えた治療法を確立するためには、まず、凛の遺伝子情報に混入した、エリザベスの遺伝子情報を、正確に特定する必要があった。


「凛さんの遺伝子異常…やはり、エリザベスの遺伝子情報と、酷似している…」


悠斗は、コンピューターのモニターに表示された、二つの遺伝子配列を、何度も見比べながら、呟いた。


「しかし、時間軸を超えて、遺伝子情報が混入するなんて、本当にあり得るのだろうか…?」


健太は、悠斗の研究に協力しながらも、半信半疑だった。


「ああ。通常では、考えられないことだ。しかし、父さんの研究ノートには、時間軸の歪みによって、遺伝子情報が、別の時間軸に転移する可能性があると、記されている」


「ヨウイチさんの研究ノート…」


「ああ。そして、その歪みを修正するためには、対象者の強い意志と、時を超えた想いが、必要不可欠だと…」


悠斗は、陽一の研究ノートの一節を、読み上げた。


「時を超えた想い…」


「ああ。凛さんは、僕に言ってくれたんだ。『もし、もう一つの時間軸があるのなら、その婚約者に会わせてあげたい』って…」


悠斗は、凛の言葉を思い出し、胸が締め付けられる思いだった。


「凛ちゃん…」


「凛さんの想い、そして、僕の想いが、時間軸を超えた、奇跡を起こすんだ」


悠斗は、強い決意を込めて、言った。


「…悠斗君、君の言う通りかもしれない。凛さんの想い、そして、君の想い…それらが、時間軸を超えるための、鍵となるのかもしれない」


健太は、悠斗の言葉に、希望を見出したように、頷いた。


「ああ。そして、その鍵を、現実に変えるための装置を、開発しなければならない」


悠斗は、そう言うと、ホワイトボードに、複雑な回路図を描き始めた。


「これは…?」


「時間軸の歪みを修正し、凛さんの遺伝子情報を、正常な状態に戻すための、装置の設計図だ」


「そんな装置…本当に、作れるのか…?」


「理論上は、可能だ。しかし、実現するためには、高精度の技術と、膨大なエネルギーが必要となる…」


悠斗は、設計図を指差しながら、説明した。


「…悠斗君、その装置の開発には、私も協力しよう」


健太は、悠斗の目を見つめながら、言った。


「健太…」


「私は、医者だ。凛さんを救うためなら、どんなことでもする」


「ありがとう、健太…」


悠斗は、健太の申し出に、深く感謝した。


その時、病室のドアが開き、美咲と翔太が入ってきた。


「悠斗君、話は、聞かせてもらったわ」


美咲は、真剣な表情で、悠斗に言った。


「美咲さん…」


「私も、協力させてほしいの。ヨウイチさんの研究、そして、凛さんの運命…全てを知る者として、私にも、責任がある…」


「美咲さん…」


「姉さんを…凛を、助けるためなら、俺も、何だってします!」


翔太も、決意を込めて、言った。


「ありがとう、二人とも…」


悠斗は、美咲と翔太の言葉に、勇気づけられた。


「さあ、時間がないわ。早速、準備を始めましょう」


美咲は、そう言うと、悠斗と共に、装置の開発に取り掛かった。


一方、翔太は、凛の母親である美月に、会いに行くことにした。彼は、美月から、20年前の出来事について、もっと詳しく話を聞く必要があると感じていた。


「母さん、話があるんだ」


翔太は、自宅のリビングで、神妙な面持ちで、美月に言った。


「話…?」


「ああ。20年前のこと…あの天文台で、一体、何があったんだ…?」


翔太は、美月の目を、真っ直ぐに見つめながら、尋ねた。


「翔太…」


「母さんは、何かを知ってるんだろ?姉さんの病気のこと、悠斗さんの過去のこと…全て、話してほしいんだ」


「…分かったわ。全て、話しましょう…」


美月は、観念したように、深くため息をついた。そして、彼女は、ゆっくりと、20年前の出来事について、語り始めた。


「20年前、あの天文台で、桜井博士は、時間に関する、ある実験を行っていたの…」


「時間に関する実験…?」


「ええ。タイムリープ…時間移動を、実現するための、実験よ…」


「タイムリープ…」


「ええ。そして、その実験は、失敗に終わった。制御不能なエネルギーの暴走…そして、強い閃光…私は、遠くから、その光を見たの…」


美月は、当時の光景を思い出したのか、体を震わせた。


「その光…姉さんも、見ていたんだ…」


「ええ。そして、その光は、凛の体に、何らかの影響を与えてしまったのかもしれない…」


「そんな…」


「桜井博士は、実験の後、行方不明になったの。そして、このことは、誰にも言わないようにって…」


「父さんも、知っていたのか…?」


「ええ。でも、お父さんは、凛のことを、ずっと気にかけてくれていた。凛の病気が、自分の研究のせいかもしれないって、ずっと、苦しんでいたわ…」


美月は、涙を浮かべながら、語った。


「そんな…」


「そして…桜井博士は、実験を行う前に、私に、こう言ったの…『もし、実験が失敗したら、娘さんを、頼みます』って…」


「姉さんを…?」


「ええ。桜井博士は、実験の危険性を、十分に理解していたの。そして、最悪の事態を、想定していた…」


「じゃあ、姉さんの病気は…」


「ええ。桜井博士の実験が、原因である可能性は、高いわ…」


「そんな…」


翔太は、言葉を失った。凛の病気、そして、自分たちの家族が背負ってきた、重い十字架…。彼は、その事実に、打ちのめされていた。


「でも…希望はあるわ」


美月は、翔太の肩に、そっと手を置いた。


「希望…?」


「ええ。悠斗君が、アメリカで、時間軸を超えた治療法の研究を、進めている。そして、凛を救うための、手がかりを、見つけようとしている…」


「悠斗さんが…」


「ええ。そして、その研究には、桜井博士が遺した、『アルビレオ計画』のデータが、重要な役割を果たしているの…」


「アルビレオ計画…」


「ええ。時間軸の歪みを修正し、凛の遺伝子情報を、正常な状態に戻すための、計画よ…」


「そんなことが、本当に、できるんですか…?」


「…分からないわ。でも、悠斗君は、信じている。凛を救えると…」


美月は、遠くアメリカにいる悠斗に、想いを馳せた。


「…俺も、信じたいです。悠斗さんのこと、そして、姉さんの未来を…」


翔太は、美月の言葉に、力強く頷いた。


その頃、潮騒病院の一室では、佐藤が、一人、ベッドの上で、何かを呟いていた。


「時間軸…歪み…修正…エリザベス…凛…」


佐藤は、うわ言のように、意味不明な言葉を、繰り返していた。


「元の時間軸に…戻らなければ…」


その時、佐藤の目が、 হঠাৎと見開かれた。彼の瞳には、強い意志の光が宿っていた。


「そうだ…私には、まだ、やるべきことがある…」


佐藤は、そう言うと、ゆっくりと、ベッドから起き上がった。そして、彼は、誰にも気づかれないように、病室を抜け出し、夜の闇の中へと、消えていった…。

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