時の牢獄、揺らぐ心
悠斗の告白を聞いた凛は、彼の壮絶な過去、そして、自分に課せられた、あまりにも重い運命に、言葉を失っていた。
「そんな…悠斗さんが、そんな辛い過去を…」
凛は、ベッドの上で、震える声で言った。
「すまない、凛さん。僕の研究が、君の運命を、狂わせてしまった…」
悠斗は、凛のベッドの পাশেに跪き、頭を下げた。
「そんなこと、言わないでください。悠斗さんは、悪くない…悪いのは、時間なんていう、目に見えない、残酷な力なんです…」
凛は、悠斗の頬に、そっと手を伸ばした。
「凛さん…」
「悠斗さんは、私を救うために、アメリカに戻ったんですよね…?だったら、私は、悠斗さんを信じます。必ず、私を、助けてくれるって…」
凛は、悠斗の瞳を、真っ直ぐに見つめながら言った。
「ああ、必ず、君を救ってみせる。そのためなら、僕は、どんなことでもする」
悠斗は、凛の手を、力強く握りしめた。
「でも…もし、悠斗さんが、エリザベスさんを、元の時間軸に戻すことができたら…私…」
凛は、不安げな表情で、言葉を濁した。
「凛さん…?」
「私、消えてしまうんでしょうか…?悠斗さんと出会う前の、元の運命に、戻ってしまうんでしょうか…?」
凛の瞳から、大粒の涙が、こぼれ落ちた。
「そんなことは、絶対にさせない。僕は、君を、絶対に失いたくないんだ」
悠斗は、凛を、強く抱きしめた。
「悠斗さん…」
「たとえ、時間軸が、元に戻ったとしても、僕は、必ず、君を探し出す。何度でも、君と出会い、何度でも、君を愛する。それが、僕の、運命だから…」
悠斗の言葉に、凛は、胸が締め付けられる思いだった。
「悠斗さん…私も…私も、悠斗さんと、ずっと一緒にいたい…」
凛は、悠斗の胸に、顔を埋め、嗚咽を漏らした。
その時、病室のドアが開き、健太が入ってきた。
「凛ちゃん、悠斗君、話は終わったかな…?」
健太は、二人の様子を見て、複雑な表情を浮かべた。
「健太…」
「…先生…」
悠斗と凛は、体を離し、健太の方を向いた。
「悠斗君、君に、伝えなければならないことがある」
健太は、真剣な表情で、悠斗に言った。
「伝えなければならないこと…?」
「ああ。凛さんの病気についてだ。そして…君の過去の研究について…」
健太は、悠斗に、凛の遺伝子異常と、彼のタイムリープ実験との関連性について、改めて説明した。そして、アレックスから得られた情報をもとに、凛を救うための、唯一の希望、時間軸を超えた治療法について、詳しく語った。
「時間軸を超えた治療法…そんなことが、本当に、可能なのか…?」
悠斗は、健太の話に、半信半疑だった。
「理論上は、可能だ。しかし、実際に、時間軸に干渉することは、極めて困難であり、未知のリスクを伴う…」
「リスク…?」
「ああ。最悪の場合、凛さんの存在そのものが、消滅してしまう可能性も、ゼロではない…」
健太の言葉に、悠斗は、愕然とした。凛を救うための治療が、彼女の命を、奪ってしまうかもしれない…?
「そんな…」
「しかし、他に方法はないんだ。凛さんを救うためには、この方法に、賭けるしかない…」
健太は、苦渋に満ちた表情で、言った。
「…悠斗さん…」
凛は、不安げな表情で、悠斗を見つめた。
「…凛さん、僕は…」
悠斗は、言葉を詰まらせた。彼は、凛を救いたいと、強く願っていた。しかし、同時に、彼女を失うことへの、恐怖に、苛まれていた。
「悠斗さん、私は、怖くありません。だって、悠斗さんが、一緒にいてくれるから…」
凛は、悠斗の手を、そっと握りしめた。
「凛さん…」
「それに、もし、私が消えてしまっても、悠斗さんが、私を、探し出してくれるんですよね…?何度でも、出会ってくれるんですよね…?」
凛は、悠斗の瞳を、真っ直ぐに見つめながら言った。
「ああ、約束する。何度でも、君を探し出す。何度でも、君と出会い、何度でも、君を愛する…」
悠斗は、凛の言葉に、決意を新たにした。
「悠斗君、凛ちゃん…二人とも、よく考えて、決断してほしい。これは、君たちの、未来を、決める、選択なんだから…」
健太は、二人を、優しく見守りながら言った。
「…健太、僕は、決めたよ。凛さんを救うために、時間軸を超えた治療に、挑戦したい」
悠斗は、強い意志を込めて、健太に言った。
「悠斗さん…」
「凛さん、君の、意志を聞かせてほしい」
悠斗は、凛の瞳を、真っ直ぐに見つめた。
「…私…私も、悠斗さんと、同じ気持ちです。どんなに、辛い未来が待っていても、悠斗さんと一緒に、乗り越えたい…」
凛は、涙を浮かべながら、力強く言った。
「凛さん…」
「二人とも…分かった。私も、全力で、協力しよう」
健太は、二人の決意を受け止め、力強く頷いた。
「ありがとう、健太」
「ありがとう…ございます…」
悠斗と凛は、健太に、深く感謝した。
「しかし、時間軸を超えた治療を、実現するためには、多くの困難が、予想される。まずは、悠斗君の、アメリカでの研究成果が、必要不可欠だ」
健太は、今後の課題について、冷静に分析した。
「ああ。アレックスと協力して、必ず、治療法を、確立してみせる」
悠斗は、決意を新たに、言った。
「そして、もう一つ、重要な問題がある」
健太は、深刻な表情で、言葉を続けた。
「もう一つの問題…?」
「ああ。時間軸の歪みを修正するためには、膨大なエネルギーが、必要となる。そして、そのエネルギーを、安定的に供給する、装置を、開発しなければならない…」
「そんな装置…現代の科学技術で、可能なのか…?」
「…正直に言って、難しいだろう。しかし、希望はある」
「希望…?」
「悠斗君のお父様、桜井陽一博士が遺した、『アルビレオ計画』のデータだ。あの中に、時間軸の歪みを、操作するための、ヒントが、隠されているかもしれない」
「父さんの研究…」
「ああ。そして、その研究の鍵を握るのが、凛さんが描いた、アルビレオの絵なんだ…」
「私の…絵…?」
凛は、健太の言葉に、戸惑いを隠せなかった。
「凛さんが描いた、アルビレオの絵には、悠斗君にしか見えないはずの、特殊な光が描かれていた。そして、その光は、時間軸の歪みと、深く関係している可能性があるんだ」
「そんな…」
「凛さん、君の絵は、時間軸を超えた、メッセージなのかもしれない。そして、そのメッセージを、解読することが、君自身を救うための、鍵となるんだ」
健太は、凛の瞳を、真っ直ぐに見つめながら言った。凛は、自分の絵に、そんな力が秘められているとは、思いもしなかった。しかし、同時に、彼女は、自分の絵が、悠斗と、そして、自分自身の運命を、繋ぐ、架け橋となることを、確信していた。
「私…悠斗さんの力になりたい…」
凛は、決意を込めて、言った。
「凛さん…」
「悠斗君、凛ちゃん、二人で力を合わせて、必ず、未来を切り開くんだ」
健太は、二人を、力強く励ました。
悠斗と凛は、互いに、顔を見合わせ、力強く頷いた。彼らは、まだ、多くの困難が待ち受けていることを、知っていた。しかし、同時に、二人で力を合わせれば、どんな困難も、乗り越えられると、信じていた。
そして、運命の歯車は、再び、大きく動き始めようとしていた。悠斗と凛、そして、彼らを取り巻く人々の、時を超えた戦いが、今、まさに、始まろうとしていたのだ。