第9話 新たな仲間
「へぇー、歴代の『伝説』ねえ…」
この国における『伝説』は二種類ある。
一つは遥か昔に名を残し、死後に評価されて『伝説』となった人物。
もう一つは帝国軍在籍中にその強さと功績が称えられ『伝説』の称号を受け取った人物である。
前者は『エイミー帝国独立の英雄』マーク・エイミー、『エイミー帝国軍創設者』フー・ザイストン元大将など。
後者は『不屈の救世主』レイン・ロンデン元中将、あとは私か…。
まあそんなもんだろう。
今私の目の前には、その『伝説』の人物が歴代で並んでいる。
前者の人物はその二人以外あまり知らないが、後者は実際に見た事があるので知っている人物が多い。
という事はもしかして…私もあるのか…?
あえて答えは見ないように少しずつ少しずつ見ていった。
『伝説』の覧の…一番最後に…あー、ありますね私。
一応見てみますか…。
えっと…『帝国の守り神』バースリー・クラン…。
説明は…読みたくねぇー…!!
わざわざ自分自身の事が詳細に書かれているものを読むべきかどうか迷っていると…
「この方が気になるんですか?」
「うお!?」
急に話しかけられて驚いた。
思わず変な声上げちゃったよ恥ずかし。
薄く赤みがかった髪色をした女の子…この子も結構若いな。
だからいいなあ、若いって…。
「伝説の…本当に本当の意味で『伝説』の人、ですよね!!」
そこまで持ち上げられるとこっちが困ります。
「もう一度、会いたかったなあ…」
今会ってますから、目の前に居るからその人。
「あ、ごめんなさい!急に話しかけちゃって」
別に構わないよという感じで手を横に振っておく。
「シャルロット・スイレーンと言います。あなたと同じ槍メインです!」
嗚呼、眼鏡かけてるだけで本人だってバレないとは…持ってきてよかったよ…。
自分も自己紹介しようと思った時…。
「___おーい!急にどこ行くんだー!?」
振り返ると一人の男がこちらに向かって走ってきているのが見えた。
「気が付いたらどっか行っちまうからびっくりしたぜ。目立つ髪色で助かったけどよ」
こいつはまた体つきのいいデカいやつだな。
「知り合い?」
「知り合いというか、今朝知り合ったと言いますか」
「俺はシュウヘイ・アサダ。コイツが道に迷っててよ、ここまで案内してやったんだ」
なんかいかにも前衛張ってて頼もしそうな感じの性格かつ肉体をしておる。
「もしかしてサーモンド地方の出身か?」
「おう!それに気づけるとはコイツと違うな!」
サーモンド地方はエイミー帝国よりはるか前、ドザーナ王国時代から仮名文字文化が根付いていた地方。
他の地方や国では見ない独特な名前を用いている人が多い。
コイツってシャルロットちゃんの事か…。
「私はホリージョン・レイラー。ところでシュウヘイ、武器はどうしたんだ?」
シャルロットは槍を持っている、当然私も持っているが。
しかし何故かシュウヘイは武器を持っていない。
「俺か?俺の武器はな、"これ"だ!」
そういって右手をグーにしてこっちに見せつけてきた。
…つまり拳が武器ということか。
「イマイチ武器なんて不器用で扱えなくてよ、もちろん魔法とかもっと無理だしな!」
自信満々に無理と言われても、何もかも扱えた私にはどう反応すればいいか困る、とても困る。
あ、私も魔法は扱えませんね。
「これって敬語無しの方がいい?」
さっきまで敬語だったからか、不思議がるように聞いてきた。
「私達は同期だから、敬語は無しで頼むよ。堅苦しいのは苦手だからね」
これは少将時代も同じで、私の部下には基本敬語を使わせなかった。
どうしても敬語がいい!って奴も居たりしたが。
「なら呼び捨てにしたほうがいいのか」
もう既にシュウヘイの事呼び捨てしましたけどね、私。
「ああ、私の事は好きに呼んでくれて構わないよ」
むしろ今まで本名を使わなすぎたし呼ばれなさすぎてどう呼ばれるのが正解かなんて私が一番知らない。
新たな基準を作るといったらおかしいが、この二人に決めてもらう方がいいだろう。
「じゃあホリーでいいか?」
「もちろん。シャルロットは何て呼べばいい?」
「シャルで!!」
こちらは既にどう呼ばれてほしいか決まっていたようだ。
「じゃあシャル、シュウヘイ。二人ともよろしく」
「おう!」
「よろしく!!」
本当にたまたまだが、仲間が二人もできるとは。
それにこの二人、私から見てもとてもいいものを持っている。
シュウヘイはその拳が武器であるように、肉体はもう完成形に近いだろう。
後は不器用とは言っていたがその肉体を活かした技術を身につければさらに強くなる。
シャルは槍の基礎、つまり基本の構えから基礎の技術を学べば誰よりも…攻撃面なら昔の私をも凌ぐだろう。
だってこの子は恐らく…。
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「_____以上が今回の報告になります」
「そう、わかったわ」
今回も秘書から聞いた報告に、特におかしな点は無い。
先月まで連日続いていた将校殺人の報は今月に入って途絶えたまま。
ドザーナ王国や他の国からの連絡も戦争の情報も何もなし。
これは私にとっても軍そのものにとっても喜ばしいほかない。
後はついさっき行われた試験の結果と内容次第かしら。
そう思って椅子に座り、明後日の方向を見ながら頬杖をついていると、私のこの部屋をノックする音が聞こえる。
「どうぞ」
一拍置いて、この部屋唯一の豪華な両開きの扉が片方開く。
ガチャと開いて一人の女性が入り、バタンと閉まる。
数歩歩き、敬礼をする。
「エレン・ローンセル中将です。此度の試験結果とその内容をお伝えいたします、総司令」
「ええ、続けて」
「まず定員300名に対して100名ちょっと…114名ですね。全員合格です」
やっぱり…今月の死者が無しとはいえ先月の将校殺害のイメージ及び損失は大きかった。
定員まで集まらないとは思っていたけれど、100名を超えたのはまず一つ収穫と言えるかしら。
「メイン武器の割合は槍が一番多く40名、続いて剣が33名、魔法が25名、矛が7名、その他が8名となっています」
槍か…。
メイン武器の項目のうち最も扱いやすい武器。
相手と距離を取れる事で生存率が高くなる事。
その扱い方も刺すだけという直線上では魔法を除けば最も強い武器、といったところかしら。
「それで、有望そうなのはいた?」
時期もそうだが、将校を大量に失った後だから、即戦力になりうる者はチェックしておく必要がある。
「まず今年にエイミー帝国国立大学より主席で卒業が確定している22歳、ロベルト・レーヴァー。石壁を素手で破壊した28歳、シュウヘイ・アサダなどですね」
主席卒業の方はともかく、もう一人は実際に見てみる必要があるかしら。
「それと、今回の試験官は私含め三人だったのですが…満場一致で一番の有望株に推したい人物が一人。名前は、ホリージョン・レイラー。48歳です」
「メイン武器は?」
「槍を選択しています」
「そう、わかったわ。お疲れ様」
「では、報告は以上になります」
再び彼女は敬礼をし、そのまま部屋を出る。
秘書も誰も居ない。私しかいない静寂の空間に、またさっきのように頬杖をついて明後日の方向を見る。
けれどさっきと違う点が一つ、私は無意識に笑っていた。
それに気づいたのは、その事実とその報告にとても嬉しく、楽しみに思ったから。
「やっと来たわね、クソ兄貴」
さあ早く、その姿を私に、他の皆に、見せなさいな。