第5話 首都商店街
あれからしばらく歩いたが『奴』の気配は感じ取れない。
やはり私から離れたと考えるのが妥当だろう。
いろいろ考えているうちに、予想通りか、商店街にたどり着く。
やはりというべきか、10年も経てば賑わいも変わり、ホテル街とは打って変わって人通りが多い。
昔はまだ出店したばかりの店が多く、商店街とは名ばかりのものだったが…。
たがしかし、顔見知りが居る可能性の高い商店街を通るのはやめる事にする。
チラッと様子を見れただけでも十分だ。
これから私は目立たない方向で行くからな、うん。
大丈夫かな…ただの怪しい者になってないよな?
その時私は、とあるレストランを発見した。
レストランの名前は【ある日や】。
店の扉の上にでかでかと文字で書いてある。
しかしレストランなのに弁当も売っている…まあ店によって働き方はそれぞれか。
営業時間内なのか、中には黒髪の女性が一人、店員だろうか?
10年前には無かった店だ。
昼食と夜食を探していた事もあり、立ち寄ってみる事にする。
「こんにちは」
「はーい!少々お待ちをー!」
元気のいい声が聞こえてきた。アリシューザ寄りの元気のいい声だ。
「いらっしゃいませ!観光客の方ですか?」
「どうしてそう思ったの?」
「いえ!この辺で見ない方だったので!」
…という事は私の知り合いでは無いな、よし。
「明日のエイミー帝国軍の試験の受験者だよ。今日の昼と夜用のご飯を買おうと思ってね」
明日の朝飯も本来なら必要だが、さすがに三食連続で同じというのも飽きるので、明日は明日で買う事にする。
「なるほど、エイミー帝国軍ですか!それはそれは頑張ってください!あ、店内へ入られますか?」
「入っていいのか?」
弁当屋ってよく知らないけど店の中入らないものではないのか?
あ、ここレストランか。
「いえ、たぶんお客さんが本日昼の最後の客だと思うので!それにこの辺の方でないのならもしよければいろいろ地方の事などお聞かせ願えたらなと!」
なるほど、まだ若そうな女の子だし、色々知りたいお年頃…なのかな?
私にはそんな時期無かったのでこれもまたよくわからない。
「私は別に構わないよ」
ではでは!と、中に案内されたので入る事にする。
どうやら洋風レストランのようで、カウンターには酒なのかカクテルなのか瓶が立ち並んでいる。
しかしバーでは無いみたいだ。
「ところでお客さんはどちらから?」
「ウィズベリー地方って分かるかな」
「もしかして結構端っこにある田舎の所ですか!?」
「そうそう、それそれ」
マジで何もないド田舎ね…怒られないよね私…。
「一度行ってみたいですね~。でもそっちから来る方は初めて見ました!私、ファンレー・ショートっていいます!是非覚えて帰ってくださいね!!」
元気いっぱいだし、愛想のある子だからこの商店街でも名前が知れているんだろうな。
わざわざ覚えて帰ってほしいって事はよほど好かれたいんだろう。
弁当の味も余計に気になるところだ。
「私はホリージョン・レイラーね」
「素敵な名前ですね!失礼ですがおいくつですか?」
「…48歳だよ」
あんまり答えたくなかったんですけど…。
「えっ!?お若く見えますよ!!てっきり30代前半かと…」
そうなの!?そんなに若く見えるのか私は…。
その後彼女はウィズベリー地方の事、ここまでどうやって来たのかと色々聞いてきた。
特急ヘンドリット号にも乗りたがってたな…。
まあ別に聞かれて困る事ではないし、私も素直にそのまま話した。
「すみません色々聞いてしまって!弁当は何になさいますか?」
彼女はメニュー表を渡してくる。
えっと…骨付き肉入り肉弁当…野菜たっぷり弁当…。
このほかにもいくつか種類があり、名前は単純だが写真ではとても美味しそうに見える。
そうだな、昼と夜で別のを食べたいから、この二つで行こうか。
「それじゃあ骨付き肉入り肉弁当と野菜たっぷり弁当を一つずついいかな」
「はい!かしこまりました!!」
そう言って彼女は厨房へぱたぱたと行く。
席で待つ事10分、二つの弁当が箱に入った状態で出てくる。
「おまちどおさまです!!」
「ありがとう。えっと、いくらかな?」
「いえいえ!色々聞かせてもらったお礼に一つ分はサービスです!!なので弁当一つで350エイミーです!!」
「そ、そうか」
こちらとしては久々にアリシューザ以外の人と会話出来て嬉しかったから普通に二つ分払うつもりだったんだが…。
まあ性格とかタイプとかは大分アリシューザ寄りだけれども。
「いろいろありがとうございました!また来てくださいねー!!」
振ってくる手をこちらも振り返して帰路につく。
このまま探索を続けてもいいが、明日の為に身体を休めるか…。
ついでにホテルの部屋に電話があるのならアリシューザに連絡を入れとこう。
ホテルを出て一時間は経ったのかな?フロントの時計は14時を指していた。
部屋のカードキーを貰い、また階段と長い廊下を歩かなければならないのかと考えながら部屋へ向かう。
「やっぱり遠い…」
ため息ではなく言葉で出てしまったか私よ…。
さて、まずは遅くなったが昼ご飯といこうか。
…とも思ったが、朝から昼にかけて電車内で寝てばかりだったこともありそこまで腹は減っていない。
という事で急遽予定を変更し、一食は18時ごろに、もう一食は明日の朝ご飯に回す事にした。
ならさっき思いついたようにアリシューザへの電話をしようか。
えっとこの部屋に電話は…テレビの横にあるのが見えた。
我が家の電話番号を入力し、それに掛ける。
数回コール音が聞こえた後、いつもの元気な声が聞こえてきた。
『はーいこちらレイラー農園ですー』
「あー、アリシューザ?私だよ」
『殿ですか?どうしました?』
というか私の農園ってレイラー農園って名前だったの?初耳なんだけど。
「君がとってくれたホテルに着いたから、一応連絡をと思ってね」
実際にホテルに着いたのはもう一時間以上前だけど。
『大丈夫でした?ちゃんとフロントの人と話せましたか?』
いや、コミュ障では無いんですが…。
「それは流石に問題なかったよ。確かに最近アリシューザ以外とは話してないけれども…」
『そういえば殿、私が朝言ってた忘れもの、思い出しましたか?』
…あれから何度か電車の中でも軽く考えたりしたが、やはりというべきか、分からなかった。
まずそれが物なのかどうかさえ分かっていない。
何よりヒントが少なすぎるというか…。
「…いや、まったくだよ。そろそろ教えてくれてもいいんじゃないか?」
『ダメですよ!それに別に忘れてても大丈夫ですから!』
だからその忘れててもいいって何だ?
余計に何なのか気になってくるんだが…。
「忘れたまま試験に臨めと?」
『あー、試験は…どうでしょうね?試験の前だと思いますよ!』
「私の忘れ物がか?」
『はい!!』
……。
いやいやいや、もうわかんないって!
これもう思い出すの諦めた方がいいかもなぁ…。
『それともう一つ、試験に合格したら連絡くれませんか?』
「いいけど、軍の施設内に電話があるのか?」
『あーどうでしょう?昔はありましたけど…』
確かに10年前見た時にはあったが、今もあるとは限らない。
それこそ連絡手段が増え、連絡するにも盗聴だとかでいろんな危険が潜んでいる事を世界が認識したのも新しいからだ。
「まあその、連絡無かったら受かったと思ってもらえるか?」
正直この手段が一番妥当だと思う。
『あーいいですね!そうしましょう!!』
ここまで来たからには落ちる気なんてさらさら無いけどね。
「じゃあ、そんなもんでいいか?」
『はい!!では殿、明日頑張ってください!!』
…と言って電話は切れた。
さて、夕飯までやる事が無くなった。
とりあえず、適当に寝て適当に飯食べますか。