表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/24

第4話 エイミー帝国首都


「やっぱりすごいな…」


エイミー帝国首都中央駅、降り立つと天井はほぼガラス張り、横はレンガの壁となった一見豪華そうでそうでもなさそうな駅だ。

夏とかとても暑そうな駅だと何度思った事か…。

そしてこの駅はとにかくホームが長い。

ヘンドリット号が機関車含め9両あるが、このホームはもっと長い。

なぜこんなに長いのか、20年前から思ってはいたが興味なかった事もあり理由は知らない。


中央駅付近は先ほど車窓から見えた役所や教会、少し歩けばホテルや商店街も並ぶ言わば何でも揃っている町である。

今の時刻は十二時過ぎ、これから私は今日泊まるホテルへ向かっている。

駅からは歩いて十五分か二十分くらいだ。

エイミー帝国軍の試験申し込みは明日なので、今日は早めに寝る事になるだろう。



さて、明日の事などいろいろ考えているうちに今日泊まるホテルへ到着した。

レンガ造りの三階建てで、広大な平地を利用した横長のホテルとなっている。

チェックインの時間はアリシューザが勝手に指定していたが、果たして大丈夫だろうか…。


「いらっしゃいませ、チェックインですか?」

「はい」

「お名前は?」

ここでいつもの癖でバースリー・クランと名乗らないように…。

「ホリージョン・レイラーです」

「かしこまりました」

そう言って受付の人は何やら書類を確認している。

程なくして

「ホリージョン・レイラー様ですね。確認が取れましたので、こちらルームキーです」

番号は…302号室か、という事は端っこの方では?

「こちらの部屋はすべてオートロックとなっております。外出の際はお気を付けてください」

「わかりました。ありがとうございます」

最近アリシューザから物忘れが…激しいとまでは言われてないが、それでも自分でも気を付けなければな。

階段を上り、302号室まで向かう。

やはり例の部屋はこのホテルの端っこであり、長い廊下を歩かなければならない事に小さくため息をついた。

しかしこの程度でため息をついていては軍に入った後どうするのかと、自問自答しながら部屋にたどり着く。


ルームキーはカード型で、一度差し込む事でロックが解除された。

ドアを開けるとそこは至って普通の部屋、シングルベッドで、小さなテレビが横にあった。

あまり高いホテルではないので、風呂とトイレが共用である。

窓からはさっきまで歩いていたエイミー帝国首都の街並みがちょっと低いが一望できる。

あまり高い建物が存在していない事も、この景色を見れる一因だろう。

「10年前とあまり変わらないが、綺麗な街並みだ」

思わず言葉が出てしまう。

えっと、荷物を置いて、これからする事は…一応夕飯の買い出しくらいか?

ついでに10年前とは違う点を探しに行くのもありか。

という事は財布と念のため眼鏡を…視力は悪いわけではないのだが、私がバースリー・クランだという事を気づかれないようにする為だ。

アリシューザは「必要ありませんよそんなの!!」とか言ってたが…。

すまない、私にもいろいろあるのだよ…。

あ、ルームキーも忘れないようにしないとな。


フロントに鍵を預け、外に出る。

今は冬を越したばかりで雪はとっくにないものの、昼間だというのに少しだけ肌寒い。

もう一枚着てくるべきだったかな?

さてさて、どちらから行こうか。

右か左か、私も首都に詳しいわけではないが一度は住んでいた場所であり、第二の故郷でもある。

とりあえず左から行ってみるか…左から行くのに特に理由は無いが。

しかし歩いてホテルを眺めているとやはりこのホテルは長い。

いや長すぎだろってレベルだからな…。

このまままっすぐ行けば私の予想では商店街の方に出るはずだ。

10年前からある店があるだろうか…いや入りはしないが

ここはホテル街という事もあり普段は人が多いのだが、今日は珍しく少ない。

いや10年前がそうだったから今もそうではないということだろうか?


…そんな時、背中から異様な気配を感じ取った。

丁度ホテルの端っこから隣の家を通りがかったあたりでだ。

なんだこれは?私に向けられた殺気か?

普通に考えたらホテルと民家の隙間に誰かいたという事だろうか。

確かに普通の人間なら楽々通れる横道みたいなものだったが、視界には誰も写っては居なかったはず…。

しかし、それを考えているうちにその殺気のようなものは更に増している。

私は一度振り返り、後ろを見た。

…やはりそこには誰も居ない。

その殺気を出しているであろう『奴』は近くに居ると判断して、私は話しかける。

「私に何の用だ?」



…。



しばらくの沈黙が流れた後、『奴』はこう返した。

「なんだ、やっぱり気付いてたの」

女性…それも若い女性の声が聞こえた。

「お前、明日の帝国軍試験に参加する奴か?」

女性の言葉使いでは無いな、もしかしたら魔法で声色を変えているのか?

「ああ、その通りだが」

「…ふっふっふ、そうかそうか」

彼女は少しだけ笑った。

どこか期待しているかのように。

「今帝国軍にはお前のような強そうな奴は少ない。名前も知らないが、期待しているよ」

つまり帝国軍の者なのか?

しかし、この時間帝国軍兵士は敷地の外へは出られないはず…それこそ戦争でも起きてない限りは…。

「期待の新人様に、いい事を一つ教えてやろう」

いい事だと?

「この首都で今何が起きているか、しっかり見て見るんだな。敵は、王国だけではないのかもしれん」

王国…ドザーナ王国の事を指しているのだろうか。

()()()()()()()()()()()()よく考えて決めるんだ。じゃあな、いずれ逢う日を待っている…」


そう言って、『奴』は気配を消した。

戻って確認すべきだろうか?いや、もうそこには居ないだろう。

私はしばらく『奴』が居たであろう場所を眺め続けた。

…が、もう何も得られやしないと、商店街の方を向き直し、再び前を向いて歩き始めた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「へぇー、噂には聞いてたが…まさか本当に戻ってくるとはな」

首都のとある家の屋根の上で、『奴』は小さく笑った。

「今年は私にとって面白いことだらけだが、これはまた面白いものが増えそうだな」

『奴』は不敵な笑みを浮かべ、相手もなく話し続ける。

それは独り言なのか、それとも見えぬ相手でも見えているのか。

「なあこの話…誰かに話すべきかぁ?フローちゃんよぉ…」

誰かの愛称とも取れる名前を『奴』は呼んだが、そんな者どこにも近くにも居ない。


「ふっふっふっふっ…」

不敵な笑みを浮かべながら、さらにまた小さく、『奴』は笑い続けるのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ