第22話 あの時のように
帝国軍に入って、3日目。
昨日も槍術稽古講師であるシルビィ中将の指示は変わらずで、私も一昨日と同じトレーニングを続けていた。
それで今日、ついさっきシルビィ中将から指示が出たが…やはり変わらずであった。
なら私も同じようにやるしかない!!
…というわけで、今日も今日とて適当な方向を向いて目を閉じている。
チラッとシャルの方を見た。
何故かわからないが私のマネをしているようで、目を閉じていた。
ごめんなさいシャルロットさん、マネ…出来てないです…。
やっぱり私の教え方が悪いんだろうなぁ。
「うーん、上手くいかない…」
そりゃそうでしょう、私の教え方が悪いからね…。
そんな事を思っていると、他の人からこんな声が聞こえてきた。
「おい、あいつ昨日からずっとあんな感じだぞ?」
「ああ、寝てるのかわからないが…」
ちょっとちょっと、聞こえてますよ?
「シルビィ中将、他人を攻撃していいって言ってたよな?」
おっと?遂に来るか?
私はずっとこの時を待っていた。
さあ3人とも、早く攻撃してくるといい。
「ああ、俺達3人なら行けるんじゃね?」
「よし、上手い事バラけて…一気に行くぞ!」
あの…声小さいけど普通に聞こえるんですが…。
彼ら3人はその言葉通りバラけたようで、一人はそのまま正面、一人は右、もう一人は左斜め後ろ付近に居るようだった。
1…2…3…4秒ぐらいか。
"パチンッ"
音の方向的に右の奴が鳴らしたんだろう。
一斉に、私に向かって襲い掛かってきた。
さて、どうくる?…というか、まだ実戦も何もない生まれたて3日の兵士達だ。
作戦も何もないだろう。
バラけた距離の問題で、正面に居た奴の攻撃が一番最初に来た。
ふむ、上から突き刺そうとしてきたか。
このトレーニングで重要な事なのだが、極力攻撃を避けず受け止めるかはじき返す事。
やむを得ない場合はともかく、これは気配のトレーニング。
その攻撃の『殺気』をピンポイントに当てる事が重要なので、避けていては意味が無い。
当然、目も閉じていますよ。
私は自分の右手に持っていた槍を自分の目の前に持ってくる。
そして、良きタイミングで真上に突き上げた。
するとどうだろう?
すぐ目の前に、私に刺さる直前だった槍は持ち手の中間の下から弾き飛ばされ、カシャンッ!…と音を立てて転がった。
次は右か…。
こちらは私の腰付近目掛けて槍を持ったまま突っ込んでくる。
あいにく彼を傷つけるわけにもいかない。
私は持っていた槍を右後頭部付近に持ってきて、右斜め後ろ方向へ一気に振り落とした。
私の槍の刃部分が相手方槍の持ち手先端に当たった。
彼は「うわっ!?」という声を上げた後、倒れこんだであろう音がした。
大丈夫?怪我してない?
一番遠かったであろう3人目。
彼は2人目が倒れこんだ前後のタイミングで私の顎下に槍を突き付けてきた。
が、ここで彼の行動が止まる。
1、2人目がやられたのが見えたのだろう。
かすかに、槍が震えているのが分かった。
ここは一つ、彼らを安心させてやるか。
「大丈夫ですよ。私は貴方達を傷つけたりはしませんから」
優しく、穏やかに言った…つもりだったんだが…。
彼らは、私が目を閉じているのにまるで全て見透かしたような行動と言動に驚いたのか、3人揃って遠くへ行ってしまった。
…おかしいな、そんなつもりなかったのに。
その、数分前…。
「はーあ、まったく、やってらんないですよ」
槍術稽古場を入ってすぐのところに、パイプ椅子と机があり、そこに突っ伏した男性が一人。
ジェイミー・タウンゼント大佐だった。
「いいじゃないですか、たまには…ね?」
その横には槍術稽古講師…もとい、部下へ全て丸投げしたダメ講師こと、シルビィ・ライラ中将だった。
「いや俺…メイン武器槍じゃなくて剣なんですけど?」
「剣の方は剣術講師がやってるんでしょう?邪魔しちゃ悪いですよ!」
「だからって、こっちはアンタが丸投げしてるから…見るも何もないじゃないですか…」
いやいやいや、まだ何が起きるかわかんないよ?ジェイミー君!
その為に一週間張り込んでるんだからね!
「まったく…お?」
あれ、何か見えたのかな?
私からは何も見えないんですがー?
なーぜー?
「ほら、あれですよあれ。噂の新人のホリージョン・レイラーですよ。あの銀髪の」
それは見えてるんだけど。
「なんかその…不思議な感覚なんですよ。あの人見てると」
不思議な感覚…?
ちょっと集中して見てみるか…。
そして次の瞬間、近場に居た3人がホリージョン・レイラーに攻撃を仕掛け、一瞬で決着がついた…様に見えた。
私は今、身体に電撃が走ったような…とある記憶を思い出した。
『少将様!今日もお手合わせお願いします!』
えっ…?
今のって…。
どうしてあの時の記憶が今…。
『今日もいい槍さばきだったよ。私もいいトレーニングになった』
あっ…。
私は思わず立ち上がってしまう…。
え…でもあの人は…。
いいや…確かめてみるしかない…。
今日の午後…あの時のように…。
「…どうしました?」
はっと気づいて、ゆっくり座る。
「ううん、なんでもない」
適当にごまかしておいた。
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結局、他の人達も、私達の事を見ていたのかあれ以降誰も攻撃を仕掛けてこず…。
だからトレーニングの成果がッ!!
そして午後。
私が居るからか、私以外に居るのがシャルのみ…。
いや露骨ですね?
「今日も午後はトレーニングするの?」
誰も居ないからこそ聞いてきたか。
「まあ…ちょっとだけね。やっておこうかな」
一応毎日やるって決めたしね。
「シャルはどうする?」
「私もちょっと残る!」
本当に偉いなこの子は…。
私は昔これ以外のトレーニング知らなかったからサボってばっかりだったというのに…。
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まだ、わからない。
本当にあの人かどうか。
でも、やってみるしかない。
あの時のように____
……?
今後ろから…異様な気配がした…?
「シャル、ちょっとだけ離れておいて」
「え?う、うん!」
その瞬間、この稽古場のドアが勢いよく開き、何かがものすごいスピードでこちらへ向かってくる。
どうやら相手も槍のようだ…まったく都合がいい。
まずは一発目…上から、右足狙いか!
ヤバイ、速い!間に合わない…。
でもここは落ち着いて、右足を左足の関節付近まで上げる。
「!!」
避けられた…!!
次、一度距離を取った何かは…私の顔か。
右腕を思いっきり上に振り上げ、相手の槍を弾き飛ばす。
間違いない…この感じ…あの時と一緒…!!
次、その距離のまま私の右わき腹付近。
少し難しいが、相手の槍を私の槍の刃部分で受け止める。
もし力勝負になるなら相手の槍は右へ受け流そう。
ガキンッ!
「ふふふ…懐かしいな」
思わず発したであろう彼の言葉に、彼女も思わず笑みが零れた。
刃どうしがぶつかった音がした瞬間、向こうはまた距離を取った。
今度は私の背中だ。
槍を左手に持ち替え、私の身体ごと左回りでその勢いのまま相手の槍を弾き飛ばす。
ギンッ!
鈍い音が聞こえた後、何かはまたものすごいスピードで、稽古場から出て行った。
「…今のって、シルビィ中将だよね?」
「見えたのか?」
これはこれは想定外、まさか動体視力までいいとは…。
さて、彼女がここで現れたのはとても好都合だ。
ここは一つ、
「ちょうどよかった。シルビィ中将に一つ頼んでみよう」
「…いいの?」
「ああ、大丈夫だ」
歩いて稽古場から出る。
出た先には誰もおらず、私はもう一度目を瞑り気配を探る。
…右か。
右に行ってみよう。
だが、数歩歩いたところでさっきの何かが、稽古場から出てきた私に見えないように、壁にもたれかかっていた。
私には見えていなかったし、気付いていたかどうかも怪しいが、彼女からそれを教えてくれた。
「…お久しぶりです。少将様」
小さく、とても小さく。
でもとても嬉しそうな声が聞こえてきた。
「…ただいま、シルビィ」
私も意識せずに、嬉しく目を閉じ、微笑んだ。




