第2話 10年前の〈噂〉
あらすじ分は上げとかないとダメかな~と思いました。
私の親は元本国との戦いで戦火に巻き込まれ二人とも死亡。
私自身は親が知り合いだったシュネルが住むクラン一家の家に居て無事だった。
そしてシュネルの親もその3年後に同じく元本国との戦いの戦火に巻き込まれ死亡。
シュネルや私自身も巻き込まれたが、傷を覆いながらも無事だった。
その後シュネルを養う為、そして新しい家族を探すために入隊したエイミー帝国軍でも…。
10年前・エイミー5世05年 10月
私が軍を辞める二か月ほど前、帝国軍内でとある噂が流れた。
【ドーマー総司令とシュネル中将の間に不義があった】
…と。
噂だったが私は一応義妹であるシュネルに確認した。だが彼女は
「そんな噂嘘に決まってるでしょ。気にしないでいいから」
と答えた。
そう、嘘に決まっている…私ももちろんそう思っていた。
彼女の表情はいつも通り変わらなかったが、目は合わせてくれなかった。
この噂はシュネル自身が否定していた事もありすぐに収まったが、私はどうもその噂を疑わずにはいれなかった。
当然のようにドーマー総司令にも確認を取ろうとしたが、普段から総司令室の扉の前にいる人獣が
「ドーマー総司令は今は部屋に居ません」
…と嘘かどうかも分からない門前払いを受けてしまった。
しかも"三回も"である。
これがきっかけでシュネルどころか私の部下達など…家族関係の事で色々事を信用できなくなってしまった。
家族を守る立場である私が部下を信用できないなんて…と考えてしまった私は、心の弱い事か軍を辞めるという結論に至った。
この事を他の人間や上司に相談できればよかったのだが、義理とはいえ妹関連が原因だったこともあり誰にも相談せずにこういう事になってしまった。
そうしてそのままドーマー総司令に軍を辞める事を伝えた。
その時はまたどうせ部屋に居ないと思っており人獣に伝えるだけにしとこうと思っていたが、たまたま部屋に居たのか、部屋の中まで入れてくれた。
それでドーマー総司令に『先月の噂が原因で人を信じられなくなった事』とそのまま理由を伝えた。
『そうか、今までご苦労だった。お主にはエイミー帝国軍兵士を数多く救ってもらった、これには感謝しなければいけん。それと噂じゃが、事実無根じゃ。儂の部下に頼んで噂を鎮め出所の調査をしておったんじゃ、すまない』
…と、ドーマー総司令は労いと噂についての謝罪をしてきた。
しかし私は、私には何も響かなかった。
表情にも言葉にも出してはいないが、ずっと私の中では一つの仮説が浮かんでいたからだ。
それは、【ドーマー総司令があの噂を流した】というものである。
これも噂の一つ、しかし長い事収まらなかった噂が存在する。
それは【ドーマー・ヘンデルは伝説の少将であるバースリー・クランを妬み嫌っている】…というものである。
ドーマー総司令はエイミー帝国軍勤続42年の大ベテランで、若い頃は『破壊のドーマー』とまで呼ばれた怪力の持ち主である。
そんなドーマー・ヘンデルは驚異のスピード出世をし、『伝説』とまで呼ばれた私を妬み嫌っているという噂が流れたのだ。
ドーマー総司令自身がこの噂を気にせず無視し続けた事もあり、結局私が軍を辞めるまで収まらなかった噂だ。
もちろん平時なら私も噂を気にしなかったが、此度の噂の内容は義妹の事…。
私の精神に傷を負わせるのに十分なものだったのである。
まあ、ドーマー総司令がそれを流したと仮定すればの話だが…。
それで事後報告になってしまったが、部下達にこの事を伝えた。
理由は当然言わなかったが。
だがそれはもちろんというか、突然の事だった事もあり反対する部下、考え直してほしいと泣く部下はたくさん居た。
当時中尉だったアリシューザもその一人だった。
「師匠!考え直せ!まだほかに道はあるはずだ!!」
「…」
当時の私は例の噂でかなり憔悴していた事もあって、他の案を見いだせずにいたのも事実だった。
「…私が居なくても大丈夫だ」
「そうじゃない!!師匠は!?師匠はどうなる!?」
一番反対したのは当時の弟子の一人、グレイス少佐だった。
「私は…どこかでひっそり暮らすとするよ。それに…それに私は、もう疲れたんだ」
「何…言ってんだ師匠…嘘だよな師匠!?」
「いいや、嘘じゃないよ。やはり私は部下を…いや家族を…守れないからだ」
その言葉を発した時、近くに居たシュネルが一瞬少し下を向いたのが見えた。
私は必死に言葉を探して誤魔化したんだ。
本当は信用できなくなってきていたというのに…。
「グレイス、シュネル…他の皆も、私を超えてくれ。私みたいな小心者になっては駄目だよ…」
辞めると決心してからは、あまり話す事も無くなっていた。
もう義妹以外との関係を切ろうとしていた私に、彼女はさせなかった。
「殿!!」
「…どうした?アリシューザ」
「殿がやめるというのなら!私も軍を辞めて…最後までついていきます!!」
「いや…何を言っているんだ?」
私には理解できなかった。
どうしてなにも守れない私に関わろうとしているのか。
どうして信用できなくなっている私に関わろうとするのか。
「私は…殿に戦火から拾われた身です!!つまり殿は私の親同然の存在!殿は私を…見捨てると言うのですか…!!」
普通なら親離れしろとか思うだろうが…部下に何の相談もなく勝手に決めた私には…。
その言葉がとても響いて聞こえたのだ。
「…」
「バースリー、行かせてやれ」
そう言ったのは私の入隊時の上司だったチャールズ・ロッグハート少佐。
「アリシューザはな、昨日お前さんが辞めると言った時からずーっと言っとるんじゃ。殿を一人にさせられないっての。それに儂らからしてみても、信頼しとる人間が一人側におるだけでだいぶ違うもんじゃよ」
「…!!」
入隊時から信頼していた元上司の言葉としては、十分すぎるものだった。
信用出来る出来ないに関係なく…それは家族を大事にする私だからこそ、である。
「そうか…そうか…」
「殿…側に…居させてください!!」
「…」
私は何も言わずにシュネルを見た。
何故かはわからないが、恐らく何か言いたげな顔をしていると勝手に思ったのだろう。
そんなシュネルはやはり少しむすっとしていたが、私に向かってこう言った。
「何?反対するとでも思ったの?私がその程度で嫉妬するわけないでしょ?あんたみたいなクソ兄貴、むしろ誰かいないと生活もできないでしょ」
と、やはり義妹らしい答えが返ってきた。
小さく、「いつまでも小さな噂を気にして…」とも聞こえた…。
「…すまないアリシューザ…頼むよ」
「はい!!」
そう言って、彼女は私についてきた。
そんな彼女が今、私になんて言ったか…。
もう一度軍に入って自分を見つめ直せと来たもんだ。
確かに正しい選択をしたかと問われるとそうではないとは思う、今になってからは特に。
でも、間違いかと問われたらそれも違うと言える…。
だからもう一度入れと?
いや、そんなことよりももっと無理な理由がたくさんある。
「うちは農家と言っても果物農家だ。毎年毎月収入が安定しているわけじゃない。それに、君を一人にさせたくない…」
「何言ってるんですか?私も行きますけど」
「いや、行くとしたら私一人だけだ。私がバースリー・クランだとバレたらどうする」
「え、バレたくないんですか?」
なんでちょっとニヤニヤしてるのこの子…。
「いや、あれだけ散々伝説と呼ぶなって言ってただろう…?私だけなら名前が違うから多分問題ないと思うがさすがに君とはちょっと…」
特に晩年の私が知れ渡っている今のご時世、もう試験会場着いただけでバレると思っている。
「しかたないですねぇー。まあ農業仕事もありますし、私もは確かに無理ですねー」
なんかまるで最初から行く気が無かったかのような言い方をしてくるアリシューザだが、正直私も行きたいとは思わない。
「アリシューザだけじゃないぞ?私も行かないから」
「あれ?殿ってもしかして知らないんですか~?」
さらにニヤニヤしながら少しずつ近づいてくるアリシューザさん。
ちょっと?嫌な予感がしますよ私…。
「家族が一人でも軍に入るとその家庭は補助金がもらえるんですよ~?」
補助金…だと!?
「…いくらだ」
「月10万エイミーです!」
は?マジで?
うちの3ヶ月の売り上げより上じゃないですか…。
「・・・」
ちょっと考える…時間あるか?
今はもう2月で試験は3月の真ん中あたり、もし入隊するにしろ10年間のブランクはデカすぎる。
やはりここは…いやでも10万エイミーは…10万エイミーは…
欲しい!!
アリシューザの生活が良くなるのは今の私にとってとても喜ばしい事だ。
仮に農業の売り上げが0でも10万あればなんとでも…。
「…わかったよ」
「本当ですか!!?」
すごい食い気味に大きく嬉しそうな声を上げてくる。
やはり私はこの子に弱いようだ。