第16話 『C.S』からの呼び出し
チリンチリンチリン!
急に部屋のチャイムなのか耳障りのいい鈴の音が私達の居る部屋に鳴り響いた。
というかこの選手寮ってチャイムあるのか…。
シャルもシュウヘイも何も言わなかったし、私も無言で立ち上がり扉の方へ向かう。
「はい、今出ます」
ガチャッ…と扉を開けると一人のネコ科人獣がそこに居た。
帝国軍内において人獣は基本的に非戦闘員だ。
給仕係だったり備品整理だったり清掃だったりと、帝国軍を支える裏方さん達だ。
「ホリージョン・レイラーさんはいらっしゃいますか?」
「はい、私ですけど」
人獣はポケットから一枚の封筒らしきものを渡してくる。
「封筒のお届け物です」
ペコリと可愛く一礼して去って行った。
「なんだったー?」
「封筒だね」
えっと?宛先は何も書いていない。
つまり送り主は人獣に直接手渡し、かつ私を名指ししたという事か。
裏面に送り主の名前が書いてある。
『C.S』と…。
「『C.S』?ホリーの知ってる人?」
確かに知ってる人ではあるが…。
素直にそう答えるべきか迷う。
とりあえずいろいろ考える前に封筒の中身を開く。
中には紙が一枚入っているが…まさかの何も書かれていない。
白紙が一枚入っているだけだった。
「おいおいこりゃあ…どういう意味だ?」
普通に考えれば嫌がらせか何かと思っても思われてもしょうがないが…。
送り主がわかっている私にとっては何となく意味がわかる。
「…まあ、とりあえず行ってくるよ」
「この意味が分かるの?」
「なんとなくね」
多分あってるし、丁度いい。
いろいろ聞きたい事があるからね。
さて、寮である13階から階段で降りて、兵士寮入口の裏側にまわる。
ついさっきも通った、雑草と木の隙間を上手く通れるようにある道を行く。
着いたのは、さっきの元罰小屋だ。
小屋の中に手紙の送り主がいる。
扉を開ける、キィー…という錆びついた音を奏でながら。
天井にあったつくかどうかもわからないランプが今は点き、二つある椅子のうちの一つに、一人の女性が座っていた。
「久しぶりね、クソ兄貴」
頬杖をつき、小さく首をかしげてるようにも見える。
シュネル・クラン総司令、私の義妹だ。
20代前半にも見える見た目のせいでメスガキのように見えるのは気のせいか?
「…さっき会ったよな?」
手紙の送り主の『C.S』とはシュネル・クランのイニシャルを逆にしたもの。
昔ここに集まるのによく使っていた彼女のやり方だ。
それと恐らく白紙の意味だが、さっきのヒントは会ってるうちに当てはまらない…という意味だろうが。
「あら、何の事かしら?私は期待の新人様にヒントを与えただけよ」
やはりそういう意味で合ってるようだ。
ふぅ…と一つため息をつき、こいつが何故呼び出したかを考える。
しかしその考える暇も与えず、ニヤニヤしながらまた彼女は口を開く。
「会いたかったわ。クソ兄貴」
だったらクソは余計だと思うんですが…。
まあこれは何年経っても変わらない、彼女なりの照れ隠しのようなものだ。
私もよく理解している。
「じゃあ真面目な話いいか?」
「ええ、どうぞ」
表情も何も変わらず、ニヤニヤしながら耳を傾けてくれる。
「一つ目、さっき誰かはわからないが、私にヒントをくれた奴が居た」
「そうなの?随分親切じゃない」
褒められたと思ってるのか、首を傾げすぎて頬杖から落ちそうになっている。
…いや、今落ちたな。
口元が見えないのが可愛らしいですよ?お嬢さん。
「あれは本当か?」
私は席に座らず立っていた。
しばらく上目づかいで私の事を見ていたシュネルだったが…数秒するとまた頬杖をついた状態に戻った。
「ええ、本当よ。全員何かしらの将校でかつ、そこそこの実力者ね」
新聞では確かに将校と書いてあったからな。
「具体的な階級は?」
「死亡者のほとんどは少尉から大尉の間ね。曹長もちょっと居たかしら」
有望株から古株まで揃う真ん中の役職だ。
確かに帝国軍にとっては痛手だろう。
「死因は?」
「ほとんどが刺殺ね、後ろから」
という事は完全に背後から襲われたという事か。
帝国首都はレンガ積みの家が多く、路地も多い。
人通りが少ない所も当然ある。
そういう場所で狙われたのだろう。
「二つ目、私の行方不明の噂を流したのはお前か?」
「ええそうよ。理由は何となくわかるでしょう?」
私は当時国内において、特に女性ファンが多かったイメージだ。
当然軍内でも多かったわけだが。
そんな私が退役をもって軍関係や他人との関わりをほとんど無くそうとしていた。
だからそんな噂を流した…というところか。
「詳しい説明はまた今度話すわ」
そうか、じゃあ次は…
「三つ目、特急ヘンドリット号がウィズベリーに止まるのはお前の仕業か?」
バタッ!
急に音がしたと思ったらシュネルが頬杖からずり落ちていた。
…さすがに急に話を変えすぎたか?
「真面目な話とか言ってた人がする質問?それ」
え、割と真面目だったんですけど…。
「まあバカ兄貴らしくていいけど?」
何かしら蔑称をつけないといけないのはいつもの事。
私を馬鹿にしたようなため息顔をしていたが、すぐにいつもの顔に戻った。
「ええそうよ?私の親族がそこに居るって言えば、二つ返事でOKしてくれたわ」
うわー、特急の速達性の一部失われてそうだなそれは…。
まあ私は確かにどっちでもいいけれども。
「…じゃあ四つ目、私に何の用だ?」
さっきはヒントだった。
しかし今回は分からない。
呼び出される理由の候補が多すぎるからだ。
なんだ?会いたかったから?久々だから?それとも10年前に辞めた事の説教か?
…本当に分からない。
しばらくの沈黙の後、また頬杖をつき、上目づかいで彼女はこう答える。
「お兄ちゃんに会いたかったからじゃ…ダメ?」
うん、はい…可愛いですこの子!
もう言葉にできそうにないです。
「私は別にいいが」
「じゃあぎゅーしよ?ぎゅーって」
そう言って彼女は両手を広げてハグ待ちのポーズをしてくる。
一応言います。
可愛いんです。
見た目も相まって可愛いんです。
いくつになっても本当に可愛いなこいつは…。
「いいよ」
彼女の目線に合わせてしゃがみ、私も両手を広げ彼女の飛び込みを待つ。
次の瞬間、予想通りか勢いよく彼女は私の胸に飛び込んでくる。
ぎゅーってして、頭を撫でる。
嬉しそうな悶え声が小さく聞こえてくる。
「…甘えたかったのか?」
「うん!」
私の胸に埋もれながらそう答えた。
しばらく経って落ち着いたのか、彼女は一息ついてもう一度席に座る。
照れ隠しが戻ったのか、先程のような甘えた声ではなく、いつも通りのシュネルに戻った。
仕事とプライベートのオンオフ分かりやすいですね本当に。
「それで、どう?一ヶ月後の新人歓迎大会への意気込みは?」
「とりあえず目立たない事かな」
正直ここで目立つともう本当にバレるまで秒読みすらありえてくる。
なんとしてもそれだけは避けたいところだ。
「ムリね」
ちょっと?否定がいくらなんでも早くないですかシュネルさん?
「そういえばもう一つ、私の直属の部下だった皆は元気か?」
そうだそうだ、シュネルにいの一番に聞かなきゃいけなかったこれを忘れるところだった。
…途端に彼女の表情が少し曇り、顔を逸らしてこう言った。
「全員元気よ。一人除いてね」
「もしかして誰か死んだのか?」
「…そういうわけじゃないわ」
また目を合わせぬまま、彼女はそう答えた。
「でもそれは自分で確かめなさい」
それもそうか。
むしろそこまで教えてくれただけでも感謝するまである。
軍を辞めて以降、シュネルが総司令になった報告を3年前に聞いた事以外は、他の誰の階級も何も知らない。
今日初めてその直属の部下の一人だったシルビィの現在が分かった以外は、本当に何も知らない。
あくまで陰から見守る程度にしかならないだろうが、彼ら彼女らの成長を見るのも私の役目の一つだろう。
「そうか。もう、いいか?」
「ええ、満足したし、いろいろ補給できたわ」
いつも通りのニヤけ顔だが、本当に満足そうで、こっちまで笑顔になる。
「じゃあ、またな」
キィーと音がする扉を開け、後ろを振り返らずそのまま閉める。
恐らくこの後は夕飯と風呂以外は何も起こらないだろう。
部屋に戻って時間まで寝るか。
それと…。
たまにはここに来てやるか…。




