第12話 行方不明
なにいまの…?
思わず彼女は見ていた彼から目を逸らすだけでなく、姿まで隠してしまう。
私は間違いなく気配を消していた。
そのつもりで周りを見渡してた。
私に気付いている人なんて誰も居なかった。
だけど私が彼に視線を向け、興味を示したその時に…
彼は私に気が付いた。
それだけならまだわかる。
でも何故私は目を逸らしてしまった?姿を隠してしまった…?
この…何かもよくわからない期待のような高揚は一体何?
私は今の一瞬で何に気付いたの?
…。
とりあえずもう一度気配を消し、彼の所から離れる。
槍術講師がこの部屋を離れるのはおかしいけど、一旦部屋から出る。
彼の事は私より試験を見てきた3人の方が詳しいはず。
「ねえねえ、ちょっと聞きたいんだけどさ」
「どうしました?」
一番近くに居たジェイミー大佐に聞いてみる。
「一人とっても気になる人がいてさ、名前知ってるかなーって」
というか覚えているか、かな?
「あー…もしかして銀の長髪でー「そうそうそう!!」…ホリージョン・レイラーですね」
「ホリージョン・レイラー…」
んー??
聞き覚えの無い名前だなー。
やっぱり気のせいだったのかな?
「んー、ありがと」
彼女はまだ彼に、気付かない。
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11時から始まった稽古だったが、1時間後の12時には終了した。
シルビィ中将曰く今日から1ヶ月はこういう感じで午前中は全体稽古、午後からは自主練および自由時間になるとの事だった。
午後に自由時間を設けてるのは帝国軍の生活に慣れる為だろう。
…というわけで稽古場を出て、これから昼飯の時間だ。
さっきの案内人に着替えの服を忘れないうちに貰っとく。
ああそうだシュウヘイと合流するか。
私は食堂の場所を知ってるので、誰かについて行く必要は無い。
しばらく待っていると、駆け足でこちらに向かってくる人影が見えた。
「わりぃわりぃ、今から昼飯だってな!」
まあシュウヘイは多分ご飯大量に食うタイプだろうし、彼にとっては一つの楽しみだろう。
かく言う私は10年前まで普通に毎日食べていた事もあってあまり乗り気ではない。
飯に乗り気も何もおかしな話か…。
シャルは、またバースリー・クラン少将の覧を見ている。
好きですね~私の事。
シャルが小さく
「もう一度、会ってみたかったなぁ」
と言ったのが聞こえた。
やはり一度会っているのか。
しかしどこだったか…?
「でも彼が軍を辞めたのはたった10年前だろう?まだ生きてるだろうし、会えるんじゃないか?」
もう会ってますけど。
「ホリー、お前…知らないのか?」
急にシュウヘイが驚いたような顔と口調でそう言ってくる。
「え…?」
んん?今何かおかしかったか…?
「バースリー・クラン元少将は9年前…突然行方不明になったんだぞ…?」
…はい??
え、いやいや待って?
そんなわけないって、実物がここに居るんですけど…。
まさか私偽物?どこかですり替わった??
いやそんなわけないが…。
「そうだったのか…?」
多分…いや恐らくこの情報を流したのは彼女だろうが…。
でも何故9年前にわざわざそんな…。
それも私が一切知らないってのもおかしな話だ。
「でも、行方不明ならまだ生きてる可能性があるんじゃないのか?」
一応驚きを隠しながら続ける。
「でもよ、この9年間一切音沙汰無しだぜ?帝国の人間のほとんどは…とっくに死んでるんじゃないかって言ってるぜ」
だから生きてるって!目の前に居るって!
「そ、そうか…」
しかし姿を明かすわけにはいかないのでこの辺にしておく。
この間、終始シャルロットは悲しそうな顔をしていた。
「悲しい話してもあれだし、飯行こうぜ!」
「うん…!」
シュウヘイが話と空気を変えるように元気よくそう言った。
それに呼応するようにシャルも明るく見せる。
私はちょっとしばらく考えさせてほしいのだが…。
食堂は帝国軍兵士寮である中央棟の一階。
昔も一階だったが、どうやらこじんまりとあった展示室が無くなった代わりに、食堂がその分拡大されていた。
えーっと種類は…帝国軍弁当と、昨日と今朝食べた、レストラン【ある日や】の弁当。
他には首都ラーメンか…昔無かったなこれは。
席順に決まりはなく、適当なテーブル席に座る。
私とシャルが壁側に座り、シュウヘイが通路側に…座らず
「よし、じゃあ俺が水持ってくるぜ」
と言った。
「先に注文行ってるよ」
と返したら後ろ向きで右手を挙げていた。
私はもう今日は自主練する気が無いので、首都ラーメンでも頂くとする。
大きさは並・盛・特盛とある。
なら並にして白ごはんを付けるか。
帝国ラーメンはその名の通りエイミー帝国のストラスレイン地方が発祥の塩ラーメンである。
しかしそのストラスレイン地方はドザーナ王国との戦争で町が無くなってしまった為、職人もろとも帝国首都へ逃げてきたという話を聞いた事がある。
首都なら商店街の店で食べる事が出来るし、首都駅のお土産コーナーでもインスタントで売ってるらしい。
普段なら500エイミーくらいで食べられるものだが、なんとエイミー帝国軍においては大きさ関係なく無料。
エイミー帝国が軍に一番力を入れているだけあって、待遇はめちゃくちゃいいのである。
ラーメンだったのもあって席に着いたのは私が一番遅かった。
シャルとシュウヘイはどちらも帝国軍弁当だった。
昔は食堂に行けばこれしかなかったので、正直もう飽きているところではある。
二人共美味しそうに弁当を食べているが、私はさっきの話が到底信じられていなかった。
…信じられないも何も私自身が生きている時点で当たり前だが。
アリシューザからそんな話を聞いた覚えも無いしな…。
いや、言ってないだけで実はアリシューザは知っていたという可能性もあるか。
うん、ラーメンは美味い、美味いよ。
退役後はラーメンなんてものはあまり食べてなかったしな。
とにかく私自身の事は近い内に会う人物に聞くとして、今はラーメンの味を楽しむか。
うん、やはり美味い。




