第11話 困惑の中
さて、トレーニングだが、私のレパートリーはたった一つしか存在しない。
それは昨日の夜から今日の朝までやっていた我流のトレーニング。
問題はその『殺気』をどこに向けるかだ。
この稽古場は真ん中に円柱の支柱があるのだが。
さすがにこれに向けるのは目立つか…。
なら適当に壁に向けて『殺気』向けますか。
メイン武器に槍を選択した者はホリージョンとシャルロットを含めて40名。
シルビィ中将の指示で一部が困惑状態となったが、無事稽古はスタートした。
その中で唯一人、槍を持ってるだけで、立ち尽くす者が居る。
その人物は当然ホリージョン・レイラーなのだが、どれだけ経っても一切微動だにしない彼を一番初めに不思議に思ったのは、困惑しながらもなんとなくホリージョンについてきたシャルロットだった。
ホリーが急に黙って立ち止まったかと思ったら目を瞑ったまま動かない。
正直シャルはメインに槍を選択したけど槍なんて使った事は一度もない。
一応他の人も見てるけどイマイチよくわからない。
刺せばいいんじゃないの?
…こう色々考えていてもホリーはやっぱり動かない。
寝たのかな?ちょっと色々観察してみようかな。
…。
うーん、起こすべきかな?
とりあえず槍を向けてみるのもありかな?
そう思い、シャルロットが槍をホリージョンに向けた瞬間…、
「…シャル?何してるんだ?」
目を瞑ったまま、話しかけてきた。
「あれ、やっぱり起きてる?」
「そりゃそうだろう…」
やっぱり寝てるって思われるよなー…。
「じゃあ何してるの?」
「我流のトレーニングだよ。本当は槍の基礎を学びたかったんだが…」
正直槍の事なんて知りませんよ。
少将時代に扱えたのはたまたまってだけですからね。
「ふーん、でも槍術には関係ない事だよね」
「まあね。簡単に言えば集中力を高めながら目を瞑って『殺気』を特定方向に出すというものだよ」
「…何が得られるのそれ」
これって誰に話してもこんな反応なんですよね。
だから他の人に教えるのはオススメできない。
「目を瞑っている事で特定方向へ向く『殺気』は遮断されて、他の気配をより敏感に察知しやすくなるんだ」
…と、彼は『殺気』のトレーニングについて語っているが、実際はそうではない。
彼のこのトレーニングは、確かに目を開けていれば『殺気』は出ている。
ただし、彼が目を閉じていた場合は『殺気』を出せてはいないのである。
どういうことか。
彼はそもそも、〈他人の心理を読む事〉に関して非常に長けており、これは彼の生まれ持った才能である。
そして彼はこのトレーニング時に集中力を高めている為、目を閉じている時は他人の気配そのものにも過敏に反応できる。
そのおかげで【気配に関しては敵味方関係なく多少離れていてもほぼ読み取る事が可能】になったのである。
彼が少将時代の『伝説』理由の一つ、”卓越した勘による予想”とはこの事から来ているのである。
…つまるところ『殺気』が出ていようが出ていまいが、彼が目を閉じている限り関係は無いのである。
当然彼のやり方で人に教えようと思っても簡単に出来るわけがなく、教えた所で理解はされにくい。
下手すれば全くできずに挫折されるまであるのだ。
しかし唯一人…唯一人だけ、この事を理解できた者が居たのだが…。
だが、そもそもの大前提として、『殺気』とはそもそも【自身が相手を殺る〈気〉がある事で生まれてしまうもの】であり、決して【自ら意識して出せる代物】ではないという事も言っておく。
「…シャルにも出来る?」
あ、この子一人称シャルなんだ、かわいいな。
「いや、正直オススメ出来ないかな?シャルは…シャルだったらとりあえず他の人の動きとか見たらどうかな?」
まあまだ困惑してる者が多い中何をどう参考にしろってのは厳しいだろうけど…
だからといって私も槍の基礎なんて知らないから教えようもないし…。
「むー、じゃあ一応サボらないように構えだけやっとくかー」
まだ、動く時じゃない。
もし私に動きがあるとしたら、誰かが攻撃を仕掛けた時だ。
今はまだシャルしか気づいてないが、ここで突っ立っていれば誰かが疑問に思う。
疑問は未確定のまま確信に変わり、攻撃を仕掛けてくる。
それで私は返り討ちにすればいい。
そうすれば彼女は必ず動く。
それを待てばいい。
「…ん?」
ふと後ろから異様な気配がしたので振り返る。
背を向けていたのは円柱の支柱で、誰かがそこに居たのは分かったのだが…。
殺気とかでは無かったが、気のせいか…?




