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第1話 伝説の少将

エイミー帝国・エイミー五世05年 8月


もうすぐ暑さも控えめになるこの季節。

今日も昨日も、その暑ささえも痛みに変えてしまう戦争。

私はとても暑さに弱い。この長い髪のせいか?それとも昔からか、38歳になった今じゃどっちだかわからない。

「殿!いつでも出陣出来ます!」

そんな声が聞こえそちらを見ると、いつも元気よく私に声を掛けてくれる18歳の青髪の少女。

ああ、若さとはなんて素晴らしいものかと…。

彼女はアリシューザ・ベリー中尉、私の家族の一人だ。

「ありがとう、他の部隊も準備はできているかね?」

私はどうやら伝説の少将と呼ばれているようだが、こういうのは二つ名?通り名?というのだろうか。

よくわからないが、私はあまり好きではない。

私には家族さえいればいい。

「もちろんです殿!槍部隊、魔法部隊共に準備万端であります!!」

両部隊共に若い将校で、とても優秀だ。

正直私より全然伝説になれると思っている。

ん?そういやあともう一つ…。

「師匠、特攻部隊も準備できてるぜ」

そう言ったのは数年前までただのチンピラだった少年、今は少佐にもなり頼もしい存在でもあるグレイス・ジョンソンだ。

彼も20歳と若い…なんだ?今考えると私の部下は若いのしかいないじゃないか…。

「そうですか、じゃあそろそろ」

行きますか、と言おうとしたところで、

「あー殿!妹様がもう出陣されました!!」

早い、かなり早い。

まだ全体号令出てませんよ?

「相変わらずだなシュネル中将は…また手柄横取りされるぞ師匠」

「本当に困ったものです。我が妹ながら」

まあ、そこがシュネルのいい所ですが


「では行きましょう。エイミー帝国軍少将バースリー・クラン、出陣しますよ。」



10年後・・・ 5世15年 2月



「殿ー!お昼ご飯できましたよー、早く来てくださいー!」

「はいはい、今日も疲れたから」

「そんなの関係ありません!ご飯と呼ばれたらすぐ来る!常識ですよー」

母親か!と突っ込みたくなるが、相手は母親ではない

「ああ、わかったよアリシューザ」


ここはエイミー帝国の端、ウィズベリー地方という田舎である。

私は10年前の冬、エイミー帝国軍を辞めたのだ。

アリシューザと共に。

辞めた後は首都を離れ田舎に引っ越し、農家に転身した。

名前は偽名であったバースリー・クランから本名であるホリージョン・レイラーに戻した。

それで、やっと収益も安定してきたかと思う今日この頃だが。

「ご・は・んー!!!」

あ、すみません…。

大声で鼓膜を潰さんばかりの大声で、私の至近距離まで寄ってきた。

驚いて声も出なかったが。



「今日はパンか」

「はい!昨日と同じです!」

というかここ一週間はこれな気がする。

ちょっとアリシューザさん手抜いてません?

それより、今日の新聞だ。

最近私でさえ気になるニュースが続いている。

「今日の新聞です。えーっと…あ、やっぱ載ってますね。エイミー帝国軍の事です」

10年前まで所属していたから、というのが理由ではない。

「今回は何人だって?」

「えっとー?…三人ですね」

「多いな。昨日も三人だったし、一昨日も二人とかだったか?殺されたの」

「そうですねー。一週間で軽く十人超えてますね」

エイミー帝国とは、ヒュース大陸のほぼど真ん中に位置している。

北から東方面にはオークやゴブリンなど、人間以外の魔物と言われる生物がほとんどを占めるヘンデリュート国、南にはエイミー帝国の元本国であるドザーナ王国が存在する。

約200年前、このドザーナ王国から自由と平和のために独立したのがエイミー帝国である。

大きさはドザーナ王国の1/3程度で、他の国々よりもはるかに小さい。

そんなエイミー帝国が200年間どこにも吸収されずにいるのはその軍事力の強さである。

独立の英雄となったマーク・エイミーから、エイミー帝国軍を創ったというフー・ザイストン元大将などなど…。

とにかく強い人がたくさんいるというのがこの国で、まあ私も伝説と呼ばれていたが…。

その後、独立の指導者となったマーク・エイミーの実家、エイミー家が帝国の王族となり、現在に至っている。

現在はその五世15年で、名前は確か…ロッド・エイミーだったと思うが、よく覚えていない。


ちなみに私が伝説と呼ばれていた理由だが、別に大した理由ではない。

同僚に聞いたところ、剣、槍に加え、矛も扱える多才ぶりと、卓越した勘による予想、そして私は入隊してから辞めるまでの23年間、一人も部下を死なせなかったからである。


そしてここ最近目にする新聞の内容は、その強い軍事力を誇るエイミー帝国軍の将校が、ここ一週間で十人以上亡くなっているというものだ。

もう10年前に辞めたとはいえ、友人や部下も多く居た場所であり、気にならないはずがない。

「どうやらさすがの帝国軍も募集人数増やすみたいですね」

一年に一回、毎年3月に行われる軍事募集である。

普段なら募集人数は100人と決められているんだが、さすがに上層部もまずいと思ったのだろう。

今年は三倍、つまり300人だ。

「もともと受験人数は毎年500人くらいいるんだ。年齢も別に上限なかったはずだから」

「殿は受験なさらないんですか?」


「…はい?」

ちょっと何いきなり意味わかんない事言ってんのこの子…パン美味いけど。

私は既に一度退役した身だ。

それに私はもう48歳だし、さすがにこの歳じゃあ…。

「…いきなり何を言い出すのかね君は」

さすがに冗談だろう、と思ったが…。

「いえいえ!10年経ったからこそですよ殿!」

はて、言ってる意味がよくわからない。

というかまず10年経ったからなんだと言うのだろうか。

「今こそ自分を見つめなおす時ですよ!」

まさか元部下からそんな言葉が飛び出してくるとは…。

それに現状というものがあってだな。

「いや、今の仕事がやっと安定してきたんだ。だからそう簡単に軍に入るわけには」

「大丈夫ですよ!私もよく手伝ってましたから!」

そういう問題ではないと思う。それに…。


「私はもう、軍には入れないよ。私では駄目なんだ…」

そう、私では駄目だ。

アリシューザはこの話をするたびに悲しそうな顔をする。

だが事実、私では家族を守れないのだ。

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