悪役令息は令嬢(悪役)を報いたい
「アリアドネ・メルツァー。君との婚約を破棄する!」
俺がちょっと側を離れた隙に何言っちゃってんの!?
シーズン始めの舞踏会で起きた第二王子の婚約破棄宣言。
側近のちびっ子童顔主人公と婚約破棄宣言された吊り目気味、悪役令嬢?な2人が結ばれるお話しです。
「アリアドネ・メルツァー。君との婚約を破棄する。」
ちょっと飲み物を取りに行っている間に、声高々にそう宣言するのは俺が王命で渋々従っているこの国の第二王子こと、ミカエル・バルバトス王子その人だ。
金髪碧眼で少し長めの後ろ髪を少し横で結び肩から前に流している。
一見聡明そうに見えるが、見た目に騙される残念系王子である。
今日は社交シーズン開始を告げる王家主催の舞踏会である。
会場は勿論王宮で、有力な貴族や果ては他国の親善大使も出席している。
そんな中、シーンと静まり返った会場で、そう宣言された相手、アリアドネ・メルツァー侯爵令嬢は唇をぎゅっと引き結んで、王子を見てから数秒の間の後、口を開いた。
「···理由をお聞かせ下さいますか。」
その声を聞き我に返ると、落としそうになっていたグラスを近くのテーブルに置くと、王子の元へ駆け寄る。
『いやいやいや。何言っちゃってんの!?』
俺は内心大慌てである。
その間にも王子は声を荒らげ、話しは進んでいく。
「そんなこと、君が一番よく解っているだろう!?」
「―――――···解らないからお伺いしているのですが。」
アリアドネ嬢は王子を凝視したまま返す。
王子がたじろぎつつも、続ける。
「こ、ここで君の罪状を話しても構わないが、そうなると色々と困るのは君だろう?追って沙汰を伝えるから直ちに王宮から出てい――――――」
ズザーーーーー
アリアドネと王子の間。
話を遮る様に俺はワザと滑り転げる。
『やってくれたな このクソ王子···』
俺は心の中で悪態を付きつつも、持ち前の見た目で話しを逸らす。
「あいたたた···。も、申し訳ありません。王子殿下。メルツァー侯爵令嬢。慌てたら、転んでしまいましたぁ···」
少し目を潤ませ気味の上目遣いでおうしを見れば、王子は顔を赤らめ慌てた様に俺に駆け寄る。
ここで俺の容姿について言及するが俺ことシリウス・ユーグリッドは伯爵家の長男で一人っ子。黒髪に黒に限りなく近い濃い藍色の少し垂れた目をし、18歳でありながら、小柄で見た目12,3歳にしか見えない童顔。
どちらかというと美少年なのである。
そんな俺の渾身の一撃だ。可愛い物が好きな王子が食いつかないはずが無い。
「だ、大丈夫か!? シリウス、立てるか?」
王子が駆け寄ってきたのを良い事に、足を挫いたフリをして、そのまま王子の肩に掴まりつつ会場を後にしたのだった。
「えっ?えっ? ちょっ···」
そんな声が聞こえた気がしたが、スルーした。
会場は呆然となったまま放置されたが、そこは流石の王宮楽団が空気を読み音楽を奏で始めたため、元の喧騒を取り戻しつつ、その日は有耶無耶になったのだった。
『あー クソ。あんのクソ王子。ベッタベタ触れてきやがって。今だに気色わりー···。』
あの後、医務室には連れて行って貰えず、王子の私室に連れ込まれた俺はあっちこっち身体中をベタベタ触られまくったのだった。
『まぁ、仮病だったから医務室行かなくて済んで良かったのか···。彼処の医官も大概だからな···。』
俺の童顔と低身長をからかいゲラゲラ笑い転げる男が常駐医官なのだ。
同じ伯爵家の嫡男でありながら、家督を継ぐつもりはないと、次男に譲った(押し付けた)変わり者だった。
話しは逸れたが、件の舞踏会から二日後、俺は悪態をつきながら今後について考えていた。
『流石に無かった事にはなんねぇよなぁ···。目撃者が多過ぎるし、人の口に戸は建てられない。何よりあの侯爵様が黙っているなんて思えな――――――』
コンコンコン
考え事をしていたためか、反応が遅れたせいで再び部屋の扉がノックされる。
コンコンコン
『···嫌な予感がする』
「はい。」
返事をするとメイドに父上からの呼び出しの旨を告げられた。
『嫌な予感的中···』
心の中でため息を吐きながら、すぐ向かう旨を伝え、先にメイドを下がらせると身だしなみを確認し、父上の書斎へと足を運んだ。
「二日前の舞踏会の件は聞いている。お前が付いていながら、王子殿下の愚行を止められなかった申し開きはあるか?」
「―――――っ。お言葉ですが、四六時中殿下の側に居るわけではなく―――――」
「それでもっ。何かしらの対策を行うのは可能だったのではないか?」
確かにその通りだった。その為のお目付け役に俺がいるのだ。
王子の婚約者であるアリアドネ嬢は赤みを帯びた濃いめの金髪をドリル状にし、海の様に綺麗な青い目をしながらも、キツイ印象を受ける吊り目。
頭は悪くないが、怠惰な所がある王子を婚約者として度々諌めていた。
可愛い物が好きな王子がそんなアリアドネ嬢を疎ましく思っているのは親しい人間には周知の事実で、事前に対策を行っておくべきではあった。
しかし、王子とてそこまで愚かではないと思っていた。その事を踏まえても今回予想より早く王子が愚行に出たのは完全に俺の落ち度である。
「―――――···申し訳ありません。完全に私の落ち度です。」
そう告げると父上は溜息を吐いた。
顔色が少し悪い。これは何か言い辛い事があるなと考え、此方から伺う事にした。
「···今回の件で何か陛下からお話しでもありましたか?」
はっとした顔に図星であるらしい。
「呼び出しがかかっている。」
「何時ですか?」
「本日のお茶の時間にとの事だ。」
『茶の時間!?もう二時間もないじゃないか。』
内心では焦っているが顔には出さず、淡々と告げる。
「承知しました。用意がありますので、もう下がっても?」
「構わん。」
許しを得て書斎を後にした。
今からでは対策も何もあったものではないが、そもそも二日あって何もしなかった自分が悪いのだと、自分に悪態をつきながらメイドと執事に着替えや馬車の準備を頼む。
我が家から王城までは馬車で三十分弱。
着替えや登城のための準備をしているとあっという間に出発の時間になった。
「では行って参ります。」
そう告げたが、父上の顔は青いままだ。これは今回の呼び出し内容を先に知らされている上で話せない『何か』があるのは一目瞭然だなと思いながら馬車に乗り込んだ。
王城に着き通されたのは謁見の間ではなく、防音がしっかりきいた重要な会談等で使用される応接間だった。
コンコンコン
「ユーグリッド伯爵令息をお連れしました。」
案内してくれたメイドが室内に呼びかけると少しの間の後、部屋のドアが開かれた。
『重苦しい空気が流れてるのは、入室しなくても判るな···』
メイドに促されるまま入室する。
頭を垂れ、膝を折り挨拶をする。
「失礼致します。シリウス・ユーグリッド参りました。」
直ぐに顔を挙げるように促された。
顔をあげると両陛下にこの国の第一王子である王太子殿下、第二王子の婚約者であるアリアドネ・メルツァー嬢、その父で宰相のメルツァー侯爵が座っていた。
『第二王子は居ないのか。 しかし、これ···俺終わったなー···』
現実逃避したくなる錚々たるメンバーに冷や汗をかきつつ、覚悟を決め言葉を発することにした。
「発言をお許し頂いても宜しいでしょうか。」
「よい。」
陛下から許しを得て早速本題に入る。
俺は嫌な事はさっさと終わらせたいタチなのだ。
「本日の呼び出しは先日の舞踏会の件でしょうか。」
「それもある。」
それもとは含みのある物言いだな···
そもそもそれ以外の要件は何も思いつかないが。
『先にカマをかけるか?』
「···今回の件は事前に何も対策を施さなかった私の失態である事を重々承知しております。 であれば、第二王子殿下の側近解雇の通達でしょうか。」
そう淡々と告げる。
横から視線を感じそちらに顔を向けると宰相閣下とアリアドネ嬢はポカンとした顔をしていた。
俺がアリアドネ嬢や宰相閣下と会う時は、常に王子が居る所だったため、常に猫被りの俺しか知らなかったのだろう。
が、直ぐに俺が何かを言う前に納得した様に宰相閣下は一言「そういう事か···。」と言った。
「陛下は何をお考えで特筆すべきものが見当たらない一伯爵令息を第二王子殿下の側近にしたのかと思っておりましたが··· 王子の好みや希望を踏まえただけでは無かった様ですな。」
「シリウスを側近にしたいと言ったのは確かにミカエルの希望でもあったがな。それだけなら同じ年の公爵令息も居るのだ。そちらを選ぶであろうよ。」
『まぁそうだろうな···。公爵令息は学園の成績も優秀で、人柄も良いドが付くほど真面目な好青年だ。条件がさほど変わらず、他の要素なら後ろ盾となる爵位が上なあちらを選ぶのは目に見えている』
陛下と宰相閣下の会話を黙って聞いていると陛下から話しを振られた。
「さて、シリウスよ。余が何を言いたいか―――― お主は大体予想がついておるのであろう?」
『思い当たる節は無い事もない。だが、それは···。』
俺が思い当たるのは第二王子殿下の今後の事だが、今回の件だけで見れば、少々重すぎる。
一先ず様子見の意味を込め、
「陛下と宰相様の御心のままに。」
と応えておいた。
「ふむ。」
陛下はそう言うと、アリアドネ嬢に向き直り言葉を続けた。
「アリアドネ嬢。今回の件は我が愚息が申し訳ない事をした。この場で謝罪させて頂く。」
陛下がそう告げ頭を下げると隣りにいた王妃も同じ様に頭を下げ、「本当にごめんなさいね。」と告げた。
アリアドネ嬢はギョッとして慌てて立ち上がる。
「陛下。王妃様もどうか頭をお上げください。今回の事はそもそもミカエル様のお心を繋げる事が出来なかったわたくしの責任です。」
その発言に宰相閣下が声を荒らげてアリアドネの名を呼んだ。
「お父様。申し訳ありません。ミカエル様とは関係改善を図ってまいりましたが、わたくしが至らなかったのは紛れもない事実なのです···」
いつも強気ともとれる表情はしゅんとしている。
元々吊り目でキツそうな印象を受けるが元来の性格はそこまでキツいものでは無いらしい。
『いつも見かける時は、あのクソ王子と一緒の時だけだからな。アリアドネ嬢も苦労していたという事なんだろう。』
その後、重い沈黙が続く―――――。
俺はそんなやり取りを見守っていたが、沈黙に耐えられなくなり小さく溜息を吐くと一言口にした。
「メルツァー侯爵令嬢。あなたは如何なさりたいですか。」
「―――――···わたくしは――――――」
アリアドネ嬢の希望を聴き、今後についての話し合いが行われた。
ーーーーーそれから月日は流れ
第二王子の婚約破棄宣言の騒動があった今シーズンの終わりを告げる王宮の舞踏会では、第二王子が依然婚約者である筈のアリアドネ嬢ではなく、リリアナ・ウェルツナー子爵令嬢をエスコートして登場し、会場をざわつかせた。
婚約者であるアリアドネ嬢本人は父である宰相閣下にエスコートされ登城している。
リリアナ・ウェルツナーはピンクブロンドの髪にアメジストの様な色の目をした1つ年下の少女で、少し前に子爵家の養女として引き取られたそうだ。
因みにこのリリアナ・ウェルツナー子爵令嬢は先の婚約破棄宣言時も王子の斜め後ろに居たらしい。
全く気付かなかったが···
本日も俺は第二王子の側近として、王子の側に控えている。
両陛下が姿を現し、陛下の挨拶もそこそこに舞踏会の開始が宣言された。
高位貴族から陛下に挨拶していく中、侯爵位の挨拶も終わらぬうちに、リリアナ・ウェルツナーの養父ガウェイン・ウェルツナー子爵が挨拶に出た。
暗黙の了解で高位の順に挨拶する事になっているが、その貴族ルールを無視するものである。
養女であるリリアナが既に第二王子の相手であり、その養父である自分は侯爵位は当然であると云わんばかりの態度に周りもヒソヒソと話しをするものの、当の本人は気にした様子もない。
陛下も一瞬眉を顰めたが、直ぐに表情を戻すと挨拶に応じた。
その後、伯爵位までの挨拶が終わると一度休憩を挟む形で両陛下は一度席を立った。
両陛下が完全に席を外したのを確認した後、第二王子がすっと手を上げ先程まで、両陛下が居た玉座の前に立つと声高々に宣言した。
「アリアドネ・メルツァー。君との婚約を破棄し、その上でここに居るリリアナ・ウェルツナー子爵令嬢と婚約を結ぶことをここに宣言する。」
会場は騒然となる。
前回の婚約破棄騒動では王家から何も発表もなく、その後も婚約破棄される事も無かった事から、有耶無耶のまま、皆気にしない様にしてきたのだ。
そんな中での再びの婚約破棄宣言である。
当事者であるアリアドネ嬢は前に出ると前に出ると声を荒らげた。
「ミカエル様! それは本気で仰っておられますの!?」
「勿論本気だとも。そもそも今シーズン始めの舞踏会でも言った筈だが?」
「両陛下にはお話しされているのですか!?」
アリアドネが問いかけると、勝ち誇った様にニヤリと笑い
「「お前に一任する。」と言われている。」
と言った。
···なる程な。両陛下は試したのだ。後は本人次第だと。
「シリウス。皆の前でアリアドネの所業を伝えろ。」
「よ、宜しいのですか? 王子殿下···」
俺はワザとオドオドした様に言った。
「構わん。」
注目が集まる中、大きく息を吸込み持っていた書類を拡げると読み上げる。
「では。 リリアナ・ウェルツナー子爵令嬢の養父、ガウェイン・ウェルツナー子爵はリリアナ・ウェルツナー嬢を使い第二王子を傀儡とし、他国へと情報を流し、金銭を得ることで私腹を肥やしていたと証拠が上がっています。
また、裏で孤児の人身売買や我が国では禁止されている薬物を裏で売買しているとの情報も得ている。」
俺が一息で読み切ると、王子が素っ頓狂な声を上げた。
「はっ!? な、何を言っているのだシリウス。」
慌てた王子は俺に掴みかかろうとする。
それをヒラリと横に躱して、王子を足払いすると更に続ける。
「薬物売買と人身売買については、関わっていた他の貴族も調査が完了しています。」
そう告げると、何人かの貴族が青い顔で後ろにある出入り口に向かおうとするが、出入り口は既に大勢の騎士により封鎖されている。
「どういうことだ!シリウス!!」
「――――――···そういう事ですよ。第二王子殿下。」
俺は冷めた目で第二王子を見る。
そこへ両陛下が再び姿を現し、陛下が告げた。
「お前はアリアドネ嬢が差し伸べた手を自ら払い除け、最後のチャンスを棒に振ったのだ。
ウェルツナー子爵並びに関与があった者達を捕えよ。」
そう告げられると、騎士たちが数人の貴族を捕らえ連れて行く。
「そしてミカエルよ。 王族でありながら他国に情報を流し、国民を危険に晒したお前をこのまま野放しにする事は出来ん。お前は廃嫡とし、辺境地での生涯労働を申し付ける。」
「そ、そんな···」
第二王子はその場にへたり込むとそのまま騎士達に引き摺られる様に連行されていった。
「さて、シリウスよ。ご苦労であった。」
「勿体無いお言葉です。然し、私の力不足で殿下を諌められなかったのも事実です。 この責として私も貴族籍を返上したく考えております。」
俺しても多少のモヤモヤがあったので、正直に告げる。
陛下と宰相は驚いた様子で、二人して「それは···」と口籠る。
俺としては殿下を諌められなかった事に対する罰は受けなければならない。
今回の事に関する調査や根回しを差し引いても、それは当然なのだ。
と、云うのはあくまでも建前で、これ以上面倒事にも巻き込まれたく無いし、何も悪く無いのにも関わらず、印象が悪くなってしまったアリアドネ嬢から意識が逸れれば良いと思っての発言である。
『正直伯爵家ですら荷が重いのに、一人っ子な上、王子の側近···· 俺だって好き勝手したい。』
そんな事に思考を飛ばしいると···
「陛下。宜しいでしょうか。」
そう告げたのは、今回の一番の被害者であるアリアドネ嬢だった。
「構わぬ。」
陛下の許しを得るとアリアドネ嬢は口を開いた。
「今回の件でわたくしとミカエル様の婚約の話しは白紙ですわよね?」
「うん? あぁそうだな。そなたには申し訳無いことをした。王家からも慰謝料と云う形でそなたの望む様にしよう。」
陛下のその言葉を聞くなり、アリアドネ嬢はとんでもない事を言い出した。
「でしたら、わたくしはシリウス・ユーグリッド伯爵令息との婚約を希望致します。」
「はっ!?」
驚いてアリアドネ嬢を見たが、アリアドネ嬢はにっこりと笑って続けた。
「わたくし、所謂傷物令嬢ですの。わたくしを貰い受けるのは貴方の望む罰になると思うのですが、如何でしょう。」
「なにを仰るのです!? メルツァー侯爵令嬢は全くの冤罪であり被害者では無いですか。傷物も何も···」
「世間的に見ると婚約白紙は破棄と変わらず、傷物の様に扱われます。今年で二十歳になるというのに、婚約が白紙になるという事は国内の同年代の方は勿論の事、他国の方とも再び婚約、結婚とは難しいのです。良くて高位貴族の後妻か愛人と言った所ですわね。」
娘を溺愛する宰相閣下がそんな事は許さないとは思うのだが、如何せんメルツァー家は上に姉がニ人に兄が一人居るのだ。
跡取りは兄であるし、姉二人は既に国内外に其々嫁いでいる。そういう意味でもアリアドネ一人が家にずっと居るというのも外聞が良くない。
加えて、俺は御年十八で第二とはいえ王子の側近にも関わらず、見た目と王子の尻拭いで余裕が無く、未だ婚約者もいない身だ。
そんなやり取りを見ていた陛下が笑いながら言った。
「はっはっはっはっはっ。 確かにそうだのう。どちらの言い分も最もだ。
どうだ宰相。そなたの娘はこの様に申しているが?
儂としては、ミカエルの件の手前もありアリアドネ嬢の希望は叶えてやりたいと思う。」
宰相は苦い顔で溜息を吐く。
「娘は言い出したら聞かぬ頑固者なのです。本人がその様に言って、陛下がお許しになるのであれば、私に物申す事はありません。」
「だ、そうだシリウスよ。そなたは構わぬな?」
「構わないも何も··· メルツァー侯爵令嬢。本当に宜しいのですか?」
「宜しいも何も、これは罰なのですよ?シリウス様。それにわたくし達は婚約者となるのですからこれからはどうか「アリアドネ」と。」
顔を赤らめながら告げるアリアドネ嬢にこれ以上何も言えなかった。
『これは俺にとって罰になる···のだろうか···』
そうぼんやりと考えていると、陛下が再び口を開いた。
「さて、罰の話しはここまでだ。次は褒美の話しをしなくてはな。」
そう言ってサッと手を挙げると今度は宰相閣下が持っていた書状を読み上げる。
「今回の件の報奨として、リリアナ・ウェルツナー元子爵令嬢を私、メルツァー家の養女とする。」
「「えっ!?」」
リリアナだけでなく、アリアドネ嬢も聞いていなかった様で、驚いていた。
「し、しかし私は実の娘では無いとは言え、犯罪を犯した家の養女です。そんな私が宰相様の娘になるなど···。私は罪に問われなかっただけでも充分でございます。」
そう告げたリリアナに対し、陛下は
「そなたは今回の件については協力者であり、被害者の一人に過ぎぬ。この件は宰相と宰相の奥方の希望でもあるのだ。」
と言った。
確かに今回俺がした根回しの一つにリリアナの協力を得て証拠集めを行ったのも事実。この短期間でしっかりした証拠が集まったのは一重にリリアナの協力無くしてなし得なかったのである。
陛下にそう言われてはリリアナもそれ以上は食って掛かれない。
だが、アリアドネ嬢について気になるようで、アリアドネ嬢の方を見るとおずおずと問いかけた。
「···アリアドネ様は、私が妹になっても宜しいのですか?」
そう問われたアリアドネ嬢は眉間にシワを寄せ、逡巡する素振りを見せると何やらブツブツと言い始めた。
「リリアナ様が妹···そうよね。わたくしの方が年上だもの··妹になるのよね。わたくしもう末っ子では無くなる?それって···」
返事が返ってこないことで不安になったのか、悲しそうな顔でリリアナは話す。
「···そう、ですよ、ね。 私が妹だなんて···。元々今回の事だって私が居なければアリアドネ様は婚約白紙にならなかったんです。アリアドネ様は嫌に決まっていますよね。国王様、申し訳ございませんが、この話しは―――――――」
リリアナがそこまで言ったのを、アリアドネ嬢は慌てた様に遮った。
「ち、違うわ。わたくし、今まで自分が末っ子で、何時も妹か弟が欲しいと思っていたの。だから決して貴方が嫌という訳では···」
「お姉様!!」
リリアナは涙目でアリアドネに抱きついた。
「ちょっと。陛下の御前よ。場所を弁えなさいませ。」
そんな二人を見て陛下は よいよい と笑っている。
宰相もホッとした顔をしていた。
俺はと言うとまぁ、蚊帳の外だよね。
早く帰りたいなーとか考えて現実逃避してましたよ。そんな様子に気付かれたのか、宰相閣下が一つ咳払いをし、続きがあると話し始めた。
「次にシリウス・ユーグリッド。君の褒美だが、君が爵位を継ぐ際に、侯爵位に叙爵。並びに第一王子の側近として、今後も励んで貰う事とする。」
「は?」
思わず声が出た。
慌てて反論する。
「お言葉ですが、先に告げた通り第二王子を諌められなかったのです。罰こそ受けても褒美を頂く訳には参りません。それにアリアドネ嬢との婚約にしても、私には褒美にこそなれ、罰にはなりません。そういう意味でも既に褒美は頂いているも同然です。」
これ以上は過剰であると主張する。叙爵は面倒事である。これ以上は本当に勘弁頂きたい。
そんな事を考えながら話しているとうっかり本音が溢れてしまった。
「···私、相手ではアリアドネ嬢こそ罰を与えられた様な物では無いですか。」
最後は尻すぼみになり情けないものだった。
「ち、違いますわ! これはわたくしの希望なのです。で、ですから····」
今度はアリアドネが尻すぼみになり、真っ赤になって震えている。
「···わたくしの事、お嫌いですか···?」
アリアドネは俯きながら小さく呟いた。
しかし、その言葉は俺には聞こえておらず···
宰相はやれやれと言葉を発した。
「ユーグリッド伯爵令息。どうやら娘は君に惚れた様だ。貰ってやってはくれんか? それに娘が嫁ぐのだ。 侯爵位では無いと、娘を嫁がせられんではないか。」
宰相閣下にそう言われると、アリアドネはばっと顔を上げ、何やら父親に詰め寄っていた。
「爵位は関係ないですよね···
お、私で良ければ、喜んでお受けさせて頂きます。」
そう告げるとアリアドネは涙を浮かべたままこちらを向いて微笑んだ。
END
お読み頂きありがとうございます。
まさか読んで頂けるとは思わず、ブックマーク追加頂いたり、評価頂きありがとうございます。
如何せん初めての試みなので、読み難い所も沢山あるかと思います。
誤字脱字等ありましたらご報告お願い致します。
3/26
加筆修正をおこないました。
登場人物達のそれぞれの特徴を記載。
誤字脱字を修正しました。
あ、王子の年齢書いてなかったですね。
19です。(必要無い)
別のお話しとして、ちょこっと出てきた医官のお話しと、シーズン中にあった根回し等の話しも書けたらなと思っています。
評価頂けるとやる気が出ますので、よろしければボチッとお願い致します。