告白
寒波が吹き荒れる故郷に帰ってきた。懐かしい同窓に会うために、高校卒業から数年ぶりに帰ってきた故郷は変わらない寒さで私を迎えた。数年ぶりに会う同窓たちはそう変わらない関係で少しだけ昔に戻った気がした。
楽しい食事会、他愛無い会話、楽しかった。でもそれだけにもう帰れないあの時を懐かしくも、惜しくも思った。
会場になっていたのは、いつぞやにクラスのみんなで行った焼き肉屋。あの時と違うのはみんな成人しており、酒を飲めるようになっていたことだ。酔っぱらって理性が溶けた状態では碌なことをしない。
具体的には墓場まで持っていく秘密を、張本人がばらしたりすることだ。
夜空の中、私は元クラスメイトと観覧車に乗っていた。星が零れてきそうな空の中で、乗ったっきり黙ってしまったのは誘った彼女だ。澄んだ固い空気が詰まっている個室の中で、やっと口を開いたのは観覧車が半分を過ぎようとしたあたりだった。
「私ね、好きな人がいるの」
「へぇ?」
私のクラスには顔が整っているのが多い。数年越しに出会って、そこから始まる恋というのも別に珍しい話ではないだろう。残念ながら私には縁がない話だが。
「それでクラスの誰なのよ?てか、なんで私連れてこられたの?」
嘘だ。それに気づかないほど鈍くはないし、ずっと彼女からの視線を感じていたのだから。ただ黙殺しただけ。
「それは、その、未希ちゃんのことが・・・」
「え?私?またまた」
我ながら悪辣で、少しだけ自分が嫌いになる。ずっと知っていながら無視し続けていた代償がこれとはなかなか重い返しだと思う。
「本当だよ!気づいてたんでしょ?他の人に黙っててくれたのはありがとう」
「ん、まぁね。それでなんで今さら言おうと思ったの?」
「この機会を逃したら一生言えない気がして・・・」
それはそうだろう。というか、なんでそれを墓場まで持って行かないのか。
「それで、その、返事はいつでもいいから・・・」
「いや、もう答えは出てるよ」
「え?」
「ごめんね。栞さんとは付き合えない」
「そ、そっか。そうだよね。気持ち悪いよね。女どうしなんて」
そんなことはない。そう宣言できればどれだけ良かったか。問題があるのはあなたではなくて私なのだと言ってあげるべきなのだろう。結局、私も傷つきたくないのだ。たとえそれで彼女が傷つくことになったとしても。
無言の重い空気のまま、観覧車は終点に近づく。既に口を開くこともできない私たちは端から見ると完全に破局したカップルだっただろう。
「ねぇ」
「・・・・・・何?」
「余裕が出来た時でいいからさ、アロマンティックって言葉で調べてみてよ」
「?」
「いいから、なんで私が断ったのかわかるから」
私に出せる勇気はこれが限界だ。
秘密を抱えているのはあなただけじゃないの、ごめんね。
心の中だけの懺悔を彼女にぶつけて、私は逃げるように帰路に着いた。