「ある村の村人」
男はマルチ商法に引っ掛かり、二百万の借金を背負い込んだ。
負債を減らす為にサラ金からお金を借り、カジノで一攫千金を狙ったが……更に借金が増えたのは言うまでもない。
彼は決断した。
(もう……奥の手を使うしかない)
強いモンスターを倒してお金を稼ぐ。これが彼の導き出した答えだった。五百万を稼ぐには、相当強い奴を倒すしかないのだが……。
(ん? いや……待てよ? 村に訪れる勇者? そいつを倒した方が……この村に辿り着くまでに、モンスターから大量に金を巻き上げたり、イベントをこなしているハズだし、そっちの方が手っ取り早いかも知れぬ)
フフフフ、ハハハハ
男は口元を歪め笑っていた。
そして月日は流れ――
村に勇者一行が現れると報告が届いてから二日後。村人は皆、必死だった。
「ようこそ、アルアル村へ」
「ここより東の洞窟は、魔物が大変凶暴で危険ですぞいぞい」
「お父さん、ぞいが一回多いよ」
「一泊八十ゴールドになりますぞい」
「お母さんは、ぞい いらないから……」
勇者一行が来た時の台詞を練習していた。勇者滞在中には、与えられた台詞以外喋る事は出来ない、もし喋ると給料が貰えないと言う契約があるからだ。
野望を内に秘めた男は台本を片手に。
「おお、旅人がこんな田舎に……」
(あれ……忘れた)
練習に必死で勇者を倒す野望は、忘却の彼方に……
こうして一日は終了した。
翌日、村人は立ち位置の目印が付いた場所にスタンバり、勇者一行の登場を待っていた。そして勇者一行がやってきた。
髪は金髪で、金色の派手な鎧を身につけている男。魔導師の様なローブを着た、赤い髪のツインテールがよく似合っている、目元鼻元が整い、水晶の様に透き通った蒼い瞳が特徴的な少女。最後の一人は、男なのか女なのか判断が出来ないが、一つだけ言える事がある、デブ。三人パーティーだった。
野望を内に秘めた男は、勇者一行の姿を見て。
(やばくない? あのツインテールの子、可愛いよ?)
もう勇者を倒す事を完全に忘れている様子。
「ロイズ。私、疲れたから宿に居るから〜後任せたわ」
「あいよ。しょうがねぇな」
「……」
野望を忘れている男は、ツインテールの魔導師が宿に一人で居ると盗み聞きしていた。
(ゲッヒッヒッヒッス)
辺りをキョロキョロと確認しながら、野望……恋心を内に秘めた男は宿に忍び寄って行った。だがその時、不覚にもバナナの皮に滑って転んでしまった。その衝撃で恋心を内に秘めた男は
(――そうだ。俺はあんなに修業したんだ……勇者を倒すために! 何故今まで忘れていたんだ! 女に惑わされるとは、不覚よ)
何を思ったのか、急に野望を思い出したのだ。野望を取り戻した男は、勇者に向かって歩いてゆく。その瞳にもう迷いはない。
(あぁ! やべぇ! 忘れ物。あれがないと戦えないよ?)
…………
家に戻り。いつか合間見える勇者を倒す為に、鍛えに鍛えた一振の黒い剣。その刀身は見事なまでに……黒くて普通だった。野望を取り戻した男は剣を左手に持ち、勇者を目指し堂々と歩いている。既にその瞳に迷いはない……?
村人は皆、与えられた役をこなしていた。
野望を取り戻した男は、役者気取りの村人何人かとすれ違い思った。
(俺は間違っていない。仕事は探してやるものだ。自分が創り出すものだ。与えられた仕事だけをやるなら雑兵だ。と織田信長も言っていた。俺は与えられた役を棄ててでも……)
そんな事を考えながら歩いていたら、ついに勇者の目の前に到着してしまった。野望を取り戻した男は、これからの戦術を考えかなり緊張していたが、緊張が相手に悟られぬ様に演じる事にした。
「待ちな勇者。ここでイベント発生だ」
「ほう。わかりやすいイベントだな」
勇者ロイズは、嬉しそう顔をしながら。腰の剣を抜き、野望を取り戻した男に向けて構えた。それを見た野望を取り戻した男は、勇者を一笑した。
「血の気の多い勇者よ、このイベントは戦闘ではないぞい!」
そう言って左手に持っていた、黒い剣を勇者に渡した。
「なんだ? くれるのか?」
「どうだ、いい剣だろ? そいつはな、名刀だ。魔王殺しの剣と言ってな、そいつで魔王を斬るとたちまち魔王は消滅して消えてしまう、幻の剣なんだよ」
「へぇ、すげぇな」
「今なら勇者さんに、この五百万ゴールドの剣をこの回復薬九十九個買ってくれたら、無料で差し上げますよ。この回復薬、凄いんですよ! なんと飲むと肩凝りや身体の怠さが解消されるんですよ、凄いでしょ!? これを自分で使うのもいいし。街や城で売りながら進めばかなり冒険も楽になりますよ? この回復薬、九十九個で五百万の所を今なら勇者様特別割引で、な、なんと! 二百五十万ゴールドですよ。このチャンスを逃すと勿体ないですよ」
「ほう、それはお買い得だな。だがそんな大金は持ち合わせていないな」
野望を取り戻した男は、手応えを感じ、心の中でガッツポーズをし喜んでいた。
この時、彼はまだ気付いていなかった……
「大丈夫ですよ、この誓約書にサインして下されば支払いは魔王を倒した後でも結構ですよ」
「そんな面倒な事しなくても、簡単な方法がある!」
ズサッ
勇者ロイズは、野望を取り戻した男を持っていた剣で突き刺していた。
「お前を殺せば全て無料ではないか!」
フフフ、ハハハッハハ
高らかに笑っている勇者ロイズを光りを失った瞳孔で必死に睨み付け、野望を果たせなかった男は最後の力を振り絞り。
「最近の……ロールプレイングは………自由度が……高いとは……迂闊よ…………」
そう最近のロールプレイングは自由度が高い事に気付いていなかったのだ
これはなんだ?
以上作品の感想でした。
織田信長の名言を探している途中にシェークスピアの名言を見つけたのでご紹介したいと思います。
人の言葉は善意にとれ。その方が、五倍も賢い。
言葉に善意や悪意は無く、受け取る人がそれを決める。決められた段階で悪意にとる事はせずに全て善意にとれれば、五倍もお得って事ですよね。
余談ですが、ガリガリ君の新しい味。
マスカットオブアレキサンドリア名前長いです。でも後味スッキリなんで夏にピッタリな味ですよ。
次回作でお会い出来れば幸いです。