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とある夢師と少女のその後  作者: 垢音
本編全9話
5/11

眷属の意味


「シャリーさん。大体の事情は分かったけど、ダリュー様からどの程度の事を聞いているのか……聞いても平気?」

「え」




 結局、ダリューさんは散々「嫌だ」を繰り返した。

 しかしレオグルさんもレファール……君? も引く気はない様子。このままだとラチが明かないと感じ取ったのかすぐに別室に移動。

 方向音痴と評して逃げようとしたダリューさんに、ダートルさんが抑えレオグルさんに抑えられて連れて行かれる。

 

 それを苦笑いで見送った私に問いかけて来たのは、室長であるイルトさんで。

 ディル君はずっと私の傍におり、上司である彼の事を睨んでいる状態だ。




「……」

「ディル。それはダリュー様からの命令なの?」

「うん。何がなんでもシャリーお姉さんの事、守れって言われた」

「君、殆ど見向きもしないのに一体どうしたの……」

「眷属同士、だからかな……。お姉さんは敵じゃない」

「あ、そう」




 えっと……。

 このバチバチとしか雰囲気はどうすればいいのか。しかも別に気にした様子でもない。


 イルトさんは、私とディル君に新しい紅茶を用意してくれた。

 あ、今更だけどディル君って呼んでも良いのかな。




「良いよ。お姉さんはダリュー様のもの。俺はそれ以外の奴から守るだけ。だって特別だから」

「特別……?」




 それはダリューさんが純血種と呼ばれている事に関係があるのだろうか。

 そう思った私の表情を読み取ったのか、イルトさんは「やっぱり」と何故だか予想がついたような感じに言われる。




「あぁそうか。今まで街中を歩いて来たからその話題は避けて来たのか。誰が聞いているのか分からないし、周りは敵だらけと考えていいしね」

「……敵って」




 話題を避けていた?

 誰が聞いているのか分からないって、一体……。




「では、1つ目の質問。ハンターと冒険者の違いは分かる?」

「えっと――」




 ウルトさんの知りたい答えかは分からないけど、私が知りうる限りのことを告げる。


 まずハンター。

 この世界では、夢師であるダリューさん達が狩る夢魔(むうま)とは別に魔物がいる。

 魔物を狩るのはハンター達で、確かパーティーは滅多なことでない限りは組まないと聞いている。

 そして、ギルドからは認められていない非公式に所属している人達。


 逆に冒険者は、ギルドと呼ばれる所で正式に職業として認められた人達の事。

 ハンターと違いこちらでは、パーティーを組んでいる。1人での行動を許していないんだったような気がする……。

 ランク付けがあったような気もするが、よく分からない。

 あと、ハンターよりも冒険者の方が魔法を使える人達が多い……気がした、かな。


 でも、ハンターもギルドもやっている仕事内容は魔物の討伐。

 冒険者はそれにプラスして、国の要請で防衛に関わったりして内容は様々。


 このくらいかな。


 

 ディル君が「え、全部一緒じゃないの?」と不思議そうに言っていたけど……。

 違ったのかなと思ってイルトさんを見ると「正解だよ」と言う答えが返って来た。





「ディル。彼等とは関わらないけど、一応の知識として頭に入れておいて」

「……」

「ディル?」

「やだ、めんどい」




 そう言ってそっぽを向き、私に寄りかかる。

 ウルトさんが溜め息を吐いて「これだから君は……」と頭を抱えていた。




「ディル君」

「ん?」

「一緒にお勉強しよ?」

「うぅ……」




 凄く悲し気に見上げられてしまった。

 その目が「本気で言っている?」と言う感じに読み取れる。


 


「……分かった」

「え」

「お姉さんが言うなら……頑張るよ、勉強」

「ありがとう」




 偉い偉いと頭を撫でると彼は嬉しそうに抱き着いて来た。

 その変りぶりにウルトさんが驚きのあまり口を開けたまま。


 ……ダリューさんも無反応だと言ってたが、本当の様だ。




「コホン、幻でも見ている感じだな。あのディルが素直だと」




 そんなにですか。

 チラッと見ても、ディル君は気にした様子でもなく「んふふ♪」と嬉しそう。




「では次の質問だよ。2つ目、何故ハンターが非公式と言われているかは知っている?」

「いいえ。ただ噂だと……冒険者との仲が悪いと。ここに来るまでにそう言った噂や実際に、喧嘩が起きているのを見てきました」




 フリーネルさんから軽く説明は聞いていた。

 自分達、ヴァンパイヤは太陽の光に当てられると死ぬのだと。ただ、そんな環境下でも平気なのがいる。


 それはダリューさん達、純血種。

 その劣化版がヴァンパイヤだって聞いた。さらに、その中で太陽の光に出ても平気な特別種がフリーネルさん達だとも。


 だから私達は日夜を問わず歩き続けても平気。

 人と違って疲れ方が違うだけで、ずっと歩き続けられる訳でもない。野営もするし、街中で宿を取っては夢魔の情報を探っている。


 

 そんな時だった。

 喧嘩をしている場面を見た事があり、止めようとしたことがある。でも、それをダリューさん達は決して許してはくれなかった。

 理由を聞いても「ここでは無理だ」の一点張り。

 結局、フリーネルさんが様子を見に行った時には終わっていた。冒険者側の仲間が仲裁して、そこまで大事にはならなかったというけど……。




「あの、ハンターとギルドって……どっちの歴史が古いとかあるんでしょうか」

「出来た組織の順で言えばハンターの方だね。でも、ギルドに所属している冒険者達とではまず思想が異なる」

「思想……ですか?」

「そう。ハンターが標的としているのは魔物じゃない。私達、ヴァンパイヤだけだよ」

「え」

「俺、嫌い。なりふり構わずだし、良い悪いもない。……ヴァンパイヤもハーフも関係なく狩ってる。アイツ等だって化け物だ」




 ディル君はハンターが嫌いなのだろう。

 凄く怖い顔をしているし、イライラを募らせている。


 思わずその殺気にゴクリと無意識に、唾を飲んでしまった。




「あ。……違う。お姉さんは全然いいの。俺、同一に見てない。レファールからも聞いている。……人間の中にも良い悪いがいるからって」




 ディル君の纏っていた雰囲気が急にしょんぼりした。

 私が怖がっているのだと感じ取ると、必死で「違う」を連呼した。




「私の方こそごめん。……私もまだまだだね」

「……嫌いにならない?」

「うん。平気だよ、嫌いになんてならないよ」




 そう言えばディル君は嬉しそうにしている。

 紅茶を飲んだかと思ったら「お菓子、貰って来る」と言って室長室から出て行った。


 イルトさんはディル君が出て行ったのを見計らい、私に話してくれた。

 ディル君がダリューさんの眷族になった経緯を――。




「彼の居る村には好戦的な者達はいないんだ。ただ、それが災いしてハンター達に狩られたんだ。……幼い彼だけが生き残っても、まだ自分の魔力を上手く練られなかったからね。死ぬ手前でダリューの血を貰ったんだ」




 聞けば人間に色んな性格があるように、ヴァンパイヤ達にも様々な性格がいる。

 ディル君達の住んでいた所は、温厚で戦闘は滅多な事ではやらない。ただ、その所為で襲われた時に何人かは命乞いをしたのだと言う。


 それをハンター達は関係なく狩り取った。

 子供も大人も関係なく。生まれて来た幼い子も、なにもかも……。


 その惨状の中、ダリューさんがディル君に「この先も生きたいか」と問われ彼は「生きたい」と答えた結果として眷族になった。




「……」

「シャリーさんも気を付けて。ダリューの血を貰うと言う事は、人間を捨てるということ。まだ体に変化はなくても、彼の血は強力だ。体を作り替えることは可能だし、恐らくはハーフではなくヴァンパイヤとして生きるだろう」




 ハンターが殺していくのはヴァンパイヤに絞られている理由。


 その昔、ヴァンパイヤが眷族としていた中に人間も含まれていた。血を貰ったヴァンパイヤに逆らう事を許さず、生涯を尽くして仕えないといけない絶対的な支配力。

 その過程で呪いも作り出されたのだとか。


 その支配力を利用して、人間を家畜同然に扱ってきた。


 ハンターに所属している人達は復讐心と言う共通の思いがある。

 眷族にされた事で家族を奪われた人達。またヴァンパイヤによって起こされた人間狩りの犠牲で、復讐を誓った人達。




「だからギルドとは仲が悪い。彼等の思想は復讐そのもの。ヴァンパイヤを根絶やしにする事こそが正義としている。……そこにハーフも含まれるから、シャリーさんにもしものことがあるとマズいんだよ」




 震える私の体をウルトさんは申し訳なさそうな表情で見ていた。

 ダリューさん達が、私を止めた理由が分かった。


 あの時、私だけでなくダリューさん達がヴァンパイヤだとバレたのなら……そこで戦闘は起きてしまう。

 色んなものを巻き込んでしまうのだ。




 


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