猫っぽい子と姉思いの弟
夢に住むとされる奇病を退治しているダリューさん達。
殆ど知られていないが、そんな彼等の事を私の住んでた村や近くの街では夢師と呼んでいる。
夢に入り込んで、中に巣くう化け物を退治する。
到底、人間のできる範囲を超えている為に有名になってはいけない。ただ、子供達からはちょっとしたヒーロー扱いだ。
「シャリーちゃん、見えて来たよ。あれが私達の本部だ」
「うわぁ~~。おっきいですね」
フリーネルさんの手に引かれ、私は彼女が指を指す方に目を向ける。
吹雪が吹く中でも、不自然に避けられている所がある。目を凝らして見れば、大きな黒い塔が見える。
ダリューさん達、夢師の本部。
ハーフになった私の事を報告する為に、今日まで頑張って来た。フリーネルさんが言うには、あそこで住んでいる人達は私のようなハーフも多いとの事。
友達が出来るのを楽しみにしているようだ。
「だぁ、ま、まて……。おまっ、フリーネル!!! 俺等に、どんだけ!!! 荷物を持たせるんだよ」
「あ、星が……星が見えます。おかしいな、凄く寒い。寒いですね、あははっ、あはははは」
ダートルさんが大荷物を持ってイライラを募らせている。
その後ろをダリューさんが来ているんだけど、ヤバい!!! 星が見えるとか言ってる。
早く連れ戻さないと!!!
あー、雪に埋もれてるっ。ダリューさん、倒れたまま進まないでぇ。
「ふん、だらしないね。男は黙って女の荷物を持つ。これは鉄則だよ?」
「お前が決めただけだろうが!!!」
「昨日、賭けに負けたのは誰だい?」
「ぐっ……。そ、そりゃあ……俺だけど」
「なんだい、聞こえないね!!!」
「はいはい。俺ですよ!!!」
「分かればよろしい」
「くそっ、ただの脳筋――ぐはっ」
後ろでダートルさんが派手に投げれている気がする。
凄いドカッとか、バキッと聞いたらいけない音が聞こえて来るけど……。
あぁ、ダリューさんの手が震えている。倒れたまま進んでいるのに、見えている本部から離れていく。方向音痴なのは、聞いてたけどここまでとは……。
早くしないと、私もダリューさんも危ない。
「はえ……。シャリー?」
「ダリューさん、本部はもう少しみたいですから。頑張って下さい」
「っ!!! な、なななな、なにしてっ――」
さっきまで青い顔をしていたのに、今度は真っ赤になりました。
やっぱり手が冷たい。
温める為に胸元に持ってきて正解です。そのままぎゅーってしたり、息を吐いて少しでも温かくしないと。
そうしていたら、ダリューさんがますます真っ赤になっていて。
……あれ?
「は、離れて下さい!!! シャリー、いけないです。こういう事は、その……もう少し、お互いの事をですね」
「あーー、やっぱりダリュー様だぁ♪ 久しぶり、元気にしてた?」
私がダリューさんの左手を持って温めている時、すぐ隣から男の子の声が聞こえた。
見てみるとダリューさんの右手を持って、自分の頬にスリスリしている。
「こうするといいよ?」
「ホント?」
「うん。スリスリ~~ってすると温かいから」
「あ、ホントだ。ポカポカする」
「ポカポカ~~」
一緒に和んで、ダリューさんの事を温める。
一方のダリューさんは呆れたり、顔を赤くしたりと大忙しのようだ。
「よろしくね。俺、ディル」
「シャリーです」
「お姉ちゃん、いい匂いする。……安心、できる」
「ふええっ!?」
ポスンとそのまま抱き着かれ、驚くことに寝てしまった。
名前を呼んでも反応はない。どうしようかと思っていると、ダリューさんにまとめて背負われた。
「フリーネルの荷物は本部に送りました。ちょっとだけ辛抱して下さい」
「は、はい……」
さっきまでその荷物に潰れていたのに、今はスッキリしている。
と言うより、何だか機嫌がいい?
何をしたらそんなに機嫌がいいのか分からない私は、頭を捻り「ん~~」と悩むも答えは出ないままだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ディルが懐くのなんて凄いんですよ」
「そう、なんですか……?」
あのまま歩いて行くのかと思っていたが、ある程度に近付いたら自動的に中へと入っていた。
外が凄く寒かった分、温かくてほっとする。
そう思っていたら、誰かの部屋だろうか。物があまりなくて、生活しているって感じがしないけど。
「大体は無反応ですから。私以外では、シャリーが初めて懐かれた感じです」
「それにしても起きない……ですね」
あれからずっと私に寄りかかり、寝ているディル君。
何度かさすったり、呼んだりとしてみたが無反応。むしろ「むにゃむにゃ……」とか「いい、におい……」と言いギュっとされる。
何処かに寝かせるか、座れる場所をと探しているとダリューさんがソファーを使って良いと言ってくれたので使わせていただきます。
座って分かる。凄く大きくてフワフワだ。
思わず私も眠りそうだ……。
「彼、温かい場所が好きですから当分は無理ですよ」
「そうなん――っ!!!」
さっと目を瞑る。
ダリューさん、ダリューさん。服を脱ぐなら言って下さい。いや、寒いのはわかりますよ。
雪に埋もれたまま進みましたしね。新しい服に着替えたい気持ちは分かります。
でも、でもっ!!! 着替えるならちゃんと言って欲しいですよぉ~。
「この後、室長に会っていただきます。大丈夫。シャリーのようにハーフになった人達の扱いは分かっていますし、事情が事情なので。私も同席を――あの、シャリー聞いてます?」
き、聞いてない!!! 多分、半分も聞いない気がします。
体鍛えてるんですねとか。程よく筋肉ついてますねとか、思ってごめんない。ガッツリ見ててごめんなさい!!!
ディル君、こんな時でも気にせずに寝ていられるなんて……。そんなに寝不足なのかな。
「シャリーちゃん。ダリューから聞いているとは思うが……」
「「あっ……」」
そこにフリーネルさんが入ってくる。
顔を真っ赤にした上に、半裸のダリューさんが私に迫っている図にしか見えないですよね。黙るフリーネルさんの後ろから、顔を覗かせたダートルさんが「あーー」とやったなみたいな顔をしているんですが……。
フリーネルさん、黙ったままでいるのが逆に怖いです。
そう思っていたらスタスタと足早に来て、ダリューさんに――。
「このド変態がーーー!!!」
「まっ――ごはっ……!!!」
反論を許さず、フリーネルさんの振り上げた拳がそのままダリューさんに当たる。
勢いが凄いのか、力が凄すぎるのかは分からないけど部屋の壁が何枚もぶち抜かれていく……。
「相変わらず派手だね、フリーネル」
「っ……!!!」
「え」
驚いている内、フワリと風が舞い込む様にして部屋に入って来たのは少年だ。
金髪に紫色の瞳に、上質な生地で作られたであろう水色のジャケットとズボン。
その雰囲気に飲まれたからか、私は一言も発することが出来ない。
でも、私とは反対側に居たダートルさんの様子がおかしい。入って来た瞬間からなのか、ガタガタと体を震わして顔が真っ青だ。
「やぁ、久しぶりダートル。僕が来た用件分かるよね?」
「あ、いや……。その、誤解ですっ!!!」
そう言いながら逃げていく彼に、男の子は「ふふっ」と笑顔でいる。
フリーネルさんは「どうぞ、好きにして下さい、レファール様」と、凄く明るい声で伝えている。
え、レファール様……って。どういうことだろう?
「姉さんに近付くなって何度も言ってるのに、本当に懲りないな。さあ、選んでよ。串刺し? 凍結? それとも、永遠に苦しみたいのか。優しい僕がその通りにするから♪」
「全部、殺す気じゃないですか!!!」
「当たり前だよ~。悪い虫の駆除なんだから……じゃあ消えろ」
鼻歌交じりでダートルさんを追いかけていったのだろう。凄く不穏な言葉を発した。
一瞬で姿を消したので、目で追えないスピードなのは分かる。そして、数秒後「うぎゃあああああっ!!!」と叫び声が聞こえてきた。
ダートルさん、本当に殺されてないですよね!?
「ん~~。あれぇ、ダリュー様……居ない? また迷ったのかな」
ディル君、あの騒ぎの中でも起きないなんて……。
泣きそうな私を見て、ディル君はキョトンとしている。
お願い。誰か説明が欲しい……。ダリューさんが何処に行っちゃったのかとか、今の男の子は誰なのかなとか。
情報が欲しいのっ!!!