戦闘以外はポンコツな純血種
「とりあえず迎えはよろしく」とそう言われ、普通に放り込まれた先は森の中。
俺は思わず「マジか……」とうな垂れる。
イルト室長は任意の場所に俺達を飛ばせる。
一瞬で目的地に着くんだから、それを使って最初からダリューを送れば良いものを……。絶対にダリューの所為で純血種の認識を間違えてる。
アイツは戦闘しか役に立つところがない。
俺より長生きなのに、未だに道を覚えないのとか謎だ。それなら放った所で良いと思うが、責任感は強いからしぶとく生きるだろし。
「ったく、あのバカダリュー。普通に迷って――うおおおっ!?」
そんな文句を思いながら探そうとした矢先――俺の目の前には、ダリューが動物達に囲まれていた。
「あ、ダートル。遅いですよ」
「……」
おい、お前は何を普通に囲まれてるんだよ。
しかも居るのはリス、ウサギ、クマ、狼。気のせいでなければ、毛が多い奴がいる。しかも、ダリューを温めようとしているのかピッタリと抱き着いていた。
……暑くないのか、アイツは。
「なんだか、楽しそうだな。んじゃ、俺はかえ――」
帰ると言おうとした。が、その前に思い切り地面に叩きつけられた。
歩こうとした足を掴まれ、バランスを保てなくてぶっ倒れる俺にダリューは文句を言い出した。
「遭難している相手を置いていくなんて、人でなしですね!!!」
「俺達は人じゃねぇよ!!!」
ヴァンパイアだよ。ハンターが俺等を憎い敵と思って殺しに来ているんだよ。
こんなのんきに構えるなよ。
「大丈夫ですよ。いざとなれば、この子達の中から食料になってくれる子がいます」
「お前の方がよっぽど人でなしだな!!!」
普通に差し出すな。
弱肉強食のルールなのは分かるが、なんか違う気がする。そう思いつつ、どうにか起き上がろうとするもダリューが掴む手は力が強いまま。
くそっ、離しやがれっ!!!
「置いていく気、満々ですよね」
「当たり前だろ。楽しそうに囲まれてんじゃないか」
「暖をとっているだけです。シャリーとディルを迎えに行かないといけないので」
「……ハーディス国だろ。なら2人の身の安全は保障されたもんだろう」
「いえ、油断したくないです。アイツは何故かシャリーに用があるようなんです」
「はいはい、そうですか。こっからだとどのくらい掛かるんだよ」
「さあ……」
おい、流石にそこまで覚えてないってか。
仕方ない。飛ばされる前に渡された任務内容を見るしかないな。
えっーと……。
3人で任務に出て3カ月経ってて、この森の中にはつい2日程前に来てたのか。
アーディナルの森林だから、ハーディス国に行くには1週間前後かかるな。
「ほら行くぞ。ここに留まってると余計に時間を喰う」
「お腹空きました……」
「雪でも食べてろ」
「……あい」
水分代わりに積もっている雪を手に取り、魔法で洗浄して普通にムシャムシャと……。呆れた俺にダリューは気にした様子もなく、雪を食べていく。自分で歩くっていう選択肢をしないんだから、俺は運び屋になるのかよ。
ま、俺等はあんまり食事を重要視しないしな。
シャリーちゃんが作ったパンは、嬉しそうに食べてる上に早いからビックしたけどな。
フリーネルから教わったと聞いて、俺も食べたが美味かった。冷めても美味しいし、温めるとふっくらとしていて本部連中にも大人気だ。
そうか……。
もうシャリーちゃんが来て、3カ月は経ってて本部の皆とも仲良く出来てるもんな。
特にハーフの子供達には大人気で、戻れば「お姉ちゃん!!」と呼んで抱き着いているし。それを羨ましそうに見ているダリューを見て、ディルが実行した時にはヤバかったな。
殺意が滲みでていたというか、視線で突き刺していたとか……。まぁ、嫉妬だよな。自分じゃしないからと思ってたのにディルが無情にもやるんだから。
「っと。もうすぐ夜になるのか……。おい、ダリュー。悪いが今日はここまでだ」
「え」
「イルトに問答無用で飛ばされたんだが、ハンターの連中もいるかも知んない。用心して野宿だ」
「人の気配はなかったですよ?」
「だとしても、だ」
念を押しても平気だろう。
気配がない。人間は自分達よりも弱い。その油断で、酷い目に合わされたんだから学べよって思うけどな。
……根底に、人間は弱いものと決めつけている俺等にも問題があるがな。
「ではあの洞穴で良いですね」
全く自分から起きる事をしないダリューは、引きずられたままの状態で指をさす。
洞穴があるのはいい。問題なのは――。
「おい、いい加減に自分で立って歩け」
「嫌です。このまま運んでください」
「……このジジィ」
「そのジジィ相手にいつまでも勝てないのは誰ですか?」
「ちっ」
鼻歌交じりでいるのはいいがな、マジで引きずられたままかよ。
何で今日、こんなに労働作業が多いんだ?
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「うぅ。シャリー……」
既に外は夜で、私とディル君は結局……エーデルの言うように屋敷に泊まることになった。
お風呂に入ろうとしたらディル君も入ろうとして、レファール君に止められるし。まとめて連れ出すレオグルさんは凄いって思った。
ちゃんと目隠しして入って来るんだもん。
ビックリししたけど、気配を読んで動くのは得意だとエーデルから聞いた。
そして――。
今は、彼女の部屋で私とレナリ様と3人で過ごしている。のだが、お酒を飲んだエーデルはそのまま泣き崩れて私にピッタリと体を寄せて来た。
「貴方も早めに断らないとマズいわよ?」
「マズい……とは」
泣いている理由は、レオグルさんに怒られた事が未だのショックなんだとか。
ま、まぁ、泊まるかどうかの確認をしなかったんだけど怒るに怒れないというか。楽しみにしている目を見たら、いいかなぁとか思って。
「エーデルも、子犬君も断らないとみれば積極的に攻めるって事。レオグルはそれで落ちたし、前の彼は押しに弱い所があったけど今はもう平気だしね」
「積極的に、攻める……」
「グイグイ来て、頷くまでしつこいの。早い段階から嫌だって言えば良いけど、そうじゃないならこれからもなんだかんだと理由をつけて、屋敷に泊められるよっていう忠告」
「た、楽しそう……ですね」
「ふふ、そう見える?」
その間も、グズグズに泣いて「シャリーは癒しですぅ」って酔っている様子のエーデル。何となく頭を撫でると、またふにゃりと可愛い笑顔で頬ずりされてしまった。
今は落ち着いているけど、少し前まではディル君が突撃してきてて――。
レファール君が「我慢してるのにっ!!!」って怒りながら、ディル君を追い出そうとしているしちゃっかり自分も混ざろうとした。それを察してか、レオグルさんが怒りのオーラを纏いながら無言で連れ出していくし。
少し前までかなり騒がしかった。でも、その後で、レオグルさんが私達にお酒類と軽いおつまみを持ってきたのだ。
「騒いでしまったので、これで許して下さいね。ではごゆっくり」
そう言って笑顔をし、優雅に出て行くのを見て凄いなぁと思った。
さっきまでの無言で怒るのもだけど、気持ちを切り替えてもてなしてくれるのは流石と言うべきか。
そう思って見ていたのがダメだったのか、エーデルはじっと私を見て「うぅ~」と睨んでいる。なんだろうか、この小動物に睨まれている感じは。
睨んでいるのに、全然そう見えないのは……。思わず頭を撫でてしまったのは仕方ない。うん、仕方ない。
レナリ様も一緒に撫でていると更に不機嫌になってしまった。
「意地悪です……。レオグルは私の物ですよ!! 私の所有物だっていう印だってちゃんとあるもん」
「エーデル。酔っているからと言っても言葉には気を付けて」
「レナリだって、ナデナデしたじゃない!!!」
「可愛い子をナデナデしたらダメなの?」
「う、うぐぅ……」
さっと上目遣いで、エーデルを見るレナリ様。……策士、ですよね。
そう思っていたら私を見て、ニコリと笑顔を向けてきた。……はい、言いません。
一方のエーデルは、ずっと「むむっ」と納得していない表情。
そうしながらおつまみを一口、二口とゆっくりと食べて――パタンと寝てしまった。
「えっと」
「平気よ。エーデルはお酒に弱いの。ま、その分私の夫であるアレスが強いから良いの。妹に近付かせない為なら、潰れそうになっても意地でも這い上がってくるから」
「は、はぁ……」
レファール君の時にも思ったけど、アレス様もエーデル様に対する愛情の向け方が凄いっ。レナリ様はそれで良いのかなって思うと、微笑まれてしまった。
「平気よ。理解しているし、その部分も含めて私は好きだから」
「……」
「私もエーデルに近付く奴は許さないもの。……私なら存在ごと消し去るけど、アレスは脅しておくからね。過激な私とは違うわ」
……それはどちらも過激すぎではないでしょうか。
とてもそんな事を言いだせない空気だ。なんだろう、レナリ様もダリューさんと同じ純血種だからかたまに発言は許さないっていうオーラを出すんだよね。
女王様だと思ったが、実際にこの国の王族だったんだからそれも当たりか。
「言っておくけど、私をあのダリューと同じに見ないでね。戦闘以外はポンコツな彼と同じに言われるのは嫌なの」
「ご、ごめんなさい」
「どちらかと言えば、私じゃなくてお兄様と同列にして欲しいわ。あのバカ2人は、空気が同じなのよ。お・な・じ」
純血種と言っても様々だ。
サラッと自分のお兄さんを出して来るし、ダリューさんとまとめてバカと言うし。それ位に付き合いは長いんだろうと分かるけど……。
ダリューさんの評価が、本部でもここでもいいとこなしに聞こえるのは気のせいなのかな……。




