アトワイル家の姉弟は恐ろしいですっ……
※企画自体は1月31日に終了しています。
のんびり更新で更新させていただきます。
「あ、あのっ。レ、レレレレ、レオグルさん」
「シャリー様、足は止めず俺の方を見て下さい。それと視線が彷徨ってしまうと、周りからはおかしく見られますよ?」
「は、はいっ……。じゃなくて!!!」
ちょっと強引に足を止めると、ダンスの練習をしているレオグルさんも習って止まる。
背中まであった黒い髪は、1つに結ばれ水色のドレスを着ている。エーデル様が「絶対に似合うから!!」と勧められたらしいです。
心臓はいつも以上にバクバクで、レオグルさんとの距離が近いのは――ダンスの練習だから。
そう。ダンス……。夜会で開かれて貴族の人達が躍るやつ。一般人にはとてもキツイもの。
なのに分かってくれない。いや、例え分かっていたとしても拒否権はないんですもんね。
今、現在。
私はアトワイル家の屋敷にお邪魔している。全部は把握できない程に広くて、普通に迷う。ディル君に教えて貰っても、全然覚えられない。これはダリューさんでなくても迷う。
その屋敷の中で、ダンスの練習用の部屋があって――レオグルさんがパートナーとして練習相手をしてくれています。
その理由は、バーティス国の王であるラーバル様が私に用があるから。
でもその内容は分からずで、室長のイルトさんから連絡を受けた時に、私達は夢魔の討伐をしていた。
私とディル君、ダリューさんの3人での行動。
冒険者と呼ばれる人達も、パーティーを組んで行動をしているのでちょっとワクワクした気持ちがあったのも事実。
ダリューさんが凄く嫌な顔をした上に「アイツ、どんな企みで」と、ブツブツと怖い事を言っていた。その雰囲気と言うか空気が悪いのか、森の中に居た動物達は一斉に離れた。
……唯一、私の手の平で遊んでいたリスが残ったけど体がガクガクと震えていた。
可哀そうに思った私は、すぐにリスを解放するもその子はずっと私を心配そうに何度も見る。大丈夫だと知らせる為に笑顔で手を振れば、どうにか納得してくれたのか離れていく。
改めて純血種の怖い部分を見たというか、まだまだ知らない部分が多い。
ディル君が言うにはイラついているダリューさんは、雰囲気が怖くなるし物に当たらない分周りが被害を被るらしい。
……今、動物達が離れているみたいなことが本部の中でも起きているんだって。
『じゃ、とっとと終わらせてこよう。んじゃ、ダリュー様。先に行ってるねぇ』
『待ち――』
止めるダリューさんよりも早く、ディル君が私の事を抱えて影に飛び込んだ。
咄嗟に目を瞑り、次に目を開けてみると風景はガラリと変わっていた。
さっきまで森の中に居たのに、見覚えのある屋敷の外観に出てきた。
まだ詳しい内容は知らされていないのに良いのかなとか。ダリューさんが明らかに止めていたのに勝手に、行動していいのかとか色んな事を考えてしまった。
「やっほー。待ってたよ」
そう言って出迎えて来たのは、レファール・アトワイル君。
金髪に紫色の瞳のすっごく綺麗な子。ただ、その姿が私の知っている顔と違った。青年になっていた彼は背が高くて、優しそうな笑顔が似合う――同一人物とは思えない変りよう。
それで私は気絶した。
色んな処理が追い付かないのと、旅の疲れが出てきたのかは分からないけど……。
多分、出迎えてくれたレファール君の変わりように驚きすぎてて、限界に達したのかも知れない。
「驚かしちゃったから、こっちに戻るね」
「ご、ごめんなさい……」
目が覚めたら、随分と広い部屋にいました。
良かったのか分からないけど、ドレスは着替え終えていたしディル君はいつの間にか居ないしと状況がまだ飲み込めていない。
でも、レファール君がずっと傍に居て「そう言えば言って無かったね」と残念顔。
魔法で変われるのかと思ったが、どうやら遺伝からきたものらしい。
ちなみに私が彼をこう呼ぶのは、ディル君といる時に嬉しそうにしているのを見たから。最初は「様」って呼んでいたんだけど……呼ぶ度に悲し気にされた。
エーデル様はお姉さんだし、レオグルさんのことは「お義兄ちゃん」と呼んでいる仲なのは知っている。他の人達で同じ呼び方をするのはダリューさんなんだけど――。
『ダリュー様はそう呼ぶけど、他の人はそう呼んでくれないし……。ディルが嬉しそうにするのは何かズルいし』
『ふふん♪ 良いでしょ?』
なんでか2人の間で火花が散っていた。
見た目は子供だけど、貴族で力が強いから周りの人達もレファール君の事をそう呼ぶのに抵抗がある。
多分、そんな感じなんだとは思うんだけど……。
『お姉さんは、そう呼んでくれないの……?』
涙目で訴えられてはどうしようもない。
思わず室長であるイルトさんに助けを求めたんだけど、彼は気まずそうに視線を逸らした。
その姿を見て『ごめん、頑張って』と言われている気がした。
室長だけではない。
ダートルさんもフリーネルさんも、仲良くなった人達も同様に視線を逸らした。
唯一、ディル君が『レファールのワガママ』ととんでもない爆弾を投下する。喧嘩になる前に私は大声で言うしかなかったんだ。
レファール君って……。
凄く騙された感があるけど、聞いたらいけない気がした。
「じゃ、レオグルを呼んでくるね。ダンスを教えてる、上手いし」
「え、あの」
戸惑っている内に本当にレオグルさんは来た。
レファール君から詳細を聞いていたのか、レオグルさんはすぐに準備にとりかかる。
既にダンスをしてそれなりに経ち、外を見たら夕方になっていた。
「初めてですから、今日はこれくらいにしましょうか」
「あ、ありがとう……ございました」
足はガクガク。悪いとは思いつつ、ドレスを着たまま私は地べたにペタンと座る。
その様子にレオグルさんはクスリと笑い「仕方ないですよ」と言い、ひょいと私を抱き起しては丁寧にソファーに降ろす。
「シャリー。どんな具合ですか」
「あ」
エーデル様がサッと入る。
思わずレオグルさんとの距離の近さに、今頃になって恥ずかしくなる。と、同時に私は慌てて「あ、あのっ、そのっ……」と上手く言葉が出てこない。
しかし、エーデル様は気にした様子もない。
「もうっ、レオグルは手加減と言うのを知らないですよね。女性はもっと大切に扱わないと」
「お言葉を返しますがお嬢様、ちゃんと加減はしています。ですが、シャリー様はダンスに慣れていないのではなく異性との距離感に戸惑われているだけです」
「そうなの?」
ディル君とは距離が近い事を指摘されると、グサリと心に突き刺さるものがある。
お、弟……みたいな感覚だからかな。
レオグルさんもレファール君も自覚を持って欲しい。
エーデル様も含めて、皆さんのカッコよさは毒です。……緊張してしまうんですっ。
そんな事、言えない。
ディル君はなんというか、人懐っこい感じだし私の話は楽し気に聞いている。でも、周りの反応はダリューさんと同じく「あのディルが……」と驚かれるんだけど。
「そう言えばレファールの姿を見て、気絶したって聞いたわね。もう、あの子がショックを受けているのなんて珍しいのに」
う、うわぁ、ごめんなさい……。
レファール君、そんなにショックを受けてたのっ。そんな私の様子を察したのはやはりと言うかレオグルさんだ。
「エーデル。それ位にしてあげて下さい」
「そうね。あ、もう時間も時間ですし今日はもちろん泊まっていくんですよね?」
「えっと、ディル君と……本部に」
「えっ……!?」
確かに夜に近いけど、ディル君の闇魔法であればすぐに戻れる。
彼の魔法は、自分の影を1度行った場所なら一瞬で戻れるという便利なもの。その影を利用して、攻撃にも守りにも扱えるのだとか。
そう言えば、襲われかけた時に出て来た黒い壁はディル君の魔法によるものか。
……前にもお礼を言ったけど、改めてお礼を言おう。うん、そうしよう。
「シャリー、そんな寂しいこと言わないですよね」
「え」
「またパジャマパーティーしますよね?」
「あ、あの……?」
帰ることを考えていたら、エーデル様に手を握られている。
しかも、レファール君と同じ涙目だ。
訴えかける視線と声色が、レファール君のと被る。
何度も泊まる訳にはいかない。その前に、貴族の屋敷にそう何度も泊まるなんて私的には心臓がもたないですっ。
「エーデル。もしかして、ちゃんと確認を取られてない?」
「っ。ち、違うもん!!! ちが――」
「すみません、シャリー様。今少しだけお待ちください。ディル様を呼びますので、お2人で話し合いをお願いします」
エーデル様が青い顔をしている。
レオグルさんも、どことなく怒っている感じに見える。マズイと思った時には、既に2人は部屋から出て行っており入れ替わりでディル君が入ってくる。
「訓練、終わった?」
「終わったんだけど……」
「んん? どうしたの」
戻って本部に帰る気でいたことと、エーデル様が私達を泊める気でいたのを告げる。
多分……今、レオグルさんに怒られている気がする。
「室長には連絡入れておくよ。ダリュー様もまだ来れないって言ってたし」
「どのくらいで、ここに着くかな」
「あと1週間は無理だよ」
やっぱり、迷子になってるんですねっ。
で、でもバーティス国なら何度も来ているから大丈夫だと思うけど……ディル君が「1週間でも無理かなぁ」とか言うからさらに不安になった。
ダリューはいつものように迎えに行きたくても、迷子中。
果たして1週間前後で辿り着くのかどうか……。




