ロリコンな恋人?
「くっしゅ……!!!」
うぅ、寒いっ。
いくらハーフとはいえ、身体的には人間と同じ。寒いものは寒いし、暑いと感じる。その感覚は人間と同じだし感情も普通だ。
急に冷めたとか、人間が下等だなんて思わない。むしろそんなこと思うのだろうかと謎が深まるけど。
「ハーフかぁ……」
そう呟きながら自分を嗅ぐ。
特にいい匂いでもなければ、変な匂いでもない、はず。
しいて言えば、防寒の為に着ている服で少し汗臭く感じることだろうか?
「シャリーちゃん、俺もさむーい」
ぎゅーっと、帰りを待っていた私を抱き締めたのは赤髪の男性、ダートルさんだ。
いつもは髪の色と野性染みた雰囲気から、勘違いする人が多い。と言うより、私も勘違いしていた1人だ。
ごめんなさい、ダートルさん。すっごく面倒見の優しいお兄さんです。こうして甘やかしてくれるの、大好きです。
「1人で待たせて悪かったな。はい、待ってたご褒美♪ 温かい飲み物をプレゼントだ」
炎を思わせる様な綺麗な瞳。
いつもニコニコしてるし、何で最初に怖い雰囲気だと思ったのかと自分を殴りたい気分だ。
「ありがとうございます」
わーいと嬉しさ一杯で、受け取ろうした飲み物は私に渡ることはなかった。
「あれ?」
「恋人にベタベタしないで下さい。ついで、離れろダートル」
「余裕ない奴は嫌われるぜ、ダリュー」
「うぐっ……。き、嫌われませんよ!!!」
「焦るの、はえーし。涙目になるの早すぎだろ……」
ダートルさんが呆れた視線の先には、1人の男性がいた。
綺麗な緑色の瞳に、黒髪のダリューさん。彼は、ウルウルと既に泣きかけな状態。
奪った飲み物も、中身が軽くこぼれてる。手にかかっているのに、熱くないのかな……。
「シャリー、貴方は嫌いませんよね? 恋人を見捨てたりしませんよね!?」
「温かい飲み物が欲しいです……。寒いので」
「すぐに渡しますね。と言う訳だ。場所を変われ、ダートル」
「断る!!!」
「ではシャリー」
「ぬくもりを奪わないで!!!」
互いにぎゅーっとしていると、ダリューさんがすごく悲しげだ。
「あとで覚えていろ、ダートル」と不穏な言葉を聞いた気がしたが、きっと気のせいだ。
2人の仕事の邪魔しないと言ったのは私だし、1人で大人しく待っていると言った。でも、思った以上に寒いんだ。
今、ダートルさんに離れられるとぬくもりが消える。
温かくなれるのに、それが消えるだなんて嫌だ。必死で首を振れば、ダリューさんはすごくしょんぼりした。
でもその数秒後。
何を思ったのか、正面から抱き締めた上に温かい飲み物を渡してきた。
ん~~、温かいのがあると嬉しい。
「はぁ~、シャリーは温かいですね」
「気持ち悪い離れろ。俺は、お前じゃなくてシャリーちゃんの事を抱きしめてるの」
「貴方も離れろ。人の恋人に手を出すなんて、死にたいと言っているようなものだぞ」
「温かくて美味しいです」
2人が何を言い争っているかよく分からない。
私はそれよりも、温かい飲み物が飲めることと温かくなっていく体にほっとしている。
もう完全にへにゃっと顔を緩ませているんだろうなと思っている。
「全く……アンタ達、目立つなって言ってて何で目立つ行動をしたんだい?」
「「「ごめんなさい」」」
私達3人はそう言って、フリーネルさんに土下座をした。
溜め息を吐きながらも、仕方ないと最後には諦めくれたフリーネルさんは優しすぎる。
私達は今日、泊まる宿屋の中で高いお部屋を2つ取った。女性のフリーネルさんは、主にサポートを担当しているのでその日に泊まる宿の手配や情報収集をしている。
それらの用事を済ませた時、フリーネルさんが私達を見付ける前に目立っていた。
何故ならダリューさんもダートルさんも、カッコイイ大人だ。いつもはフードを被っているが、私を間に挟んで何か口論している時に脱げてしまった。
私がダリューさんと会った時は、行き倒れの人っていう印象だったけど……。
今はそのイメージはない。ともかく見た目がカッコイイ2人がなにやら言い争っている。しかも、間に挟まれているのは私な訳で……。
1人の女性を取り合っている、という風に見られてしまった。
迎えに来たフリーネルさんは「迷惑だよ!!」と、言いダリューさんの事を投げ飛ばした。そして、その流れのままダートルさんの顔を思い切り殴り飛ばす。
容赦ない攻撃に、見事に2人は気絶した。
そして、迫力あるフリーネルさんの登場により……人だかりはすぐに散っていったのだ。
「お言葉ですが、私達も目立ちましたが貴方も十分に――」
「文句あるの?」
「あ、いえ、ナイデス……ごめんなさい」
ダリューさんが反論しようとしたけど、ボキボキと言う音で指を鳴らすので恐怖を生んだ。
視線を外しながら、なんなら冷や汗をかいて再度謝る。
本来なら指が折れてるんじゃないかと思う音だけど、それを上回るだけの回復力が彼女達にはある。
だって彼女達はヴァンパイアなのだ。
誰もが振り返るだけの容姿であり、カッコイイと美しいが合わさった芸術品といってもいい。そんな彼等と行動を起こしている私も、もちろん人間ではない。
私は元人間、と表現していいのかな。
死にかけた私は、ダリューさんに助けられて……彼の血を貰う事で生き永らえた。
それと同時に、私は彼の眷族になったらしい。
人間の血とヴァンパイアの血を持った存在――ハーフと呼ばれる。ま、私もそのハーフだけど。
そう思っているのは私だけで、他と比べるとかなり特別なんだって。
それは血を与えられた存在が、ヴァンパイアの中で最も特殊で畏怖も込められた――純血種だから。
「今日も、シャリーちゃんは私と寝るよ」
「またお預け!? 恋人と離れないといけないなんて、こんな酷い拷問がありますか!!!」
涙目で訴えているダリューさんがその純血種みたい。
なんだろう。ダートルさんから聞いたら、自分達よりも長生きで偉いと聞いたけど……全然そう見えない。
どう見ても、フリーネルさんの方が力が上って見えるのに。
「いや、お前は危険だ。妥当な判断だろ」
「今日も頼むよ、ダートル」
「おぅ、分かってる。ダリューの事をベッドに縛り付けて、部屋に鍵をかけるのは当たり前。なんなら、出られないように魔法を多重に仕掛けて解除の時間を稼ぐ。ついでフリーネルとシャリーちゃんの部屋の前で待機だろ?」
「分かってるじゃん」
「珍獣扱い!?」
パタン、とショックを受けたダリューさんは床に倒れる。
魂が抜けたかのような姿なのに、ダートルさんもフリーネルさんも満足気。
倒れながらも、涙を流すダリューさんに私は思わず頭を撫でた。
ピクンと反応をしたかと思えば、ガバッと起き上がり勢いよく私の事を抱きしめる。
「うぅ、この2人は酷いです。恋人である私達を引き裂こうとしているだなんて」
「ダリューさん……」
恋人。
彼はよくその言葉を言ってくれるけど、私はどう答えていいのか未だに分からない……。私が彼と会ったのが、まだ8歳くらいの時だ。
その時の記憶も曖昧で、今と比べると圧倒的に会話もしていない。何処に好きと言う要素があるのかと考えてしまう。
「離れろ、ロリコン」
「そうだよ。シャリーちゃんが汚れるから、離れな。ロリコン」
「これ位は許せ!!」
どうもダリューさんは小さい子が好きらしい?
子供は好きなんだと前に話していたが、ダートルさんから言わせれば「変態だ」の一言でバッサリ。
「本部に戻ったら覚えてろ……」
恨めしく言うダリューさんを落ち着かせる為にと「ダメですよ」と言えば、彼はふにゃりと笑い「分かりました」ととてもいい笑顔で答えてくれた。