風邪の人と元凶の人
どぼーん!
……激しい水音が響いたのは数時間前のこと。
二人三脚の練習をしていて、まったくペースを合わせられなかった自分の代わりに何故か相手が落ちてしまい……。
「……ごめんね?」
練習が終わったら一緒に行こうと思っていた外食をキャンセルして、すれ違いの、少し、しゅんとした感じ。
この人は、もっとたくさん、しゅんとしたのかな。
風邪で寝込んでしまった人を寝かせたベッドに特別な味付けをほどこしたおかゆを運んで、横に座った。
そこへ、鼻をすする音だったり、タンが出たのにティッシュを取らない手だったり、そういうのを見て、あ。と声をかける。ほっぺをそーっとついて。
「だめだよー。せっかく体が、がんばって戦ってくれて、ようやくお外に出したバイキンなんだから。ぺってして、ちーんてしないと」
言いながら、ぽっけから色とりどりのポケットティッシュを取り出す。
「ばっちぃの人に見せたくないのん? キレイな色のティッシュで包むと良いよー。今日は何色の気分? バトルレッド、メルヘンイエロー、ロマンスピンクに、ファンタジックグリーンー……あ、スクールブルーもあるよ。……ま、まさか、ほらーぶらっくが良いのかな」
好きなの使ってね、と枕元にカラフルに積み上げると、空になった急須を持ち上げてみせた。
「あ、人に風邪菌を移すの心配してるのん? 大丈夫だよ、茶がらを上から撒いておいたらバイキン飛ばないから」
ふたを開けて、つやつやした濃い緑色の茶がらを見る。自分は緑色が好きだし、と得意げ。
好きと言えばね。と言って、持ってきたおかゆを差し出す。
「お腹、しんどいかもしれないから、あったかくて消化にいいもの。あたしは塩が好きだけど、本日はシュガースペシャル」
ショウガを入れて温めるつもりだったのだが、それに砂糖がまぶされていたことに後から気づいたのだ。
「はい、あーん」
にこー、と笑顔で差し出すのだが、『そらあかんやろ』とどこからかツッコミが聞こえそうな気もした。
病人が微妙なおかゆを平らげたのか、それとも進まなかったのかは置いておいて。
元凶の人はいったん席を立った。何か運んでくるらしい。
廊下へ踏み出した足を止めて、振り返る。
「そうそう、次の練習、集合場所を変えないとダメなら、教えて? また元気になってから、ね?」