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シースルー編

 過日、恐るべき緊張感と圧迫感を味わった。わけてもその圧迫感はなまなかではなく、圧死するかと思うほどであった。


 そう、日本人の8割は忌避するでおろう不倶戴天の外国人団体客と鉢合わせてしまった。私は襲われ貞操を守ることもむなしくーーーいや、語弊を与えてしまった。正しくは"道を訊かれた"のである。


 10人ほどに三方を囲まれて、「ノーイングリッシュ!」の抵抗むなしく私は乱暴されるがままの英語責めを受けてしまった。


 私も日本男子、潔さこそ美徳と幼少のみぎりより教育機関に教え込まれた。

 なので私は観念し泰然自若と彼ら彼女(アメリカ人シニアたち)の責めを全身で受け止めた。

 そして、何やらようわからん前口上ののち、皆口々に"ブルーバード"と発した。


 ブルーバード、、、青い鳥、はて?何のことやら、お店の名前? ヤマハのバイク?、、、私は思案した。そこで一つのコペルニクス的発想を思いつく。正直、天才かと自身の才気煥発さに身震いし、畏怖した程である。

 この異邦のシニア諸氏は「青い鳥を探してあっこち市中を回っている」、つまりだ、青い鳥=観光地・名所を指しており、私に「にいちゃんにいちゃん、なんかおもろい場所あらへんか?」と聞いているのだととっさに理解した。(べつに関西弁に他意はない)


 そうと分かれば、外国籍恐るるに足らず。

 私はH市の唯一であり無二の景勝地、ハニワ公園へと迷えるエトランゼたちを教え導くこととした。

 錚々たる枯淡な埴輪たちがお出迎えするかの場所は、一部の考古学ファンの垂涎の的、一度くれば二度と来る必要のないほどに感動と衝撃を与える日本屈指の埴輪の聖地。

 無論、私はバカだが、愚かではないので、わかりやすい場所を教えてあげるのが世の情けと信じ、もっとも近く、且つ、エキセントリックな場所を提示したのだ。そして、乾坤一擲怒涛の懇切丁寧な説明を開始したのである。


「ヒヤー、ゴーストレイト、赤黄色青マスィーン渡って、ゴーゴー、大通りをシースルー(見逃す。転じて、横目に)して、ゴーストレイトでゴールね。ハニワ?えっとはにわは英語で、、、ドグウ!ドグウパーク!」

 なんかすげえ伝わった。一生涯にわたって会心の説明であったとは思ったが、小躍りして大層喜んでくれた。シェイクハンドからの胸バチィーン(よくアメリカ人がやっているやつ?)をし、我々の異文化交流は幕を閉じた。

 これほど人生で国益に資することはなかったはずだ。これで気が良く亢進した異国シニアズは、日本でたくさんお金をばら撒いてくれることだろう。


 正直とっても緊張した。異邦の旅烏の度重なる執拗な圧迫にも怯えず、圧迫死せずに済んだことは僥倖と言えるだろう。今後の糧とする。


 しかし、やはりという何というかひっかかりが心の内にあったので、少しブルーバードを調べてみた。

 そしたら、「ブールバード」という言葉があることを生まれて初めて知った。意味は「大通り」。うん、大丈夫。大通りはちゃんと教えたし、シースルーはしてないだろう。うん。あれ、なんか不安になってきた。「シースルー」も念のため調べて、、、see through、、、「透けて見える」。。。


異文化コミュニケーションはこれだからやめられない。

 

 

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