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ある魔物使いの成長物語  作者: 剛田タケゾウ
子供編
3/8

ピクニック(2)

ルコ山を歩いていると、草をモグモグ食べているウサギを見つけた。


太陽が僕の頭の真上を照らし始めたくらいで目的地に着いた。


「おなかすいた~」


「お昼ご飯にしましょう」

母と僕は大きな平たい岩の上に座った。母はバスケットを開きお弁当を取り出した。


「サンドウィッチだ!!」

お弁当いっぱいに敷き詰められていた。ハムと野菜のサンド、ツナサンド、タマゴサンド、どれもとっても美味しそうだった。


「とっても良い眺めね」

母は少し先の崖から見える景色を見て言った。


ルコ山の周りには草原が広がり地平線には連峰があった。今日の良い天気のおかげで連峰は雪によって青空のようになっていた。


「ママ、あれはなぁに?」

僕は遠くに見えた灰色の四角を指差し言った。


「ユスティム王国を囲む大きな壁よ、中にはね、沢山の人が住んでいて大きな時計塔や綺麗な国立公園なんかあるのよ」


「ママはユスティム王国に行ったことがあるの?」


「あるわよ、昔パパとママはあの国に住んでいたもの」

母は微笑みながら言った。


「僕も行ってみたい!!」

僕はサンドウィッチを飲み込み元気に言った。


「わかったわわよ、大きくなったら一緒に四角の中に行きましょうね。」

母は少し気が乗らなそうな笑顔で答えた。


サンドウィッチを食べ終ると。

お昼ご飯の後は母を連れてルコ山を歩いた。


ルコ山でよく遊んでいた僕は面白い場所を沢山知っていた。

誰かが修行してそうな滝、尖った岩が針山のようになっているところ、綺麗な石が落ちている小川、壁一面宝石のような結晶で輝いている洞窟


僕は自慢げに母を案内した。


「色んなところを知っていて、カケルは凄いわね」


「うん!!」


僕は嬉しくなり大きく頷きながら言った。


母と歩き回っているうちに日が落ち始めてきた。


「もう、夕方だわお家に帰りましょう」

僕は笑顔で深く頷いた。


来た道を戻っていると何かの鳴き声が聞こえた。


「ワンワン」


僕と母は山道から少し逸れ、声のする方にゆっくりと近づいた。


声が大きくなってきたところで急に母は僕の口を塞ぎ茂みに隠れた。母は、驚いた顔をしている僕に向かって口の前に人差し指を立てたジェスチャーをした。意味を理解した僕は喋らなかった。


そっと声のする方を見ると、そこにはかなり弱っている犬とフード付きのマントを羽織った二人組がいた。

二人組のうちの一人が


「この、くそ犬め」


「この俺様に噛みつきやがって、今の俺はもの凄く気分が悪いんだ、なぶり殺してやる」

フード男が召喚したゴーレムに犬殴りつけるよう命令していた。


何度も殴られただろう犬は傷だらけになっていた。


『助けなくちゃ』


今にも飛び出しそうな僕を母は手でとめた。僕は不思議そうに母の顔を見た。母は深刻そうな顔をして僕を見つめていた。


「ワンワン、ワン」


犬はフード男を睨み付け吠えた。


「しぶとい犬め、この一撃で二度と吠えられなくしてやる」


フード男はゴーレムに手を向けた。ゴーレムは男から力を得たように大きく手を振り上げた。傷だらけの犬はゴーレムの攻撃を避けようと動こうとしていたが、足をけがし動けなかった。


犬が殴られそうなのを見ていられなかった僕は目塞いだ。


次の瞬間

『ドッカァーーーーーーーン』という音は



聞こえなかった


代わりに聞こえたのは。


『ガオーーーーーーン』


何かの咆哮だった。


目を開け犬の方を見ると、大きな純白のオオカミが立っていた。僕はその凜々しさに圧倒されていた。


「な、なな、なんでこんなところにレオ・ウルフなんているんだよ、兄貴」


「知らねえよそんなこと、自分で考えろやバカが」


『ガオーーーーーン』


再びレオ・ウルフが叫ぶと。


「あいつはヤバイ、はやく、ここから逃げるぞ」


「ウッス、兄貴」


「フライ」

男たちは呪文を唱えどこかに飛んで行ってしまった。


飛び去った男たちが見えなくなるまでレオ・ウルフは空を睨み付けていた。


「バキッ」


『やってしまった』 圧倒されていた僕は小枝を踏みつけた。

レオ・ウルフはこちらに振り向いたが、すぐにどこかに去って行った。


僕と母は茂みから飛び出し横たわる犬に駆け寄った。


「ハイキュアー」

母すぐに呪文を唱えた。呪文をかけられた犬はピクリともしなかった。


「もう、死んでしまっているわ」


僕は目の前で助けられた命が消えたことに泣きそうになった。


「お墓を作ってあげましょ」

母は僕を強く抱きしめた。


「うん」

今にも泣きそうに小さく頷いた。


母と僕が穴を掘っていたとき。


「ワンワン、ワンワン」


茂みから小さな何かが飛び出し、犬の死体めがけて走って行った。


「ワンワン、ワン」


声のする方を見ると、そこには子犬が死んだ犬に向って吠えていた。

吠えている子犬は大きさは違うが柄は死んだ犬そっくりだった。


子犬の泣き叫ぶ声を聞き、僕は無意識のうちに子犬に近づいていた。


「ワンワン、ワンワン、ガァルゥゥゥー」

子犬の目の前まで行き、しゃがんで手を広げた。


「怖くないよ、こっちにおいで」優しい声でいった。


「ガブッ」


僕は噛まれた痛みを忘れたように子犬を優しく抱きかかえた。


「ガブッ、ガブッ」


「怖くない、怖くない」

ゆっくりと撫でた。


子犬はしばらくすると大人しくなった。


穴を掘り終え、母は犬の死体を優しく抱き上げ穴に埋めた。

ルコ山に生えていた青い花をお墓の上に供えた。


子犬を降ろし、犬の冥福を祈った。


「ワゥ~~~~」子犬は泣いた。


祈り終えた僕と母は元の山道に戻るよう歩き始めた。


「ワン、ワンワンワン」

子犬が僕めがけ走ってきた。


「親の元にお帰り」

立ち止まり子犬を撫でてやった。


再び歩き始めると


「ワンワン、ワンワン」

追いかけてきた。


「一緒に行きたいの?」


「ワン!!」

子犬を抱きかかえ僕は母を見た。


「いいわよ、連れて行っても」


「ありがとう、ママ」


辺りが真っ暗になるとともに家に着いた。


「すっかりカケルに懐いたわね」


道中子犬は僕に抱きかかえられながら眠っていた。


「ここで寝ててね」

家に入りふかふかなクッションの上に寝かせた。


「ワゥ~~」

子犬はすやすや眠っていた。


「カケルこっちに来てちょうだい」


「噛まれたところを見せて」

噛まれた左手を母に見せた。


「あら、どういう事かしら?}


「傷口が綺麗に塞がっているわ」


左手を見ると噛まれたのが嘘のようになんとも無かった。


「痛くはない?」


「痛くないよ」

母は左手を摩ってくれた。


僕と母は夕食を食べた。

夕食の後すぐに僕は深い眠りに就いた。


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