ピクニック(1)
ある朝、僕はまぶしい日差しに起こされ目をこすりながらベッドを出た。
「おはよう、カケル」
母は朝ご飯を作っていた。
「おはよう、ママ」
「カケル、もうすぐご飯できあがるから、顔を洗っておいで」
僕は黙って頷き外に出た。外にある手押しポンプの井戸から水を汲み、桶にためて顔を洗った。目がパッチリ開いたと共に涼しい風が頬を撫でた。空を見る青空が広がっていた。少し眺めたあと家に戻った。
朝ご飯はパンとベーコン目玉焼きだった。
「今日はいい天気ね、ルコ山にピクニックでも行こうかしら」
僕その言葉に嬉しくなった。
僕の家は牛や羊や鶏などの家畜を飼っていた。母は一人でその家畜の世話をしていた。父は僕が生まれてすぐに亡くなって、僕の物心がついた時にはいなかった。僕も家畜の世話を手伝うときがあった。
けれど、いつも母は笑顔で
「子供なんだから山や川に遊びに行ってもいいのよ」と言ってくれた。
僕はいつも山で虫を追っかけたり川で釣りをしているおじいさんと一緒に釣りをして釣った魚を母に持っていたりしていた。
「やったぁー」
僕は元気良く返事し、最後にとっておいたベーコンを急いで食べた。
母は僕の元気な返事を聞き微笑んだ。
「お昼のお弁当をつくるから完成したら出発しましょう」
僕は笑顔で頷いた。
母は朝ご飯が終わると弁当を作り始めた。
「もう、お弁当できた?」
「もう少しよ、カケル」
母は笑顔で答えていた。
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「弁当出来た?」
「出来たわよ」
僕はその言葉を聞きウキウキした。
「さあ、行きましょう」
「うん!!」
母は出来上がった弁当をバスケットに入れた。僕と母はピクニックに出発した。
家の周りの草原を歩いていると、少しずつ木が現れてきた。
ルコ山の麓には山の上から流れる川の水が溜まって出来た湖がある。
「カケル、一旦この湖で休憩しましょう」
「うん!!」
ピクニックが嬉しくて僕は疲れを感じなかったが家からは大分離れていた。
母は大きな木の近くにバスケットを置くとその木に寄りかかるように座った。
僕も少し木に寄りかかり休んだ。
嬉しさで、じっとしていられなかった僕は湖を見に行くことにした。
「湖に行っていい?」
「いいわよ、でも気をつけてね」
僕は立ち上がり湖に近づいた。
湖には色々な生き物が住んでいた。大きな魚や群れを成す小魚。僕は一匹の真っ赤な魚を見つけ、その魚を追いかけるように湖の周りを走っていた。
しばらく夢中で追いかけていたが真っ赤な魚はどこかにいってしまった。注意深く眺めてみたがやはり見つからなかった。
夢中で追いかけていた僕は母からかなり離れていた。母のところに戻ろうと走って向かっていると、太陽の光を反射して眩しく光るモノが湖の中に見えた。
『何だろう?』と思いながら光るモノに近づいてみた。
よく見ると、七色に光る魚だった。ゆらゆらとしたヒレを動かし優雅に湖の中を泳いでいた。僕は凄いモノを発見した気持ちになった。
「ママーーー」
僕は大きな声を出しながら、さっきの走りよりも速く母のところに向かった。
「どうしたの?湖に面白いモノでもいたの?」
母は無我夢中で走ってきたカケルに不思議そうに訊いた。
「ママ、湖にキラキラしたお魚がいたんだ!!」
「それは凄いわね、どこに居たんだい?」
「あっちー」
僕は七色の魚がいた方を指さした。
「私も見てみたいわ、連れて行ってくれるかしら」
母はゆっくりと立ち上がった。僕は母の手を引いて早足で七色の魚を見たところに向かった。
七色の魚を見たところに着くと、七色の魚はいなくそこには一度見失った真っ赤な魚が泳いでいた。
「わぁ~綺麗なお魚ね」
真っ赤な魚を見て母は言った。
「本当にキラキラしたお魚さんがいたんだよ」
「もしかすると、キラキラしたお魚さんはこの湖ヌシなのかもしれないわね」
「また見られるわよ」
母は落ち込んでいる僕の頭を撫でた。
「ほら、見て綺麗な青色のお魚さんがいるわ」
「あそこには黄色いカニさん」
僕は母の指さすところを見た。
「ホントだぁー」
珍しい色の魚やカニを見て僕はワクワクした。
その後、母と一緒に色とりどりの生き物を見ながら湖を一周し、バスケットの置いてある木まで戻ってきた。
「さあ、山に登ってお弁当を食べましょう」
「うん!!」
元気よく返事した。
僕と母は手をつなぎ再び歩き始めた。