96.再会
「インヴァズィオーンが起こる可能性があると言うなら、我々が最初にやるべきなのは錆落としではないか?」
とオルドヴィーンは言う。
ゼルギウスも小さくうなずいて賛同する。
「同感。我は冒険者やっていた。しかし、一級冒険者として。八神輝の力は久しく使っていない」
「儂も同じだ。この間ヴィルヘミーナにちょいと付き合ってもらったが、それだけだな」
ユルゲンの言葉にふたりはぴくりと肩を震わせた。
「ヴィルヘミーナか……あまりいい評判を聞かないエルフ。どうだった?」
ゼルギウスの問いにユルゲンは笑う。
「あのエルフは扱い方を間違えぬかぎり、我らが祖国の脅威にはなりえぬ。心配するなら、正しく扱えぬ馬鹿が出てくる可能性だろう」
「お前が言うならそうなのだろうな」
オルドヴィーンはそう言い、ゼルギウスはむっつりとうなずく。
彼らのユルゲンに対する信頼は確かなものだ。
「錆落としに付き合ってくれそうな者について心当たりは?」
オルドヴィーンの問いにユルゲンは即答する。
「貴様らさえよければ、バルトロメウスの奴に頼もうと思うのだが?」
彼の発言にふたりは一瞬詰まった。
バルは彼の弟子であり、彼にとって一番頼みやすい相手なのは理解できる。
そして彼が確認を取ろうとした理由も彼らには痛いほど分かった。
「分かった。かまわない」
ゼルギウスは感情のこもらぬ声で返事する。
「私もいい。どれだけ錆付いたか、あ奴で確かめてくれよう」
オルドヴィーンは強がっているような調子で言い、加齢で薄くなった胸を張った。
ユルゲンはゆっくりうなずき、魔術具を使ってバルを呼び出す。
数秒後、彼らのいる場所にバルとミーナがやってきた。
エルフが転移魔術でバルを運んできたのは、いちいち確認する必要はない。
「久しいな、バルトメウスよ」
オルドヴィーンが声をかけると、バルは黒い仮面をとって懐かしそうにあいさつをする。
「お久しぶりです。暴風帝オルドヴィーン様」
たちまち老人の顔が羞恥でしわくちゃになった。
「止めろ、バルトロメウス。もう私は引退した身なのだ」
「失礼しました」
バルは謝ってから笑いかける。
「しかし、復帰なさる以上、勇名はついて回ると思いますが」
「嫌なことを考えさせないでくれ。亡き妻にも散々からかわれたのだ」
オルドヴィーンはしわが目立つ手を己の額に当ててうつむく。
それを見て彼は人の悪い笑みを浮かべ、次にゼルギウスに話しかける。
「ゼルギウス様もお久しぶりです」
「ああ。お互い老けたな」
ゼルギウスは懐かしそう目を細めた。
最後に師匠に目を向けてバルは問いを発する。
「本当にこのメンバーで手合わせをするのですか?」
「ああ。だからこそお前を呼んだのだ。老い衰えたとは言え、儂らと三対一で戦えそうな者はお前しか考えられない」
ユルゲンが打ち明けた理由に彼は納得した。
一対一で今のユルゲンたちと戦うのは、八神輝全員ができるだろう。
しかし、三対一となれば彼とヴィルヘミーナしか不可能だ。
「ミーナもたぶんできますが、その場合戦いの余波を防げる者がいなくなりますからね」
だからこそバルはミーナを連れてきたのである。
ユルゲンにしても彼が最強であってもあまり器用ではないことをよく知っていた。
「お前を呼べばヴィルヘミーナを連れてくると思った。予想通りだったな」
彼の性格もユルゲンはお見通しというわけである。
「さすが師匠です」
「ふん、だてに三十年も付き合っておらぬということだな」
バルのもちあげには冷淡に鼻を鳴らして応じた。
「場所はどうしましょうか? アカデミーの生徒たちにも見せますか?」
彼はおべっか嫌いの師匠の性格を熟知しているため、その対応に傷つくことなく次の問いを投げる。
「場所は隔離結界を作ってもらいたい。ヴィルヘミーナ、できるか?」
「ええ」
ユルゲンからの確認にミーナは即答した。
それに満足したユルゲンは次の問いに答える。
「戦いは誰かに見せる必要はない。お前ひとりが飛びぬけて強いという事実、いちいち広める必要はないだろう」
「分かりました」
師匠の配慮にバルは感謝しつつ返事した。




