92.殲滅の弓鬼
「かかれっ!」
ミルヒの号令を受けてオーガたちは咆哮する。
すぐに突っ込んでこなかったのは、オーガロード、オークプリーストたちがいっせいに魔術を唱え始めているからだろう。
八百ほどはいる者たちが一糸乱れずに同時にある魔術を発動させる。
「火炎弾!」
火炎弾は決して難易度が高い魔術ではないし、威力がずば抜けているわけでもない。
しかしながら、オーガロード、オークプリーストという恵まれた魔力を持った魔物たちが放ったものが八百ともなれば別だった。
(なるほど、これだけでも城塞都市は大打撃だっただろうな)
ギーゼルヘールは納得する。
身体能力が高く魔力も多いオーガの群れがいっせいに魔術を使ってくるとなれば、帝国の騎士団に匹敵する戦力だ。
脅威が成長するまで放置していた点はともかく、城塞都市が攻め落とされたのはやむを得ないことだったと判断する。
そして彼はひと呼吸で八百の火炎弾を相殺した。
「……何、だと?」
あまりにも早すぎたため、ミルヒたちには突然火炎弾が消えたようにしか思えなかったのである。
何が起こったのか理解しようと必死になるミルヒたちに、ギーゼルヘールは憐憫の視線を向けた。
「俺は確かに八神輝最弱だ。しかし、それはお前たちより弱いという意味ではないぞ?」
彼はあくまでも八神輝という規格外の化け物たちの中で一番弱いだけに過ぎない。
まだ理解が追いつかない敵たちに、ギーゼルヘールは待ってやる義理を感じず弓をかまえる。
「啼け、ミストルティーン。愚者に滅びの旋律を届けよ」
魔力を幾千の矢と変化させて放った。
「殲滅雨」
それらは雨の如くオーガたちに降り注ぐ。
オーガたちは武器や両腕で防ごうとした。
しかし、オークジェネラルが持つ武器ごと矢は貫通し、絶命させる。
オーガロードやオークプリーストが持っていた杖は一撃でへし折られ、矢は持ち主の頭を吹き飛ばす。
キング・ミルヒは両手剣をかざして頭をかばったが、矢は剣を貫通し、兜を砕き、彼の胸部を貫通してしまう。
「ば、馬鹿な……魔力矢の一撃が……なんと、いう……」
聖国において魔物の都市を築いていたキングの最後の言葉がそれだった。
ギーゼルヘールが放った矢は豪雨の如く、城塞都市トーリアの中にも降り注ぎ、巣食っていた魔物どもは逃げることすらできず絶命していく。
彼が「殲滅の弓鬼」と呼ばれる理由である。
ほとんどの者は彼が打ち出す魔力矢を防ぐこともできず、逃げることさえできず、殲滅されるしかないのだ。
「燃えろ」
ギーゼルヘールが命令すると、残っていた矢が発火して一気に燃え出す。
オーガたちの死体をそのままにしておくと、別の魔物をおびき寄せたり、深刻な病気の発生源になったりしてしまう危険がある。
焼き尽くすのが簡単で確実な手段だ。
もっとも後では雨を降らせて火を消す必要があるだろうが、魔力矢ならば大して難しくはない。
このように融通が利き、多様性があるのが魔力矢の優れている点だ。
(もしかすると陛下は予想していらっしゃったのかな)
と彼は思う。
敵を殲滅するだけであれば、ギーゼルヘールよりも適任な者は何名かいるし、筆頭はバルである。
だが、柔軟な対応力を持っている者と言われた場合は、彼かヴィルヘミーナ、シドーニエあたりになるだろう。
この中で彼が今回の任務に選ばれたのは、皇帝はある程度読んでいたのではないかと疑うなというほうが無理だ。
何しろ敵の襲撃をピンポイントで的中させた実績の持ち主なのだから。
「バルトロメウスは最強ではあるが、万能ではないからな」
とギーゼルヘールはひとりつぶやく。
最強のバルトロメウスが苦手とする部分は他の八神輝が補えばよい。
その代わり、他のメンバーが手に負えない事態をバルトロメウスが解決する。
それでいいだろうと思うのだ。




