86.すごいところ
お茶会の話題は服の流行から始まり、貴族各家の権力バランスなどに入る。
しゃべるのはもっぱらベアーテ皇女で、八神輝たちは黙って話を聞く役に徹していた。
「権力に気にするお馬鹿さんの多さはどうしようもありませんわね」
やがてシドーニエが呆れて感想を述べる。
「シドーニエもそう思う?」
ベアーテは仲間を見つけた喜びに瞳を輝かせた。
「もちろんですわ」
シドーニエは一も二もなく同意する。
「どの家がどの権力を手に入れたと言っても、それは個人の能力や時代の趨勢の影響が強く、その子孫が誇るべきではありませんわ。ましてや自分の力だと勘違いするだなんて、つける薬がございませんわね」
家を興したり大きくしたりした個人の能力や実績を、後を継いだだけの輩が自分のものだと錯覚している貴族たちは少なからずいた。
「帝国ではまだマシらしいのよね」
ベアーテは嘆息する。
偉大な先祖を持ったおかげで今の自分があると自覚する貴族は、帝国においては少なくはない。
「西の王国ではひどいみたいですわね」
シドーニエも賛同した。
帝国の情報収集能力は決して高くないが、同じ大陸のライバル的存在の王国に関しては別である。
王国とつきあいきれなくなった商人や芸人たちが、帝国に流れてくることはしばしばあった。
「まともな貴族が多いなんて帝国はいい国だ」
と感想をこぼす者が大半だという。
一方で「帝国だって似たようなものだ」と失望する者の存在も否定はできない。
「完璧な国なんてあるわけがないですよ」
バルはそう言って肩をすくめた。
「住みやすい理由、住みにくい事情は個人差があるでしょうしね」
シドーニエはお茶を飲みながらつぶやく。
「人間は面倒だな」
ミーナは一言それらしいことを言っただけにとどまる。
「エルフの話を聞いてみたいわ」
そんな彼女にベアーテが食いついた。
「話す義理はない」
ミーナは一言で皇女の要望を切って捨てる。
相手や場所によっては騒ぎになりそうな態度だが、彼女は一向に気にしない。
ベアーテもそういう性格の彼女だからこそ仲良くしたいと思っているため、懲りもせずに粘る。
「そう言わずに。簡単な話でもいいから」
「断る」
皇女の懇願をミーナはさっきよりも短い言葉で拒否した。
シドーニエは「頼む相手が悪い」という顔をするだけで、助け船を出そうとはしない。
バルのほうはと言うと、見かねた様子で割って入る。
「ミーナ。簡単なものでいいから、少しは話題を提供してくれ」
「……はい」
彼に頼まれたミーナはしぶしぶ返事をして、ベアーテに聞いた。
「どんな話がいい?」
「えーとね、じゃあエルフの文化について聞きたいわ! 実はお肉を普通に聞いてびっくりしたもの」
意外とまともな回答だなとバルとシドーニエとミーナは感じたが、誰もあえて言葉にしない。
「エルフの文化か……じゃあ人間たちのイメージとは実際に違う点を話そうか」
「聞きたい!」
ベアーテは手を叩いて叫び、ゼンダに「殿下、はしたのうございます」とたしなめる。
皇女は無視を決め込もうとしたものの、侍女は彼女の正面に回り込んでもう一度注意した。
「わ、分かったわよ」
フリーダムな皇女も母ほど離れた歴戦の猛者の貫禄に屈する。
(すごいところを見た)
ベアーテが自分から折れる形で誰かの注意を聞き入れるところを初めて見たバルは、思わずゼンダに拍手を送りそうになった。
「いいか?」
ミーナは空気を無視するように皇女に尋ねる。
「人間が意外に思いそうなことと言えば、植物から紙や繊維を作っていることだろう」
「えっ? エルフがそんなことをするの?」
皇女のみならずシドーニエ、そして空気となっていた侍女たちも目をみはった。
バルも初めてミーナから聞かされた時は彼女たちと全く同じ反応をしたものである。
「理想的な環境を保つために間引くことがある。放置しておくと害になりそうな植物を排除することもある。実のところ人間たちとそこまで変わらない。ただ、素材ほしさに森を切り開くことはないし、除いたものでも利用できそうなものは利用しているという点は違うかな」
「そうなんだ……」
「その点はさすがエルフと言うべきかもしれませんわね」
ベアーテ、シドーニエは大いに感心していた。




