84.帝国が抱える課題
八神輝の力を思い知らされた一同は、アカデミー用に用意された城の西の一区画に移動し、そこで簡単な入学式が行われた。
しかし、その場にバルとミーナの姿はない。
入学式に立ち会う必要はないとユルゲンの判断で、彼らはありがたく甘えた。
「将来は有望でも、現段階ではまだヒナにすぎないといった感じでしたね、バル様」
城内をゆっくり歩くバルに隣からミーナが話しかける。
「せいぜい二十歳前後だろうからな。実力者になるにはたっぷりの経験が必要だろう。そして八神輝や宰相、将軍、魔術長官になれそうな者はすでに頭角を現してそうな年齢だ」
「将軍や魔術長官になれそうな者は、見られませんでしたね」
彼女は軽く探りを入れて、一期生たちの大まかな力量を把握してしまったのだ。
「まあ彼らも本来そうそう出てくるレベルじゃないからね。……帝国が抱える課題はまさにそこにあると思う」
とバルはため息をつく。
彼が言う帝国の課題とは、一部の人材は傑出しているものの、それゆえに代わりとなれる後継者を見つけるのが大変だということだ。
「八神輝の世代交代はスムーズにいったようでしたが?」
ミーナは疑問を口にする。
彼女が知っているかぎりでは、最も集めるのが大変そうな八神輝はすんなり八名揃ったのだ。
バルは苦笑し、彼女が忘れている点を指摘する。
「お前がいなければ七名しかいなくて、誰かが引退できなかったよ」
「ああ、そうでしたね」
ミーナは恥ずかしそうに照れ笑いを浮かべた。
彼女が八神輝に登用されたのは、何も強いというだけではなかったのである。
もしも他にふさわしい実力者がいれば、選ばれていた可能性は非常に低かっただろう。
「もう一度言うが、ふさわしい人材がいてみなに認められれば、引退できるぞ」
バルはかつてスカウトした時に彼女に言ったことをくり返す。
「お気遣いいただかなくても大丈夫ですよ。私に不満はありません」
彼女は笑顔で答えて、たまたまそれを目撃した侍女の意識を奪った。
外見は類まれなる美貌なのである。
性格が知れ渡ってしまったから求愛してくる男性は皆無だが、まだ知っている者がいなかった頃は山のような申し込みが来たものだ。
「もっとも他の者どもはどうなのか知りませんけど」
彼女はお茶目な言い方で毒を吐く。
バル以外に対して辛らつなのは決して変わりそうもなかった。
「みな、内心認めているさ。一対一で勝ち目がうすいから何もしない、なんて八神輝はおとなしい奴らはめったにいない」
彼は仲間たちをそう評価する。
彼女の態度に何も言わないのが不満だったとかつてクロードに語ったが、言いたくても言えなかったのはおそらくクロードを含めて二、三名くらいだろう。
シドーニエは皇帝の正式な命令や国家の決定には従うものの、皇帝個人に対しては批判的だ。
マヌエルは忠誠心がないわけではないが、命懸けで皇帝のために戦うかはバルでなくても疑問である。
さすがに最強クラスの存在が八名もいれば、全員忠誠心の塊とはいかなかった。
「最近ようやくですが、そのあたりは分かった気がします」
ミーナも彼の意見を認める。
彼らは城の外に出て太陽の光を浴びたところで、ばったりとベアーテ皇女とシドーニエというふたりにでくわした。
「あら、バルにヴィルへミーナ。アカデミーはもういいの?」
ちゃんと知っていることを皇女は示す。
「はい。我々がいてもやることはないと、わが師ユルゲンに許可を得ました」
軽く頭を下げるだけの略礼をしただけのバルとミーナだったが、ベアーテは腹を立てたりしない。
「じゃあよかったらお茶でもしない? ついさっきシドーニエを偶然捕まえたところなの」
バルが軽く目をみはり、捕まったシドーニエを見ると彼女はにこりと微笑む。
どうやらシドーニエはベアーテ皇女とは仲よくするつもりでいるらしい。
「お招きにあずかりありがとうございます。参加いたします」
本当ならば皇女にこのような言い方は褒められたものではない。
しかし、変わり者で有名なベアーテはむしろ喜ぶのだ。
「やったわ。ヴィルへミーナはどう?」
「行きます」
バルが来るならば来るだろうと彼女もシドーニエも予想した通りの返事がミーナの口から出る。




