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81.玉座を継ぐために

「アカデミーの最高責任者、私がやるのですか?」


 アドリアンは皇帝の発言に目を見開いた。


「お前には次期皇帝にふさわしい実績が必要だ。アカデミーはちょうどよい」


 皇帝がこの時期にアカデミー創設を急いだ理由のひとつが明らかになる。

 皇太子が皇帝になる前に経験を積ませ、周囲にアピールだけの実績を獲得させるという手法は、古来大陸各地で見られたものだ。

 そして現皇帝も皇太子時代に同じようなことをやっている。


「それに成功すれば将来の帝国を支える人材の忠誠が、お前に向けられることになる。これは将来玉座に座る者にとって大きな財産となる」


 父の言葉を真剣に聞いていたアドリアンは合点が言ったとばかりに、何度もうなずく。


「それはぜひとも成功させなければなりませんね」


「失敗した時のリスクは大きいぞ。後継者問題が再燃するだろう」


 皇帝は息子に忠告する。

 国費を投じて始められた新事業が失敗すれば、当然皇太子の責任が問われるだろう。

 リュディガー皇子の支持貴族たちはここぞとばかりに騒ぎ立てるに違いない。


「バルトロメウスもお前が能無しだと分かれば、もう擁護してくれまい」


 バルは平民を保護してくれる皇帝の誕生を期待しているのであり、保護できる能力がない者の味方をする理由がなかった。

 他の皇族もバルを味方に引き入れるために手を尽くすだろう。


「はい、父上」


 アドリアンの表情には緊張が満ちていたものの、声には気負いがなかった。

 

「宰相を補佐としてつけよう。それにアカデミーの長には信頼できる者についてもらう。彼らの助けを借り、見事成功させよ」


「ご命令、謹んで承ります」


 アドリアンは拝礼し、臣下として命令を受ける。

 皇帝の右脇で聞いていた宰相アーロイスが口を開く。


「皇太子殿下、アカデミーの長になる者の名はユルゲンです。殿下もご存じでしょう」


「破壊神ユルゲンの名前は何回聞いたのか、とても数え切れぬ。あのユルゲンが引き受けてくれたのか」


 アドリアンの頬は喜びと興奮で軽く紅潮している。

 

「実はすでに呼んでいる。通せ」


 皇帝の言葉に近侍が退出し、青い礼服に身を包んだ男を連れてきた。


「お久しぶりにございます、陛下」


「ああ。懐かしいな、ユルゲンよ」


 入ってきたユルゲンはまず皇帝にあいさつをし、それから皇太子のほうを向く。


「皇太子殿下とは何回かお会いしたことがあるのですが、覚えていらっしゃいますかな?」


 ユルゲンの言葉に、アドリアンは懐かしそうな顔をする。


「ああ。礼儀正しいが、決して媚びない剛毅の強者という記憶だ。今もその点は変わらないようだな」

 

 年長者に傅かれ、または平伏されることに慣れ切っていた彼にとって、ユルゲンの態度は新鮮で強烈だった。

 

「皇帝陛下にはユルゲンのごとき者の忠誠を勝ち取れてこそ、皇帝の威徳というものだと教わったものだ」


 権威に平伏する小人ではいざという時、頼むに足りないとも教わったのだが、これはあえて口にしない。

 

「もったいないお言葉」


 ユルゲンは頭を下げて答えたものの、ただの礼儀だということはアドリアンにも分かる。


「オルトヴィーンとゼルギウスのふたりの姿が見当たらないのですが」


 頭を上げたユルゲンが皇帝に発言した。


「あのふたりは遅れそうだ。今は国境にいてな」


 オルトヴィーンもゼルギウスも転移魔術くらいたしなむため、国境にいることが遅刻する理由にはならない。

 つまり別の理由があるし、本人の知らないところで明かしたくはないということだとユルゲンは解釈する。

 皇帝がユルゲンや皇太子に明かす分には問題にならないはずだ。

 それをしないのは皇帝が「臆病者」にふさわしく彼らに配慮しているからだろう。

 

「講義には間に合うだろう。幸い、最初は座学だしな」


「分かりました」


 皇帝に言われてしまうと、アドリアンは受け入れるしかない。

 

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こちら新作になります。よろしければ下記タイトルからどうぞ↓

『神速詠唱の最強賢者《マジックマスター》』

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