80.アカデミーの第一期組
アカデミーの選抜試験でふるいにかけられた者たちが、帝国全土から帝都に集結した。
ボニファーツとエルハイトもそうだ。
ボニファーツは農家の次男坊に生まれ、他の同世代の子どもとは違って学問に興味を持つ。
近くの町の店で奉公しながら学問に励み、その土地の代官に計算能力を認められて推挙され、見事合格通知を受け取った。
エルハイトは小さな町の職人の末っ子として生まれ、徴兵されたところで戦士としての適性を見出され、第四騎士団「フィーアグラオ」に入る。
そしてその中で頭角を現して、騎士団総長の推挙で試験に臨み合格を果たした。
彼らは年が近そうなことからボニファーツから声をかけ、互いの経歴を打ち明けあい、意気投合したところである。
彼ら二十名は帝城の前で時間が来るのを待っていた。
「意外と平民出身もいるんだね。僕だけかと思っていたよ」
ボニファーツが水色の瞳を丸くしながら言うと、エルハイトは大きくうなずく。
「そうなんだよ。皇帝陛下は平民も取り立てるお考えの持ち主なんだ。八神輝ですら平民出身がいるらしい。総長がそうおっしゃっていたよ」
「ああ、光の戦神バルトロメウス様と紅雨のマヌエル様?」
ボニファーツは即座にふたりの名前を口にする。
このふたりは平民出身の八神輝だと有名だった。
「ひとりで帝国騎士団丸ごとと戦えるって評判だけど、本当なのかい? あ、気を悪くしたらごめんね」
ボニファーツはそう言う。
騎士団に所属している身であればあるいは不快に思うかもしれないと、口にしてから気づいたのだ。
しかし、エルハイトは笑って首を横に振る。
「事実だから怒りようがないよ。バルトロメウス様なんか、帝国騎士団の全戦力より強いってうわさまであるくらいだから」
「うへえ……いくら何でもそれはないと思うけど」
ボニファーツは顔をしかめた。
帝国騎士団はエリートでなければ入団すらできない精鋭である。
騎士団全ての戦力と言えば二万人くらいにはなるし、支給されている魔術具も計算に入るはずだ。
たったひとりの人間がそれらを凌駕すると言われても、とてもではないが信じられるものではなかった。
実はボニファーツのような反応はそこまで珍しくない。
バルトロメウスが最強だという点を疑う者はほとんどいないが、「どれだけ強いのか」という点に関しては評価が分かれている。
大半の者は「バルトロメウスは普段リミッターをつけている」ことを知らないせいでもあるのだが。
「八神輝はそれくらいすごいってことは覚えておくべきだよ」
「う、うん」
エルハイトの善意の忠告をボニファーツはかみしめる。
平凡な人間に過ぎなかった彼にとって急には受け入れがたいものの、現役騎士が言うことなのだから完全にデタラメというわけでもないはずだ。
そう自分自身に言い聞かせる。
「騎士団の人は他にも来ているのかな?」
ボニファーツの問いにエルハイトはうなずいて答えた。
「僕が見たところ七人くらいいるね。ほら、騎士に下賜されるこの銀色の剣を下げている人がそうだろう」
彼はそう言って腰からぶら下げている銀色の鞘を軽く叩く。
ボニファーツがこっそり観察してみると、確かに同じような鞘を腰から下げている若者が七名いる。
「顔見知りはいるのかい?」
彼の問いにエルハイトは首を横に振る。
「残念ながらひとりもいないね。まだ下っ端だから、同じフィーアグラオにしか知り合いはいないんだ。上にいけば他の騎士団との交流も生まれるようだけど」
「選抜試験に合格したくらいなのに、まあ下っ端なんだ」
ボニファーツがついつい言ってしまうと、エルハイトは苦笑した。
「手柄を立てる機会はあまりないからね。連日の魔物襲撃事件も、結局僕らは出動しなかったし。まあ、僕らの出番なんてないほうがいいんだけどさ。平和の証なんだから」
いかにも騎士のお手本と言うべき発言だったが、彼の場合本心だとボニファーツには分かる。
(いい奴だな。こういう奴に出世してほしいものだが)
やはり難しいのだろうなと思う。
どれだけ人柄がよくて実力があっても、手柄を立てる機会がないのでは平民が昇進するのは難しい。
帝国と言えど、例外ではないはずだ。
あちらこちらから聞こえてきた雑談の声が不意にぴたりと止まる。
理由はとても簡単で、城の門が開いて影が出てきたからだ。
ユルゲン、イングウェイとマヌエル、クロード、バル、ミーナも続いて姿を見せる。
全員の顔を知っている者はひとりもおらず、「貴人だろうけどいったい誰だ?」という表情になった。




