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69.アカデミー選抜試験に向けて

 アカデミーの生徒候補として募集されたメンバーの経歴は意外と種類が豊富である。

 現役の宮廷書記官、騎士団の若手、父の下で領地経営を学んでいる貴公子、冒険者、あるいは街の財務官などだ。

 

「これだけの規模でやったら、アカデミーに関する情報が嫌でも出回るのではないかな」


 試験を出す側として仕事を割り振られた第一騎士団「アインスブラウ」の総長ゲーラルドは城内の執務室で疑問をつぶやく。

 それに答えたのが隣の席に座るヴァインベルガー将軍だ。


「かまわない。陛下は是が非でも成功させたいというお考えだし、今後我こそはと思う者に応募してきてもらいたいという狙いもある」


「目ぼしい者をただ探すだけではどうしても取りこぼしは出るでしょうからな。自分を売り込んでくる才能に期待したいのは分かるつもりです」


 ゲーラルドは皇帝の狙いを察する。


「しかし、試験官はどうするのですか? 我々だけでは手が足りないと思いますが」


 彼の問いにヴァインベルガーは複雑そうな顔で答えた。


「オルトヴィーン様、ユルゲン様、ゼルギウス様に依頼するそうだ」


「なっ……元八神輝を召集するのですかっ?」


 ゲーラルドが驚愕したのも無理はない。

 八神輝だった者たちは世代交代のあと、隠遁生活を送っている。

 将軍は肩をすくめた。


「元とは言え、現役の八神輝を除けば帝国最強クラスの実力者だからな。人手不足の現状ではうってつけと言える。むしろ他に選択肢がない」


「よく引き受けて下さいましたね」


 というのがヴァインベルガ―の説明を聞いたゲーラルドの感想だった。

 八神輝になるような者は程度の差はあれど、ワガママな性格であることが多い。

 在任中は真面目で誠実だったとしても、退任後もそうとは思えなかった。

 八名のうち三名しか召集できなかったことからうかがえる。


「何だかんだで祖国への愛情を持っている方が多いのだろうよ」


 だが、ヴァインベルガ―はあえてその点にはふれなかった。

 八名中三名が応じてくれたのであれば、充分成功だからである。

 高望みしてはいけないと思う。

 

「ヴァインベルガ―将軍よりもユルゲン様たちのほうがお強いのですか?」


 ゲーラルドは疑問に思っていたことを口にする。

 聞こうかどうか迷ったものの、結局言葉に出してしまった。

 ヴァインベルガ―は苦笑しつつうなずく。


「そうだ。私のほうが強ければ、私は八神輝になっていただろうさ」

 

 将軍も強くなければつけない地位なのだが、八神輝のほうが上である。

 それに元八神輝たちの中には現役の八神輝よりもまだ強い者だっているかもしれない。

 彼はそう思っていた。

 

「ユルゲン様あたりはたしかに今でも強そう……」


 ゲーラルドはひとりの男の名前を挙げる。

 ユルゲンは帝国におけるもうひとりの異能使いであり、バルトロメウスの師匠だった男だ。

 

「オルトヴィーン様、ゼルギウス様もな。ゼルギウス様は一級冒険者として行動しているらしい」


「ええっ? 冗談でしょう?」


 ヴァインベルガ―の発言を聞いたゲーラルドは目を剥き、大きな声をあげる。


「八神輝クラスが冒険者なんてやっていたら、一瞬で名前が広まるでしょうに」


「名前を変えて、力を隠しているからまだばれていないらしいぞ」


 ヴァインベルガ―は呆れまじりに言う。

 

「それでも分かるものなのでは?」


 ゲーラルドの疑問に彼はもう一度苦笑する。


「逆だ。ゼルギウス様に力を隠されたら、見抜ける者がほとんどいないのだ。八神輝なら見抜けるだろうが、気づかないフリをするだろうしな」


「なるほど……」


 将軍に説明されてゲーラルドは八神輝が力を隠すのも上手いことを思い出す。

 バルトロメウスに至っては何と九級冒険者としてやっているということも。

 彼が納得したところでヴァインベルガ―がにやりとして言った。


「そうそう、先代将軍のウーヴェ様もいらっしゃるそうだから覚悟しておけよ」


「げええっ」


 ゲーラルドは目を剥いて悲鳴のようなうめき声をあげる。

 そして慌てて口をふさぎ、己の失態を詫びた。


「失礼いたしました」


「何、気持ちは分かる」


 ヴァインベルガ―は憂うつそうな表情になって、部下の反応に理解を示す。

 彼らはおしゃべりを止めて仕事に集中した。

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『神速詠唱の最強賢者《マジックマスター》』

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