66.俊英アカデミー
ひとつ、将来有望な若手を集めてより高度で専門的な知識を学んでもらうための機関を設立する。
ひとつ、学ぶ若手は推薦と試験によって選出する。
ひとつ、見聞を広めるために国外に派遣したり、冒険者として暮らしてもらう。
このふたつを満たす機関を「帝国俊英アカデミー」と名付ける。
「というわけで、アカデミーの第一期の生徒たちには、そなたらの力を見せたいのだ」
定例会議で皇帝が言ったことに最初に応じたのはミーナだった。
「教師はどうします? 確保が難しいという理由で先延ばしにされていると思っていましたが」
「ある程度は揃った。元宮廷書記長、元政務官、元将軍、元八神輝といった面子だが」
皇帝の回答を聞いて八神輝は納得する。
かつて国家の最前線で働いていた文武のエリートたちをかき集めたのだろう。
八神輝にとっても懐かしい顔ぶれがいそうだ。
「ただし、人数が不足しているのは事実だ。よってアカデミーの初代生徒たちの数は絞らなければならない」
「それは分かりましたが、具体的な日程はまだなのですか?」
シドーニエが焦れたような表情でたずねる。
彼女にしてみれば話がなかなか進んでいないように感じられるのだ。
「そうだな。場所は帝城の一区画を提供するからよいが、人材は帝国全土から集めることになる。そのせいでどうしても時間はかかってしまうのだ」
帝国の国土は約1200万平方キロメートルで大陸一位を誇る。
帝都に戻る際は転移魔術の魔術具を使うにせよ、行くまでが大変だった。
「俺らが直接行けば早いけどよ、さすがに走り使いにされたくないしなあ」
マヌエルが両手を頭の後ろで組み、胸をそらしながらつぶやく。
高そうな背もたれがギシギシと悲鳴をあげるが、彼は意に介さない。
「同感ですわね」
シドーニエが彼に賛成する。
「うむ。そなたらには試験の結果が出た後で一度集まってもらいたい」
「誰がアカデミーの前で力を見せるのか、決めるのはいつですの? 私は遠慮させていただきたいのですけども」
皇帝に対してシドーニエははっきりと伝えた。
「できれば私も避けたいな」
「同じくです」
バルとミーナも彼女に続く。
この三名がこう言い出すことは皇帝も予期していたため、あっさりと了承する。
他の五名、クロード以外の四名を説得するのは難しくないという計算もあるからだ。
「仕方ない。クロードには頼もうと思っているが、他に出てもよいと思う者はいないか?」
「出てもいいですよ。頭でっかちどもが現実を突きつけられて腰を抜かすところを見てみたいですから」
マヌエルは予想されていた通り、乗り気な様子である。
理由についても彼らしい内容だった。
クロードは何か言いたそうな顔をしたものの、言葉にするのを控える。
ここで口に出してしまえばマヌエルとのもめごとに発展しかねないからだ。
「では私も出ましょうか」
とイングウェイが右手を挙げた。
「八神輝のうち三名も出てくれるなら十分と言えるな」
皇帝は満足そうに言う。
よく言えば後ひとりくらい欲しかったが、三名でもかまわない。
「詳細が決まったらおって連絡する。そのつもりでいてほしい」
皇帝が言えばバルが挙手をして発言許可を求める。
「何だ、バルトロメウス? 気が変わって出ようと思ったのか?」
彼が出てくれば百人力どころか千人力だ。
ところがバルは首を振って皇帝の勘違いを正す。
「いえ、参加はしませんがその場にいられたらと思いまして。将来要職に就く者たちと顔合わせしておくのも悪くないかと」
「ふむ。認めよう」
皇帝は迷うことなく許可を与える。
バルの要望を却下したところで、いずれは顔合わせをする必要があるのだ。
(それにその場にいればやる気になってくれるかもしれない)
という期待もあった。
「では私もその場に参加ということで」
ミーナがそのようなことを言い出したが、誰も驚かない。
「分かった。他に見に来たいという者はおらぬか?」
シドーニエら他三名は見学するつもりすらないようだった。




