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53.エルフの家庭料理

「お久しぶりです、ヴィルヘミーナ様。そしてあなた様がバルトロメウス様ですね。初めまして」


 エラの家族たちはとても温かく、子どもたちは興味津々といった面持ちでバルを歓迎してくれる。

 彼らがそろったところでエラと彼女の夫が手分けして料理を運ぶ。

 メニューはかぼちゃと緑の豆のスープ、タマネギとニンジン、ピーマンが入ったオムレツ、白い麦パン、それに黒豚のステーキだった。


「おや、豚肉?」


 ミーナが意外そうに眉を動かすと、エラが苦笑する。


「ヴィルヘミーナ様とバルトロメウス様がいらっしゃると分かっているのに、何もしないわけにはまいりませんよ。ささやかですがどうぞ」


「遠慮なくいただこう」


 バルが笑顔で言えばエラたちはうれしそうにうなずく。

 料理を食べる時はバルも仮面を取らなければならない。

 帝国とは基本的に交流がないエルフの国ということで、特に工夫することなく彼はただ素顔をさらす。


「……顔は普通なんだね」


「コラッ! 失礼だぞっ!」


 子どものひとりが正直な意見を言ってしまい、父親に叱られた。


「子どもは正直な生き物だから仕方ない」


 バルは笑って許したため、彼とエラは恐縮する。


「うん。美味いな。かぼちゃも豆も。野菜も新鮮だし、卵の甘くとろけた感じもいい」


 平凡な味覚しか持たないバルは、平凡な感想しか言えない。

 ただ、美味しそうに食べるだけでミーナとエラは満足である。

 食事が終わると子どもたちははしゃぎ回り、大人たちは食後のハーブ茶を楽しむ。


「ヴィルヘミーナ様は長に顔をお見せにならないのですか?」


 エラの夫の問いにミーナは鼻を鳴らして答える。


「必要あるまい。バルトロメウス様が会いたいとおっしゃるならともかく」

 

 冷淡な返答を聞いたバルはおやっと思う。

 クールな受け答えがミーナの標準ではあるが、感情がゼロではないため慣れてくればある程度は理解できる。

 彼女はどうやら彼と族長を会わせることを望んでいないらしい。


「無理に会う必要はないだろう。あなた方からバルトロメウスがよろしくと言っていたと伝えてもらえないだろうか? エルフの礼儀に反するのであれば別だが……」


「エルフの礼儀としては問題ありません」


 エラはにこやかに答えたものの、一瞬心を痛めているような表情を浮かべた。

  

「じゃあ止めておくか」


 彼が言ったところで家のドアがノックされる。

 エラが立ち上がって応対に出た。


「失礼。この家にバルトロメウス様がいらっしゃっていると聞いたのだが」


 男のよく通る声にミーナの眉がぴくりと動き、エラの夫が「あーあ」というように額に手を当てる。

 

「どうやらバルトロメウス様の名前は無視できなかったようですな」


 エラの父親が渋面で言う。 

 

「エルフの国にも私の名前は聞こえているのか」


 バルが目を丸くすると、エラの夫は苦笑する。


「ヴィルヘミーナ様に一対一で勝ったとなれば、いやでも我々の耳に届きますよ」


「その通り」

 

 よく通るの男の声が再び、今度は近くで聞こえたためバルとミーナは振り向く。

 困った顔のエラの前に立っているのは三十歳くらいの見た目の、金髪青眼の冷たい印象の男だ。

 緑の服の上に黒い外套をはおり、腰には短剣を差している。


「無礼だな、ヴェンデルヘルト」


「申し訳ございません、ヴィルヘミーナ様」


 ミーナの咎めにヴェンデルヘルトは頭を下げたが、どこか慇懃な印象は否定できない。


「我らが族長が何としてもバルトロメウス様にお目通りをと望んでおります」


 彼女にと言うよりはバルに聞かせているようである。


「分かった。お会いしよう」


 ミーナの体から冷たい殺気が漏れた瞬間、彼はすばやく言った。

 それから彼女に聞く。


「怒るくらいなら、私のことを言わなければよかったではないか?」


「族長には何も申しておりません。入国管理の者に伝えただけです」


 ミーナは若干バツが悪そうに応じる。

 彼女なりにエルフのルールを守ろうとした。

 入国管理の者の口の軽さが誤算だったのである。


「ヴィルヘミーナ様らしいですわね」


 エラは懐かしそうな顔で言ってからいたずらっぽい顔になった。


「でも、今みたいなお姿は初めて見ましたわ。私が知るヴィルヘミーナ様は」


「エラ」


 ミーナの冷ややかな一言に彼女は肩をすくめる。

 離れたところにいた子どもたちが思わず硬直したくらい静かな迫力があった。

 気まずい空気になりかけたところでバルが立ち上がる。


「ヴェンデルヘルト殿でしたか。案内をお願いしましょう」


「はっ」


 彼の言葉にヴェンデルヘルトはうやうやしい態度で応えた。

 どうやら彼に対して礼儀を守るつもりでいるらしい。

 ならばかまわないだろうと彼は楽観的に考えた。


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