39.石運び
バルは今日もまた仕事を請けている。
冒険者ギルドによる帝都近隣の安全調査は進み、八級以上ならば仕事を請けることができるようになった。
残念ながら彼には当てはまらず帝都の外には出ていけない。
(少しずつ元に戻っているのはいいことだ)
と思いながら彼は日常を送る。
今日の仕事は石運びだった。
何やら一等エリアで建物でも建てるのだろうかと思いつつ、彼は自分の頭よりも大きい石を二等エリアから一等エリアへ運ぶ。
「ふう、ふう」
本当は余裕あるのだが、そうは見えないように十分気をつけている。
はためからはおっさんが息を切らせながら、汗でぐっしょりになって石運びをしているのだから見苦しいだろう。
周囲は力自慢の男たちばかりだからなおさらだ。
この仕事にはあいにくと昼食は出ないから、自分で探さなければならない。
いつも世話になっているリタの店からは離れている場所で、しかも昼休み時間はあまりないから近くで探すしかなかった。
ただし、一等エリアはどこの店も価格が高く、二等エリアの住民がおいそれと入れるような店は珍しい。
「みんなはどうする?」
参考にしようとバルが仲間に聞いてみると、彼らはそれぞれ形も色も異なる包みをとり出して見せる。
「家から持ってきたよ。この辺は高いからな」
四十代の虎人族の男が言えば二十代の犬人族の若者がうなずく。
「一番安いところで銅貨二百枚だもんなぁ。高くて手が出せないよ」
「銀貨二枚なんて店もあるよな。メシ一食分で銀貨二枚……どういうもんが出て来るのか興味はあるが、自分で入る気にはなれねえよ」
牛人族の男が嘆くように言う。
「バルだっけ? 自分で持ってこなかったのは失敗だぞ。一食ぬいたほうがいいんじゃねえか?」
仲間たちは同情するような目を向けて来るものの、「何か分けてやろうか」とは言わなかった。
薄情なようだが、今日初めて会ったような男に何かを恵むほど余裕がある者は、そもそもこの仕事を請けていないだろう。
「何か考えるさ」
バルは肩をすくめて仲間たちに背を向けて歩き出す。
彼が何も持って来ていない理由は「ミーナの弁当など持って来れるか」で説明がつく。
ミーナは基本的に聞き分けがいいのに、食べ物については「バル様が召し上がるもので手は抜けない」と言い張る。
譲れない点を譲ってもらおうとまでは考えていないため、あきらめたのである。
光の戦神としての収入であれば一等エリアの店だって安いが、懐には銅貨しか入っていない。
(一食ぬくか、それともぬいたことにして何とかするか……)
光の戦神としての知り合いは何名かいるため、彼がその気になりさえすればメシくらい奢ってもらえるだろう。
さんざん迷ったあげく、結局バルは昼飯をぬいた。
空腹を満たすよりも、二等エリアで暮らしている自分を貫くほうを選んだのである。
愚かだと呆れるか、あっぱれな意地だと感心するか。
少なくとも事情を知ったヴィルへミーナは後者で、夕食は豪華にしてくれた。




