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37.相談する相手

 アドリアンが最初に相談する相手として選んだのはミーナだった。

 それだけであれば誰も驚かなかっただろうが、何と彼はバルが近くにいない時をあえて選んだのである。

 意外に思う者もいるのだが、ヴィルへミーナは八神輝としての勤務態度は非常に良い。

 三日に一度は必ず城に顔を出し、定期報告をして連絡事項を受けとっている。 

 彼女に対する不満が大きくならなかった理由のひとつだ。

 彼女にしてみれば滅多に登城しないバルのためにやっているのだが、周囲の評価はまた別なのである。

 今日の用件をミーナが済ませたタイミングを見計らい、アドリアンは彼女に声をかけた。

 場所は城の廊下で、彼は近侍の男性をひとりしか連れていない。


「ヴィルへミーナ、相談したいことがある。談話室まで来てくれないか?」


 ミーナが若い女性である以上、彼の私室に招くことにはためらいがある。

 クロードが彼女とバルの仲を勘繰っているのも同じ理由だ。


「分かりました」


 ミーナは素直にうなずく。

 皇族に対する態度はバルに注意されたし、談話室であれば大丈夫だろうと判断する。

 たまたま通りかかった侍従のひとりが驚いた顔を一瞬だけした。

 彼女のこれまでの態度は侍従たちにも有名だったのである。

 評判は「八神輝を鼻にかけたいやな女だ」と「皇族にも媚びないなんてカッコイイ」のふたつに分かれていた。

 それが今後は訂正される可能性が出たのである。

 アドリアンもミーナも侍従の様子など気にはしない。

 彼らにとって侍従など建物の壁や柱と大差ないのだ。

 ただ、盗み聞きされて情報が流出しては困るため、談話室に入ったアドリアンはミーナに言う。


「防音魔術を頼む」


「すでに展開しました」


 アドリアンは目を軽くみはり、ついてきた近侍は絶句する。

 彼らの常識からは考えられない速度であった。

 この美しいエルフも八神輝という規格外の存在なのだと彼らは実感する。

 

「相談とは万が一インヴァズィオーンが起こった場合についてだ」


 アドリアンは簡単に要点だけ説明し、彼女の意見を聞いてみた。


「何が足りないと思う?」


「そうですね」


 ミーナは即答を避ける。


(たぶん皇太子が周囲に助言を求める姿勢を作る、誰に何を聞けばいいのかを学んでいくというのが、皇帝の主な目的なのでしょうけど)


 言わないほうがいいのだろうなと彼女は思う。


「まずインヴァズィオーンが起こる場合と起こらない場合を想定すべきではありませんか? 起こると決めつけるのも危ういかと思います」


「あっ……」


 アドリアンは小さく声を漏らし、目を大きく見開いている。

 彼の中でインヴァズィオーンが起こるということがいつの間にか確定事項になっていたのだ。


「そ、そうだな。起こらない可能性もある。そうだった」


 目からうろこが落ちた皇太子に彼女は己の意見を述べる。


「まずは単純に情報関連の見直しをするのはどうでしょう? 敵の正体も本拠地も目的も不明だからこそ、現状があるわけですから」


「うむ……情報収集能力を優秀な者を集める、あるいは育てることも大切か。敵さえ分かればバルトロメウスに倒してもらえばよいのだからな」


 アドリアンの言葉と表情からは、光の戦神バルトロメウスに対する絶対的な信頼がうかがえた。

 ミーナも全く同感だったため、少しだけ表情をゆるめる。


「他に何か思いつくことはあるか?」


「いえ、ありません」


 皇太子の問いに彼女は首を横にふったが、これは嘘だった。

 彼女がいろいろと答えてしまっては皇帝が困るだろうと配慮したのである。


「他の者にも聞いてみてはどうでしょうか?」


「そうだな。そうさせてもらおう。時間をとらせてすまなかった」


 アドリアンは彼女の提案を素直に聞き、詫びと礼を言って彼女を送り出す。

 皇族とは思えぬこの人柄こそ、彼に人望がある理由のひとつなのだろう。

 彼女はまっすぐ自宅に帰らずにバルの自宅に顔を出して、今日のことを報告する。


「八神輝の定期会議は特に何もありませんが、皇太子から相談されました」


「次期皇帝の教育が始まったということかな」


 彼女に教えてもらった彼はそう感想を持った。


「下の者に助言を求めることに抵抗がない皇族というのは、なかなか珍しいですね。皇帝以外にいるとは思いませんでした」


「アドリアン殿下とベアーテ殿下くらいだと思うがな。そういう性格は」


 バルは皇太子以外に末の皇女の名前を挙げる。

 他の皇帝の子どもたちはリュディガーほどひどくないが、やはり高貴な生まれだという自負が強くてプライドが高い。 


「そう言えばまだベアーテ皇女とは面識がありませんでした」


 ミーナは庭にアリがいることに気づかなかったような態度で言う。

 大して興味もないのだろうとバルは知っているが、それではいざという時に困るのも事実だ。

 八神輝に女性はふたりしかいないのだから。


「今度顔合わせをしよう。ベアーテ殿下は喜ぶだろう」


「分かりました」


 彼の言葉をミーナは拒絶しなかった。 


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こちら新作になります。よろしければ下記タイトルからどうぞ↓

『神速詠唱の最強賢者《マジックマスター》』

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