決戦
本日戦神7巻発売です。
よろしくお願いします。
バルはミーナと二人で中央大陸に乗り込む。
「ひどいな」
彼が顔をしかめたのは、死の大地と変り果てた光景が広がっているからだ。
草は枯れ、土は赤黒く変色し、人の建造物は破壊され尽くしている。
人はもちろん、鳥や虫、小動物の姿すらどこにもない。
生きとし生けるものすべてが滅ぼされたようだった。
「魔軍に制圧されれば、帝国もこうなるわけだ。負けるわけにはいかないな」
バルは気合を入れた声を発し、ミーナは小さくうなずく。
「敵の方向はわかるか?」
「ええ」
バルの問いにミーナはもう一度うなずいた。
彼女の魔術で彼らはアビスが本拠を置いている場所に移動する。
「来たか」
アビスは驚くことなく彼らを出迎えた。
彼の見た目は人間と変わりなく、ただ内包する魔力の多さとおぞましさが別次元だった。
その近くには元帥が一体、将軍が二体ひかえている。
離れた位置には彼ら直属の兵士が六万ほど存在していた。
アビスや元帥とは違って、将軍たちはぎょっとしている。
「飛んで火にいる夏の虫という言葉が、地上の人間の言葉にあるそうだな」
アビスは意外と物知りなところを見せた。
「貴様らがそうだと思わないのか?」
「思わないな」
彼の問いかけにバルは即答する。
「わざわざ死にに来たのは貴様たちだろう?」
とミーナも言う。
バルはリミッターを四つ外し、彼女は杖を首飾りを装備する。
「ほう……元帥でも相手にならないのは、誤報ではなかった」
アビスは目を丸くし、元帥は息をのむ。
「神霊召喚・六連」
先手を取ったのはミーナで土、水、風、雷、火、光の神霊を同時に召喚する。
「神霊召喚!? 六柱同時だと!?」
「公爵以外は私が相手をする。バルトロメウス様の邪魔はさせん」
ミーナに魔力を供給された神霊たちがそれぞれの攻撃で、アビス以外の魔界の民を一気に薙ぎ払う。
「大したものだ。私の取り巻きを一掃するだけではなく、貴様が負けた時の備えでもあるとみた」
アビスの冷笑まじりの発言を、バルは否定しなかった。
そして光をまとって地を蹴る。
絶影。
影すら敵に認識させないほどの速度を誇るスピードに、アビスは笑う。
「見事!」
バルの一撃を彼は左手で受け止め、右拳で応戦する。
そして拳の先からは黒い光線が放出され、遠く離れた雲を突き破った。
「どうやら戦闘スタイルや特技が似通っているようだな」
とバルは言った。
「そうなのか、楽しみだ!」
アビスは応えて跳躍する。
バルが閃光なら、アビスは黒い閃光とでも言うべきだろうか。
速さも速度も互角で激しい攻防がはじまる。
「リミッターを四つも外したバルトロメウス様についていけるとは」
ミーナは魔軍を神霊たちで薙ぎ倒し続けながら、驚嘆していた。
今のバルなら、元帥を複数同時でも相手にならないほどの強さだろう。
「魔界の公爵……私では勝てるかわからないな」
魔軍を文字通り全滅させたミーナは、魔力の消費を抑えるため召喚を解除してポーションを飲む。
アビスが感づいていたように万が一バルが敗れた場合は、彼女が彼を倒すのだ。
ミーナ自身バルが負けるとは思ってはいないが、それとは別に備えは必要である。
光と闇のぶつかり合いはやがて一度離れて、二つの影になった。
「まさか地上の生命体に私と互角に戦える者がいるとはな……たしかに貴様は地上最強の名にふさわしい。
褒めてやるぞ」
アビスはどこかうれしそうにバルを称える。
「余裕だな」
バルがいやそうに言うと、彼はうなずいた。
「当然だろう? 貴様の動きは見切った。もはや貴様に勝機はない」
アビスはそう言うとスピードをあげた。
「くっ……」
バルはとっさに防御するが、怒涛の連続攻撃に防戦一方になる。
「私の攻撃をここまで防ぐとは! 大したものだなぁ!」
アビスの攻撃はより速く、より重くなっていく。
「貴様はたしかに強い。だが、しょせんは人間にすぎぬ。それが貴様の限界なのだ!」
とうとう彼の攻撃がバルの防御をくぐりぬけ、顔に命中する。
バルは吹き飛ばされたが、くるりと一回転させてきれいに着地した。
「とっさに後ろに飛んで威力を殺したか。基本だが、私を相手に成功させるとは見事だ」
アビスは上から目線で彼を称賛する。
「これが公爵か……元帥とは格がはるかに違うと感じる強さだな」
「力の差に気づいても、もう遅い! 貴様はここで死ぬのだ!」
アビスは勝ち誇って笑みを浮かべた。
バルは視線を公爵から外して言った。
「ミーナ」
「はい」
バルの呼びかけに応えて、ミーナは一つの宝石を彼に投げ渡す。
受け取ったバルはつぶやいた。
「リミッター、解除」
「何!?」
「いつからバルトロメウス様が全力だと錯覚していた?」
驚くアビスに、ミーナが侮蔑を含んだ問いを放つ。




