マーズリー元帥
マーズリー元帥の下には各地の敗報が届いていた。
「帝国軍の頑強な抵抗に手を焼いていると思ったら、ここにきて一斉に撃破されはじめたか」
「八神輝が出てきたのだと思われます」
と側近のギーム将軍が言った。
「だろうな。全員が私と戦える力があるのか知らんが」
マーズリー元帥は落ち着いている。
彼は自分はゲパルドゥよりも強いと自負していた。
「ゲパルドゥの奴、結界をくぐった直後を狙われて不覚をとった可能性もあるからな」
とつぶやく。
この考えは実のところマーズリーだけのものではない。
万全な状態の元帥が地上の存在に一対一で敗れるはずがない、という信仰じみた考えは魔軍に多い。
それだけ彼らは信頼されていたし、今のところ人間相手の戦いでもそれを証明していると思っていた。
「本当に我ら元帥と戦える戦力があるなら、ここまで一方的に押し込めるはずが……うん?」
マーズリーは己の直感に従い、とっさに後ろに跳躍する。
直後、彼がいた場所に強烈な光の柱が降り注ぐ。
彼が率いていた直属の軍団は跡形もなく蒸発していた。
「将軍と雑兵をまとめて片づけるとは……バルトロメウスか? それともヴィルヘミーナとやらか?」
「後者だ」
ミーナは無表情で答え、ゆっくりと着地する。
「エルフの女か……バルトロメウスとやらはなぜ出てこない?」
マーズリーは理解できないという顔で彼女に問いかけた。
「元帥クラスが複数存在した膨大な戦力が投入されていて、しかも統制が取れているとなると、総大将は公爵がいるのだろう?」
ミーナが淡々と聞き返す。
質問に質問で返されたマーズリーは怒らなかった。
彼女が言いたいことを察したからだ。
「なるほど、たしかに我らがトップにはアビス公爵がいらっしゃる。……ははは、つまりアビス様と戦うために温存してるということだな?」
だが、笑いながらも彼は怒りだす。
「貴様ら風情が舐めてくれたものよ。地上最強とやらなしで、このマーズリー元帥を倒せると思ったのか?」
彼はただ魔力を発しているだけなのに、突風が発生して地面が揺らぎ始める。
「さすが元帥。私かクロードでなければ一対一で戦うのは困難だろうな」
ミーナはつぶやくと魔術を使い、虹色の宝石がはめ込まれた金色の杖を取り出す。
「空間魔術に、その杖……なるほどな」
杖の力とミーナの力量を感じ取ったマーズリーは落ち着きを取り戻した。
「自信過剰というわけでなさそうだな。では、貴様の首をはねて帝国の首都に送り届けてやろう。バルトロメウスを温存したことを、
後悔するようにな」
赤いまがまがしい魔力が無数の円錐へと変化していく。
「お前ごときがバルトロメウス様と戦えると思うな」
ミーナは笑って杖をかまえる。
「ハーゲルシュペルテン!」
「神霊召喚」
マーズリーは自身の魔力を無数の弾丸に変え、死の嵐の具現化する。
対するミーナは土の神霊を呼び出して、堅牢な土の盾をもって防ぐ。
「ほう、神霊を呼べる魔術師がこの時代にもいるか!」
単なる土でマーズリーの技は防げない。
神の名を冠する大精霊の力があってこそだ。
「神霊召喚」
ミーナはさらに雷の神霊を呼び出し、無数の雷光でマーズリーを攻撃させる。
「ほう!? 二柱めか!」
マーズリーは雷光を浴びつつ笑った。
「見事だが、ぬるいな。神霊はささげられた魔力の分しか力をふるえん。この程度で俺を倒すのは無理だぞ?」
将軍や軍団長が蒸発し、大都市を荒野に変えるほどの一撃も、彼にとっては「痛い」程度でしかない。
「これが元帥か……」
ミーナは舌打ちする。
彼女が想定していたよりもこのマーズリーは強い、というかタフだった。
「仕方がない。貴様相手にてこずってる場合じゃない」
彼女はそう言うと空間魔術を使って今度は首飾りを取り出す。
七種類の色の石がつけられたもので、それを彼女がつけた瞬間、絶大な魔力が生まれる。
「な、なん、だと?」
マーズリーは初めて動揺した。
「この首飾りは私の魔力が封じられている。これをつけ、杖を持つことによって私は本来の力を発揮できるのだ」
「ば、ばかな」
ミーナの説明を理解することを、彼は拒絶したくなる。
「光栄に思え。私がフルパワーで戦うのは、バルトロメウス様以外では貴様が初めてだ」
本来の彼女の魔力を供給された二柱の神霊は、それぞれがマーズリーよりも強大な存在感を放っている。
「し、信じられ」
マーズリーはそう言い残し、神霊たちの攻撃で完全に消滅した。
彼が滅びたことにより、帝国方面軍は文字通り全滅し、帝国はひとまず窮地を脱出した。
7巻が2月1日発売予定です
よろしくお願いします




