魔軍VS十六柱傑
三つの主要都市を目指す魔軍の前に、それぞれ十六柱傑を主将にした王国軍が立ちはだかる。
ルバロンを大将にした魔軍はシャールの前で軍神、武神、剣神が率いる六万と対峙した。
「まだ六万ほどを動かせたのか。動員兵力は大したものだな」
ルバロンはもともと敵をあまり軽視しない性格なので、素直に王国を賞賛する。
もっとも部下たちはそうもいかない。
ここまで連戦連勝であり、自分たちのほうが数も多いということもあって完全に見下していた。
「ルバロン様、あいつらごとき蹂躙してやりましょう」
ルバロン直属の軍団長が積極的攻勢を進言する。
「だが、今回の戦いがすべてじゃないぞ。あくまでも俺たちの目的はこの大陸の制圧だ」
ルバロンは慎重なのではなく、大陸制圧に必要となる貴重な戦力をいたずらに消費したくないと思うのだ。
しかし、部下たちはそれが面白くない。
彼らにとって平の兵士たちは時間が経てばいくらでも増やせる消耗品だった。
消耗品は使い捨てるのが正しい使い方だというのに、惜しんでどうするというのか。
もっとも彼らの総大将ルバロンは、グラオザーム元帥の信頼が厚い将軍である。
堂々と逆らうわけにもいかない。
「軍団長たちを先鋒に立たせろ。圧倒的な力の差で、一気に勝負を決めてしまえ」
とルバロンは指示を出す。
彼は人間も魔界の民と同様、指揮官の強さと士気が大事だとこれまでで学んでいた。
「はは!」
伝令は駆けて軍団長たちにルバロンの命令を伝える。
軍団長たちはいずれも魔界の時からルバロンの配下にいた猛者で、さすがに敵をむやみに軽視することはない。
だが、同時に自分たちが有利だと信じて疑わなかった。
「ゆくぞ!」
「おおおおお!」
ガズーとラズーがまずは先頭に立って六万の軍勢が進撃する。
迎え撃ったのは武神と剣神が率いる四万だった。
当然のごとくガズーと武神、ラズーと剣神が激突する。
「ここでお前を殺して形成逆転だ!」
「やってみろ、人間が」
武神はあらゆる武器を一流レベルで使いこなす、戦闘の達人だ。
今回は馬の上ということで槍を握っている。
一方のガズーは四本の腕を持つ黒い虫のような異形で、四本の腕すべてが鋭利な刀剣だった。
距離が詰まればその時点で自動的にガズーの勝利は決まると、武神は槍の猛攻撃で異形の突進を阻む。
「……やるな、人間!」
これほどの使い手がいるとは、とガズーは感心する。
そこから五十馬身ほど離れたところで剣神とラズーが激突していた。
彼らはどちらも刀剣の使い手で、馬上にいる剣神のほうが有利と思いきや、最初の攻撃であっさり馬を殺されてしまう。
「言っておくが、俺は馬から降りたほうが強いぞ?」
「俺には変わらんことだ」
ラズーは勝ち誇るわけでもなく、淡々として言って斬撃をくり出す。
彼らが関わらないところでは魔軍のほうがずっと優勢だった。
数の利もあるし、個々の力でも王国軍に勝っている。
だが、その流れに待ったをかける出来事が生まれた。
五十合に及ぶ切りあいの末、剣神がラズーの首をはね飛ばしたのである。
「敵将、この剣神が討ち取った!」
「ば、馬鹿な……ラズー軍団長が、人間に負けるなんて」
ラズー配下の魔物たちは驚愕し、動揺し、一気に逃げ腰になってしまう。
「おおおお!」
「さすが剣神様だ!」
対して苦しい戦いを続けていた王国軍の兵士たちは、一気に勇気づけられる。
剣神と一緒に戦えばきっと勝てるとすら思えた。
「さあ、押し返せ!」
剣神の号令に従って、王国軍兵士たちは再び前進する。
もう一つの戦場では八十合の打ち合いの果てに、武神の槍がガズーの頭部を貫いた。
崩れ落ちた軍団長の姿に仰天する魔軍に向かい、武神は勝ち誇りながら叫ぶ。
「敵将はこの武神が討ち取った! 皆殺しにしてやれ!」
「うそだろ」
「ラズー軍団長に続いて、ガズー軍団長まで」
「ひい」
自分たちを従える軍団長の強さを知っていて、勝利を疑っていなかった魔軍は一気に怖気づく。
形勢はすっかり逆転し、王国軍が有利な展開になる。




