表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

130/141

崩壊のはじまり

 中央大陸では度重なる魔物の襲撃に少しずつ疲弊していく。

 他大陸に救援を求めたが、残念ながら来なかった。


 魔界扉が開いた後の【魔界の民】の侵攻の撃退に成功したからである。

 これによって頑張れば撃退できる程度の脅威とみなす者が増えてしまったのだ。


「あれは先遣隊かもしれない。将軍クラスと我らは交戦しなかった」


 中央大陸はそう主張したが礼儀正しく無視された。

 世界最強とみなされるある帝国には救援要請を送らなかった影響も大きい。 


 帝国から八神輝を送ってもらったらという意見も出たのだが、結局却下された。

 国力でも軍事力でも圧倒的に優位に立つ帝国の侵略を警戒したのだ。


 現在の皇帝は野心がない男と言われているが、本当のところはわからない。

 ギリギリまで牙を見せない狡猾な男かもしれない。


 そもそも大国の統治を善意だけでできるだろうか?

 そんな声が多数を占めたのだった。


 

 そうした結果、再び【魔界扉】は開く結果が生まれる。

 神々の結界は【魔界の民】の思惑通り、ゆるんでいたのだ。


 今回も撃退しようと中央大陸の兵は思ったが、すぐに真っ青になる。


 魔界の軍勢の先鋒はグラオザーム元帥直属の将軍ルバロン。

 そして次鋒にはグラオザーム元帥が直接出て来た。


「クハハハ、ここが地上か! これが太陽のぬくもりか!」


 グラオザームは笑いながら周囲を見回し、配下たちに命じる。


「人を殺せ。城を破壊せよ。瘴気をまき散らせ。そうすればアビス様が地上に降臨できる」


「はは!」


 彼らの数は合わせて一万程度だが、マーズリー配下ヒルゲンのアイデアで特殊な能力を持つ者たちが揃っていた。

 

「でははじめろ!」


 ルバロンの号令にあわせて、魔物たちはいっせいに卵を産み落とす。

 そう、彼らは魔物は単一繁殖型で魔力があればすぐにでも卵を産める能力持ちばかりだった。


 それによって一万の軍勢はたちまち数万に膨れ上がる。


「地上侵攻の拠点を作るくらいなら、この程度でよかろう。ルバロン一万の軍勢をあずける。貴様が先頭に立って手ごろな拠点を攻め落としてこい!」


「はっ!」


 

 グラオザームの命令でルバロンが前に出て、一万の軍勢と三人の軍団長がつき従う。


「残りの者は魔力が回復次第、どんどん卵を産んでいけ。十万以上の兵力にするのが当面の目標だ」


「はは!」

 

 これもまたヒルゲンの作戦である。

 【魔界の魔物】は元々個々の能力で平均的な人よりも強い。


 ならば大量に数を揃えて物量で優位に立てば負けるはずがないというわけだ。


「何ともつまらぬ作戦だが、アビス様に採用されている以上は成功させねばならぬ」


 グラオザームは真剣な声を出す。

 さすがに元帥は簡単に代わりが見つかる存在ではないので殺されはしないだろうが、降格と半殺しくらいは覚悟しなければならいだろう。


 その程度の罰ですむあたり、アビスが「四公爵の中で最も温厚」と言われる理由だった。



 グラオザームの命令を受けたルバロンは部下を置き去りにしないよう気をつけながら前を疾走する。

 今回の配下は繁殖型主体であるため、探索能力は低めだった。


「まずは丈夫そうな城か砦を見つけねばな。前回出撃した奴らが壊していなければよいのだが……」



 【魔界の民】の中には建築や工作を得意とする者たちもいるのだが、今回は連れて来れない。

 数を量産することに重点を置いた編成だから仕方ないとルバロンは思う。


 やがて彼はある砦を見つけた。

 彼は知らなかったが、【魔界の民】の侵攻を受けた中央大陸の王国が、費用を投じて急いで建築したものだ。


「ほほう。なかなかよさそうだ。あれを頂くとしよう」

 

 今の彼の配下たちは繁殖型であるため、失っても痛くないのが今回の作戦の優れているところだろう。

 実のところ将軍クラスまでなら割と代替はきくため、ルバロンとしては失敗したくはない。



 ルバロンが先頭に立って攻めこむと、気づいた見張り兵が大きな声を出した。



「て、敵襲! 敵襲だ! 魔物の軍勢が攻めて来たぞ!」


 砦に常駐していた一万の軍勢はただちに防衛準備を整える。

 だが、ルバロンは彼らの対応よりも速かった。


「扉くらいは壊してもよかろう! 『ビックショックインパクト!』」


 ルバロンは魔界の将軍という地位にある高位の魔物だ。

 彼が魔力を込めて衝撃波を放てば、鉄の扉くらいは簡単に破壊できる。


「何! 一撃で!?」


「技名を叫んでいたし、まさか上位の魔物では?」


 兵士たちの間に緊張が走る。


「きゅ、救援要請を! ここが抜かれたらまた町が蹂躙されてしまう!」


 砦将が叫び、一人があわてて魔術具を空に撃って、緊急事態を遠くに知らせた。


「何だ、今のは?」


 ルバロンは何が起こったのかよく理解できない。

 だが、彼の本能が砦の制圧を急がせる。


「殺せ!」


 砦の中で人と魔物がぶつかり合うが、結果は一方的だった。 

 一般兵が百人いようともルバロンの相手にならない。


 彼の攻撃射程距離に入った者たちはまとめて斬殺されてしまう。


「つ、強さのレベルが違う……高位の魔物だ!」


 怯えて逃げ出す兵士もいなかったが、ルバロンは追わなかった。

 逃げない兵士たちを殺してしまえば砦の制圧ができるのだ。


 初戦は魔界の軍勢の勝利に終わる。

 魔物たちは五百ほど兵士たちに殺されていた。


 ほとんどルバロンの力で勝ったようなものだった。


「集団戦闘となると人間どものほうがやや上か」


 ルバロンはうなるが、被害は許容範囲だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちら新作になります。よろしければ下記タイトルからどうぞ↓

『神速詠唱の最強賢者《マジックマスター》』

― 新着の感想 ―
[一言] 更新待ってました! これからも頑張ってください!
[良い点] 待ってました! [気になる点] 久々だったので所々忘れてるところがあるのでもう一度読み返してきます。
[一言] > 怯えて逃げ出す兵士もいなかったが、ルバロンは追わなかった。 逃げてない者を追わないとはこれいかに
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ