124.八神輝クロード
八神輝クロードは伯爵家に生まれたれっきとした貴族だ。
シドーニエとは違い正妻の三男坊で、もしもの際は当主になる権利も持っている。
しかし、本人にその意思はない。
伯爵家当主よりも八神輝の方が立場は上だし、名誉も権限も上だ。
それにクロードは家から出るつもりで、剣の道を選んだのである。
帝国が広大な領地を持つ大国と言っても、家の事情は他国とほとんど変わらない。
正妻の長男が跡取りとして教育され、次男は予備として育てられる。
三男以下は兄の家臣になるか、それとも己の才覚によって道を切り拓くかの二択だ。
クロードは帝都でメジャーな流派の門を叩き、たちまち頭角を現した。
十七の時に免許皆伝を与えられ、十九の時は道場はもちろん帝都内で屈指の実力者として名を轟かせた。
そして武勲を重ねて八神輝の一角に迎えられたのである。
兄たちは少し複雑そうだったが、両親は大いに喜んだ。
八神輝とは帝国が誇る最大戦力であり、場合によっては皇族すら拘束できる立場だ。
息子がその一角に名を連ねたのだから、喜ばないほうが不自然とも言える。
そんなクロードは民衆はもちろん、貴族たちからも声望を集めていた。
貴族の家に生まれ、貴族として一通りの教育を受けた男は、やはり貴族たちには親しみやすい。
エルフのヴィルヘミーナ、孤児のバルトロメウス、冒険者あがりのマヌエルらは彼らにとって理解できない存在だ。
妾腹の子のシドーニエ、下級貴族の子のヴィリーも彼らとは別の生き物である。
「そんな考えだから、私が板挟みにされるわけだが」
クロードは一人ぼやく。
八神輝は強さがすべてではないが、強くなければ務めることができない。
その程度のことは理解してもらいたかった。
「まあいい」
クロードは立ち上がり、武装して敷地の外に出る。
「クロード様、お出かけですか?」
「ああ。練武だ」
クロードの言う練武とは魔物と戦うことだ。
基本的に冒険者たちに投げているが、時おり彼が間引きをする。
冒険者たちの負担を軽減しつつ、クロードの実戦勘がなまらないようにというイェレミニアスの配慮だ。
こっそりイェレミニアスから受け取った情報を手に、彼は移動する。
クロードは剣士だが、補助系の魔術はいくつか使いこなす。
彼がやってきたのは帝国の西方で、砦や人里から遠く離れた未開拓の森林だ。
ここには同じように間引きを依頼された冒険者たちがいることだろう。
イェレミニアスの情報には、冒険者への依頼で出ていることも記されている。
つまりそれ以外のことならばやってもよいということだ。
(とりあえず誰もいないところへ)
八神輝が魔物の間引きをやっていることは別に秘密ではないが、目撃されてもよいとは思わない。
クロードはできるだけ奥に行き、獰猛そうな気配のほうへと寄っていく。
そして体長が五メートルほどのメタルワームと遭遇する。
「メタルワームか」
メタルワームは子どものころから鉱物を食べ続けた結果、皮膚が鋼鉄のように固くなった魔物だ。
通常の武器では傷一つ負わせられず、魔術による攻撃で撃退するしかない。
準備なしでは一級冒険者ですら苦戦するほどの魔物である。
クロードはなめらかな動作で剣を抜き、そして斬って鞘にしまう。
この間の時間は約百分の一秒だ。
メタルワームの体が上下にズレ、赤い血しぶきがほとばしるまで一秒以上かかった。
剣が通らないはずの自分の体が真っ二つにされたと理解するヒマすらなく絶命する。
【音越え剣】。
音速に到達する斬撃をもって敵を屠る強力な技だ。
一級冒険者にとって最強の奥義になるこの技を、クロードはただの基本として使う。
彼に補足された魔物たちは、自分たちが斬られたことも知らぬまま、どうやって死ぬのかも気づかぬまま死んでいく。
これが帝国最強の剣士。
《剣聖》クロードである。
「メタルワームが死んでるぞ!?」
驚きの声が聞こえたので、彼はそっと転移魔術でその場を去った。
「斬り口的には一太刀でか。そんな馬鹿な……特級冒険者でもいたのか?」
残された冒険者たちは疑問を浮かべたが、答えはわからない。
「上司に理解されず嫌われた最強賢者~」という新作を始めてます。
よかったらご一読ください。
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