123.鬼将軍ウーヴェ
ニコニコ静画とコミックウォーカーでコミカライズの連載がはじまってます。
よければ見てみてください。
ウーヴェの再登場によって、帝国騎士団は再び引き締められた。
ヴァインベルガーが優しい将軍だったかと言うと別にそんなことはないのだが、ウーヴェはまた違う。
落ち着いた物腰から放たれるけわしい眼光は、浴びせられる部下を極寒の世界へといざなった。
老いたりと言えども、生半可な者に出せる迫力ではない。
さらに騎士たちを精神を圧迫するのは、ウーヴェこそが《剣聖》クロードの師匠であるという事実だ。
その師弟は闘技場で向かいあっていた。
「ウーヴェ様」
と呼びかけたクロードに対して、ウーヴェは冷淡に応じる。
「私はもう職がなく、お前は八神輝だ」
「それでも大恩あるわが師に違いございません」
クロードは敬意をこめて言う。
彼にとって皇帝の次に尊敬する人物だった。
「私やユルゲン殿が呼ばれるとは不甲斐ないと最初思ったが、それだけ差し迫った事態が起こりうると聞かされた」
「はい。インヴァズィオーン……懸念ですめばよいのですが」
クロードは顔をくもらせる。
「一度あったことだ、二度目があると思っておけ」
ウーヴェは淡々と言う。
「はい。陛下もそうおっしゃっています」
「だろうな。私たちを同時に呼び寄せたのは、お前たちに喝を入れるだけではあるまい。私たちのさび落としもだろう」
ウーヴェの感情のない言葉を聞き、クロードは嘆息する。
「やはりですか」
ウーヴェにこの場に呼び出された時点で、彼は要求を予想していたのだ。
「ああ。剣を抜け、クロード。世界最強の《剣聖》と言われるまでに至った今のお前の力を見せてみよ」
「世界最強かは定かではありません。何しろ私は他の大陸に行ったことがないもので」
「理屈が増えたな、クロード。まさか私よりも老いぼれたとは言うまい」
とウーヴェは辛らつな言葉を吐く。
彼はクロードよりも二十歳近く年長だ。
そんな人間に老いぼれ呼ばわりされると、さすがにクロードもムッとする。
「ではお覚悟を、師よ」
「馬鹿め。お前のほうが今は強いことくらい、私はよく知っている」
ウーヴェは冷静に応じてスラリと剣を抜いた。
相変わらずまったく隙がない美しい動作だ、とクロードは思う。
このウーヴェに師事しなければ、はたして自分は《剣聖》と呼ばれる境地に到達できただろうか。
二人は同時に地面を蹴って剣をかわす。
クロードの剣は雷のように速く強烈な一閃で、ウーヴェの剣は流水のようになめらかで美しい線を描く。
力でも速さでもクロードのほうが上だ。
しかし、ウーヴェは自らのものよりも速くて強烈な斬撃をたくみに受け流す熟練の技巧がある。
十合、二十合と切り結び、二人の剣士は少しでも有利な位置取りを試みた。
「相変わらずとんでもないお方ですな」
クロードは感嘆の言葉を漏らす。
剣の達人同士ともなれば、相手よりも有利な状況を作り出せるかどうかが勝敗で大事だ。
ウーヴェはクロードを相手にしてそれをさせてくれないのである。
クロードがどうしたいのか、すべてを見透かすような動きでクロードの狙いを封殺してしまう。
ウーヴェが屈指の達人だという明白である。
「相変わらず読みやすいな、クロード。好敵手はバルトロメウスとヴィルヘミーナくらいだと、慢心していたか?」
とウーヴェは言った。
「……」
クロードは痛いところを突かれて言葉に詰まる。
本人に自覚はなかったものの、改めて考えてみれば否定できないところだった。
バルトロメウスは最強である。
ヴィルヘミーナも反則的に強い。
この両名を意識するなというほうが無理だろう。
「見たところマヌエル、シドーニエもなかなかやる。将来は明るいな」
「ありがとうございます」
クロードは礼を言った。
ここでいやみや皮肉を言うウーヴェではないと、彼は知っている。
「だが、インヴァズィオーンが再来するとなれば、どれだけ戦力があっても足りぬ」
「ごもっとも」
彼らは会話をしながら、三十合、四十合と打ち合う。
展開はまったくの互角で、クロードとしては戦慄せざるを得ない。
ウーヴェは実力的には八神輝となれるはずなのに、それを蹴って将軍の座を守ったということは知っていたはずだが。
「ここまで衰えぬとは、いやある意味昔よりもお強い?」
「日々修行である。お前たちに言っていること、私が実践していないとでも思ったか?」
ウーヴェが言ったことの意味を、クロードは理解した。
日々たゆまぬ鍛錬を続け、心に隙を作ってはならないとウーヴェの言葉である。
つまり、ウーヴェは引退したあともずっと鍛錬を続け、己の力を磨き続けていたということだ。
「苦言をいうなら、戦力増強は大事かもしれんが、外交努力で友軍を増やすべきだろう。これはお前に言っても詮無きことだが」
「ごもっとも」
クロードは同じ言葉を繰り返すが、今度は苦みが強い。
帝国は外交があまり得意ではないと、彼も感じていることだ。
友好関係にあると言えるのは、エルフのシュタルク・オルドヌング以外、商国くらいだろうか。
「むしろ宰相を叱り飛ばすくらいのほうがよさそうだ」
とウーヴェは切り上げる。
この方ならやりかねないな、とクロードは思う。
二人の決着はやがてついた。
九十合を切り結んで、ついにクロードがウーヴェの剣を飛ばしたのだ。
「私の勝ちですな。……まったく勝った気がしませんが」
「快勝、完勝というやつは本来めったに味わえるものではない。勝ちは勝ちだと覚えておくがよい」
負けても堂々とウーヴェはクロードをさとす。
その態度が実にさまになる男だった。




